雨とお遍路
知清公園キャンプ場にて、6時起床。エーデルワイスが大音量で流れ、目が覚めた。地方の公園では、朝、スピーカーから音楽が流れてくることが多い。これがうるさいかと問われたら答えはノーで、目覚まし時計の電子音とは違い、心地よく目を覚ましてくれる。
テントの外を見ると、雨。本日の午前中は、雨の予報。テントの中でゆっくりしていようと考えていたが、朝食を食べ終わる頃には雨がやんだ。これなら出発できると出発準備を始めたところで、また雨が降ってくる。雨がやんだらすぐにでも出発出来るように、テントを撤収し準備だけはしておく。
雨は小雨ながらも降ったりやんだりを繰り返す。雨の中は出来るだけ走りたくない、自転車乗りならみんな思うことだろう。例えレインコートを着たとしても、中が蒸れてしまい、汗でびしょ濡れになってしまう。またブレーキの効きが悪くなり、下り坂での危険度が増す。おまけに景色を堪能することも出来ないし、雨中走行はメリットが何もない。雨がやんだら出発しよう。
出発のタイミングを見計らっていると、昨日声をかけてくれたおじさんがまたやってきた。心配してくれているのだろう。出発するかどうか聞いてくるので、ちょっと迷っていると返答。午後からは雨はやみそうだが、どこまで進めるか、どこで泊まれのるか。そんな疑問を話した。
そうするとおじさんは、次の道の駅は泊まれる、その先の道の駅は地元の人がうるさいといった情報や、地図には載っていないような遍路小屋のある場所を教えてくれる。ネットでは得ることが出来ない、地元ならではの情報。
20kmほど先にある次の道の駅は、屋根のある休憩所があり、そこに泊まるお遍路さんも多いとのこと。ずっと同じ場所でいるよりは、雨がやんだらそこまで進んで、また次を決めればよいかと考える。一番の不安は、その先に標高600mほどの峠越えがあること。雨の中のチャレンジは、特に下りが不安だ。状況を見て判断しようと。
おじさんは東屋にいるお遍路さんがベテランなので、くわしく聞いてみたらとも。しかし、ベテランのお遍路さんはちょっと近寄りがたい。自身のコミュニケーション能力のなさもあるが、托鉢遍路や職業遍路と呼ばれる、お遍路で生活している人に対する偏見も少しあった。東屋にいるお遍路さんが、どういった人なのかわからない。ただ、こちらからは話しかけたいとは思わなかった。
8時20分頃、雨がやんだタイミングで出発することにする。20kmほど先の小田の道の駅が、とりあえずの目標。ここからは久万高原へ向かっていく道なので、キツい上り坂が待っているかもと思っていた。いつキツい斜度の坂道が現れるのか、ビクビクしながら進む。しかし川沿いを走る国道は、斜度のキツくない緩やかな上りが続いた。
途中、雨が降りだし、さらに雨脚が強くなってくる。走っていると遍路小屋が見えたので、緊急避難。しばらく様子を見るも、なかなか雨はやまない。レインコートを着てでも、出発するか迷う。しかし蒸れてびしょ濡れになるのは嫌だ。すぐにでもお風呂に入ることが出来るなら喜んで出発するが、そのような環境ではない。もう少し様子を見ることに。
30分ほど待っていると、少し雨脚が弱まった。これくらいならレインコートを着ずとも、撥水効果のあるウインドブレーカーで防げるだろう。出発することにした。しばらく進んで道の駅の手前でまた雨脚が強くなるも、なんとかずぶ濡れになる前に到着。ひと息つくことが出来た。
こちらの道の駅で、この先のことを考える。
まず問題はこの後にある標高600mの真弓峠。現在の標高は200mくらいなので、11kmほどで400m上ることになる。これくらいの距離があるのなら、めちゃめちゃ斜度がキツいということはないだろう。ただ峠道を雨降る中行くのは、スリップだとか視界が悪くなるだとかもあり、避けたいところだ。
しばらくすると、雨は小雨になる。スマホのアプリで雨雲を確認すると、この後特に強く雨が降りそうな雲はない。これなら進んでもよいかと思ったところで、また強めの雨が降ってきた。スマホのアプリも、あまりアテにはならない。しばらくは降り続きそうな雲行きなので、それならばちょっと早いが、腹ごしらえをすることに。
道の駅の横にうどん屋さんがあったので、うどんを食べることにした。道の駅ではお弁当を売っているのだが、雨に打たれて体が冷えたのか、温かいものを欲した。小田ではたらいうどんが有名とのことだった。たらいうどんは、旅の2日目にすでに食べたことがあるし、つけ汁で食べるよりは、しっかりした出汁で食べたいなと、肉うどんを注文。細めの麺はつるつるっと食べられ、のどごしが良い。長崎県の福江島で食べた、五島うどんに似ているかなと思った。温かい出汁を飲み干すと、すっかりと体が温まった。
早めの昼食を終えた後は、休憩所で雨の様子を見ることにする。こちらの休憩所はしっかりとした屋根があり、テーブルとベンチが並んでいる。キャンプ場で教えてもらった通り、ここなら寝袋だけで寝られそう。もし雨がやまなければ、ここで寝ることになるかもしれない。それなら道の駅の向かいにある、町の施設に図書館があるようだし、そこで時間を潰そうかとも考える。
小1時間くらいたっただろうか、雨がやんだ。雨を降らせるような雲も途切れたよう。このタイミングだと思い、出発。真弓峠へのチャレンジが始まる。
それほどキツい斜度のところは無く、そこそこの斜度がずっと続く感じ。七子峠の長いバージョンといったところか。歯長峠よりも上るのは楽だ。ギアを一番軽くして、ひたすらペダルを回し続ける。斜度の緩くなったところで休憩をとり、息を整えてはまた進む。雨はもう降っていないが、吹き出した汗で服はベトベトだ。
峠の終わりにはトンネルがあり、その手前には遍路小屋があった。自転車を停めて、ここで休憩。ジャージを脱いで汗を拭く。冷たさの残るジャージをそのまま着て、下りに備え、ウインドブレーカーを羽織る。補給食をとり、しばらく休憩をしていると、雨がまた強く降ってくる。雨の下りは怖い。雨がやむのを待って出発する。
トンネルを過ぎると、後はひたすら下るのみ。少し寒いながらも、気持ちよく下る幸福な時間。峠を下った先でも遍路小屋があった。近くにはトイレがあったので、トイレ休憩。汗をかいた後の下りは体が冷えるので、どうしてもトイレに行きたくなってしまう。この後も下りが続き、好調に進む。恐れていた真弓峠を思ったより簡単にクリアできたので、気分良く進めた。
分かれ道の手前に44番札所 大寶寺と45番札所 岩屋寺を指す看板があった。左に曲がると大寶寺へ、右に曲がると岩屋寺へ。本来なら大寶寺に行ってから、岩屋寺へ行くべきだろう。それが順打ちというものだ。しかし、ここでは岩屋寺に向かうため右に曲がる。
大寶寺から岩屋寺へ行くとなると、次の46番札所へはまた大寶寺近くまで戻ってくることになる。同じルートを往復するかたちになって面白くないのだ。またアップダウンがちょっと厳しそうで嫌な予感もした。それよりも川沿いに岩屋寺に上っていくルートのほうが、楽そうだし違う景色も楽しめる。
少し進んだところに道の駅があり、少し休憩。道の駅から岩屋寺までの川沿いの道は、予想通りキツい坂はなくて楽に到着。岩屋寺の駐車場に自転車を停め、お寺まで歩くことに。森の中を歩くこの道が予想外。坂と階段がけっこうキツくって、脚にくる。なんとか山門まで来るも、まだまだ階段は続く。
なんとか階段を上りきって本堂へ。本堂は半分崖に埋め込まれるような形で作られていて、いかにも山岳霊場といった雰囲気に圧倒される。脇には落石注意の看板もあり、読経時は注意が必要のようだ。また本堂右手には木の梯子があり、岸壁の仙人堂跡へも登れるようになっていた。
興味半分で上ってみるのだが、梯子の頼りなさに足がすくむ。わりと高いところは平気なはずなのに、今回はビビってしまった。仙人堂跡にはお地蔵さんがあったような気がするが、記憶に残っていない。柵も低く地面に吸いこまれそうな感覚になり、立っているのが怖くて写真も撮れず。早々と下りようとするのだが、頼りない梯子がまた怖くて怖くて。下りたところでしばらく動けなくなってしまった。予想以上の恐怖体験だった。高所恐怖症の人はこんな感じなのだろうと。
お参りを終えたのが16時頃。次の大宝寺までは、約12km。急げば17時の納経締め切りに間に合うかもと考え、急いで出発。大寶寺までは、ちょっとした峠越えがあった。こちらも標高600mほど。岩屋寺があるところが標高400mなので、200mほどの上り。ここまでそれなりに走ってきているのと、岩屋寺の階段で脚はもう終わっていた。
なんとか頑張ってペダルを漕ぎ坂道を上るのだが、なかなか先へは進まず。休憩を繰り返しながら、なんとか坂道を上りきった。真弓峠より、大変だった気がする。この後はトンネルがあって、そこからはひたすら下るのみ。下りでは体が冷えてしまって、トイレに行きたくてなってしまう。大寶寺に17時までにつくのは無理そうに思えたので、札所からは少し離れることになるが、道の駅に向かう。
到着したのが17時頃、道の駅はちょうど終了するところだった。とりあえずトイレ。
大寶寺はあきらめ、本日の宿泊場所の検討。この道の駅にはテントを張れそうなスペースがある。しかし、時間はまだ早いので、近くの公園も見に行く。道の駅でテントを張るよりは、公園の方が気分的に楽だ。少し自転車で走り、近くの公園へ。敷地は広いようだが、ぱっと見、良さそうな東屋はない。
橋を渡った池の真ん中に東屋があったが、そこへは自転車では行けないようだ。テントを張るのには向いていない公園。道の駅の方が良いなと、戻ることにする。何か食べるところでもあればと思っていたのだが、特になく。結局、コンビニでおにぎりを購入して、道の駅のベンチで食べた。
日が暮れたので、テントを張り本日はここで終了となった。昨日から本日と、雨に悩まされることになった。よくよく考えると、昨日までは雨で停滞することはなく進んで来られた。ずいぶんと運が良かったことだと。雨はいつだって旅人を困らせると言ったのは、誰だっただろう。僕と同時期に日本一周した人のブログに書いてあった言葉だったかな。
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