お遍路の休日

 八幡浜の道の駅にて、4時半起床。フェリー待ちの車の音がうるさくて、よく眠れず。ここを選んだのは失敗だったと痛感。本日は八幡浜に停滞して、またここで泊まろうと考えていたのだが、予定を変更することにした。


 雨は一度、昨夜にやんでいた。予報を見ると、本日雨が降り出すのは午後からのよう。それなら午前中に少しでも進んでおこうかと。昨日と違う八幡浜ちゃんぽんを食べる計画が、潰れてしまうのは残念だが。この騒がしい道の駅で、もう1泊は無理だ。30kmほど内陸に進んだ内子の町には無料のキャンプ場がある。そこで雨をやり過ごそうと。本来はテントを張る場所ではない道の駅に泊まるより、精神的にも楽だ。


 思い立ったら即行動、まだ夜も明けきらぬ5時すぎ、朝食も食べずに出発。道の駅で時間をつぶすのはもったいない、雨が降り出す前にできるだけ進もうと。暗闇の中、頼りないダイナモライトだけで走るのは少し心許ない。安全を優先し、歩道をゆっくりと走ることにした。


 線路沿いの緩やかな坂道を上っていく。線路沿いを離れた後から少し斜度がキツくなってくるが、頑張って上るのみ。夜が明け始めた頃に、夜昼トンネル到着。ちょっと変わった名前のトンネルだ。このトンネルは2kmほどあるが、歩道部分は自転車がやっと通れるくらいの幅。しかも高くなっているので、バランスを崩すと車道に落ちそうで、非常に怖い。かといって車道は狭くて車も結構なスピードで走っていくので、走るのは怖い。


 暗く狭い歩道を、落ちないようにバランスをとることだけに専念して走る。もし自転車のサイドバッグをトンネルの壁にぶつけようものなら、バランスを崩して車道に落ちてしまう。慎重に。ずっと緩やかな下りだったのが唯一の救い。必死でペダルを漕ぐ必要が無いからだ。これが上り坂なら、荷物満載の自転車はさらにバランスを崩しやすかっただろう。トンネルの狭くて高さのある歩道は、どうにかして欲しいものだ。


 トンネルを抜けると大洲の町。少し霧が立ちこめている。トンネルを出ると、しばらくは急な下り坂。寒い。コンビニがあったので、朝食をとることにした。イートインコーナーは7時からと書かれている。時刻は6時40分、レジに立つオーナーらしき人に無理をいって使わせてもらう。温かい飲み物でほっと一息。


 大洲の町は古い城下町らしく、狭く走りにくい道。途中、橋を渡ろうとすると、大洲城が見える。あたりに霧が立ちこめる姿が、幻想的で美しい。本当ならお城を訪れて、ゆっくりと見ていきたいところ。しかし、この後の雨予報が、心に余裕を与えない。ひたすら進めと。


 しばらく進むと、十夜ヶ橋に到着。弘法大師がこの橋の下で野宿したといわれている。現在はコンクリート製のしっかりとした橋で、その上をたくさんの車が通る。橋の下に下りてみると、大師様のレリーフなどがあり、整備されている。今では車の音がうるさくて、ここで寝るのはかなり難易度が高そうだった。


 大洲の町の中心部から離れていくと、道は広く走りやすくなった。快調に走ることが出来る。8時40分ころ、内子の町にある知清公園キャンプ場に到着。キャンプ場というよりは河川敷にある公園。山の手側と河川側に道路をはさみ分かれていて、山の手側には土俵のある広場があった。河川敷には何台かの車が乗り入れ、テントを張っている。キャンプ場としての詳しい説明書きはない。適当にテントを張って良いようだ。


 どこにテントを張ろうか探す。河川敷は増水の可能性があるので、避けたいところだ。出来れば雨に濡れないところが良い。すると山の手側に東屋を発見。そちらに向かって歩いて行くと、地元の人らしき、おじさんが声をかけてくる。テントを張るのだったら、良い場所があるよと。


 公園内に研修棟という建物があって、その軒先に張れば良いとのこと。そこならなんとか雨をしのげる。建物の使用の邪魔になるのではというと、ほとんど使ってないから良いよ良いよと。お遍路さんが雨の時は、よくそこにテントを張っているらしい。


 東屋にテントを張りたかったのだが、そこには歩き遍路らしい先客がいた。東屋はその人が使うのだろう。だから別の場所を勧めてくれたのか。東屋はあきらめて、お勧めされた場所にテントを張ることにした。


 とりあえずテントを張って、荷物を放り込む。まだ雨は降ってこないようなので、内子の町を見物することにした。ガイドブックによると、昔ながらの町並みが残る、風情のある町らしい。


 雨が降ってきた時のことを考え傘を持ち、歩いて町をぶらぶらする。古い商家や民家が残る通りがあった。説明板によると、重要伝統的建造物群保存地区とのことだ。内子座という大正初期に建てられた芝居小屋もある。歴史あるこの町の中心的存在の建物。見学には料金がかかるので、それはケチってさらに歩くことにした。


 少し歩いて内子駅前までいくと、蒸気機関車の展示。意外と蒸気機関車の展示って、どこにでもあるよなぁと思いつつ、写真だけ撮ってさらに歩く。


 図書館があったので、立ち寄ることにした。思っていたより町に見所がなかったので、ここで時間を潰そうと。図書館は時間を潰すのに最適な場所だ。静かでゆっくりとくつろげる。入ってみると中は人がそこそこいるのにかかわらず、ものすごく静かでこれぞ図書館といった雰囲気。皆さん真剣に本を読んでいる。暇つぶしに来ている人の多い、我が町の図書館とは大違いだ。少しでも音を立てようものなら、注目を集めるだろう緊張した空気の中、漫画「銀河鉄道999」を読んで時間を潰す。蒸気機関車で宇宙を旅する漫画を選んだのは、先ほど蒸気機関車を見た影響か。


 1時間ほどで、昼食を求めて出発することに。本当ならもっとゆっくりしていくつもりだったが、音を出せない緊張感にゆっくりとくつろげなかったのだ。静かな空間が好きなのだが、あまりにも静かすぎるというのは、良くないものなんだと気づく。キャンプ場近くに戻り、地元スーパーでお弁当を調達しようかと覗いて見るも、よさげなものが無く。お弁当はそれなりにあるのだが、嫌いな食材が入っているものが多くて。僕は偏食家なのだった。


 さらに歩くと道の駅がある。ここの物産売り場で、カツ丼とお好み焼きを購入。すごい取り合わせだが、欲望に従ったらこういうチョイスになってしまった。テーブルがあったので、そちらで食べることに。


 食べ終わる頃には、天気予報通り雨が本格的に降り出す。町歩きはこの辺で終わりにして、キャンプ場に戻ることに。満腹になりテントの中で音楽を聴きながら寝転んでいると、そのまま眠ってしまう。


 目が覚めた時は、15時を過ぎていた。外は本格的に雨が降っている。この後はひたすらテントの中で、ダラダラと過ごすことに。テントの中ではスマホを見たり、音楽を聴いたり。


 時間を潰す中で、今回の旅にラジオを持ってこなかったのは失敗だったと気づく。スマホでもネットを通じて、ラジオを聞くことが出来るのだが、電源や通信量が心配になってしまう。長い時間、気軽につけっぱなしにしておける、ラジオを持ってくれば良かったと今更ながら後悔。


 夕食はインスタントラーメンで手軽に済ませ、食後にブログのためのふり返り。そういえば本日はお寺にお参りをしていない。1番札所を出発してからは初めてのことだ。自転車で走る距離も短かったし、散歩しただけで、何もしなかったなと。まぁ、こんな日もあるだろう。お遍路さんにも休日が必要だと言い聞かせる。こういうときはブログを書く手もなかなか進まない。なんとか旅らしい内容に仕立て上げる。


 明日はお昼頃まで、雨予報。この後は峠越えが待っていることだし、どうするべきか。明日も天気しだいだ。

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