歯長峠越えて
須ノ川キャンプ場にて、5時半起床。昨日はアップダウンが激しくてよほど疲れていたのか、国道を走る車の音も気にならずぐっすりと眠れた。朝起きるとテントは、予想通り夜露と結露でびしょびしょ。芝生の上にテントを張ったので仕方がない。朝食を済ませた後に、テントの水分を拭いて、出発準備。
7時半くらいに出発。まずは30km先の宇和島市街を目指す。道は山間部を走る、アップダウンの繰り返し。トンネルも多い。ただ思っていたよりアップダウンは厳しくなくて、それほど疲れずに宇和島市街に到着。宇和島城を横目に、平坦な道が続く市街地を通り抜けていく。
宇和島の駅前を過ぎると、少しずつ上り坂になっていく。宇和島市街に宿泊したであろう、歩き遍路さんたちが1人、2人と歩いている。サムズアップで応援を送りながら追い越し、坂道を上っていく。応援を送るのは、自分自身の苦しさをごまかすための、強がりかもしれない。
最後に待っていたキツめの坂を乗り越えて、道の駅に到着。坂道がひと段落する、この道の駅を本日第1の目的地と決めていた。自動販売機でコーヒーを購入して、ひとまず休憩。41番と42番の札所は、この道の駅からそれほど離れていない。この2つのお寺へのお参りはすぐに終わるだろう。問題はその後にある歯長峠だ。この標高400mの峠を越えることが、本日のメインイベントと考えていた。
しっかり休憩をとって、まずは41番札所 龍光寺へ。お寺へいたる階段の下からは赤い鳥居が正面に見え、ぱっと見に神社に見える。階段の中程、踊り場を左手に曲がったところに本堂があった。ガイドブックによると、明治の神仏分離でこのようになったよう。神社の添え物のようなお寺、に感じられた。
いつものように本堂でお参りをしようとしていると、一人の男性お遍路さんに声をかけられる。「申し訳ないけど、ひと言いわせてくれ」と。まずは輪袈裟の向きが逆であるとの指摘。なんの考えもなく、輪袈裟を首にかけていたのだが、首の部分にある宗紋の上下が逆だった。上下があることすら知らずにつけていたのだ。無知を恥じる。また、ろうそくや線香を立てるときは、右手を使うようにとも。ライターを右手に持って火をつけるので、必然的にロウソクや線香を持つ手は左手になる。それをそのままで立てていたのだが、右手を使うのが本来の形とのこと。
出発前に、本やネットで作法的なことは調べたつもりだったが、全然解っていなかったと痛感。今の世の中、見ず知らずの他人に注意するのは勇気のいることだと思う。このように苦言を呈してくれる方は、この旅で初めてだった。感謝。
お参りを済ませた後は、42番札所 佛木寺に向かう。4kmほどしか離れていないので、すぐに到着。先ほどいただいたアドバイスを活かして、お参りをする。ある程度流れが出来ていた中に修正を加えたので、多少ギクシャクしたお参りになった。
この後が本日のメインイベント、標高400mの歯長峠越え。佛木寺があるのが標高200mくらいの地点なので、その差は200m。数字だけ見るとそれほど高くない。ただ4kmほどでこの高さを上るので、斜度はかなりキツくなると思われた。お寺への坂道を何度も逃げてきたので、この峠を越えることが出来るのか、ずいぶん心配していた。お寺への道の場合は、戻ってくる形になるが、峠はなんとしてでも越えないと先へは進めない。最悪、押して上ることになるかもと。
佛木寺前の東屋で、補給食の羊羹を食べ、気合いを入れて出発する。
しばらくは緩やかな坂道を進むが、ヘアピンカーブを曲がるところから、一気に斜度はキツくなる。ギアを一番軽くして、ひたすらペダルを漕ぐ。しばらくは頑張れるが、そのうち息が上がってくる。今回は苦しくなる前に休憩するという戦法をとることにした。斜度のゆるくなるところがあれば、そこで休憩。息が整ったら、また出発。何回休憩するのかというくらい、頻繁に休憩をとる。そのうちにトンネルが見えてきた。このトンネルの手前が、車道でいける峠の最高地点。自転車を押すことなく、なんとかクリアである。
トンネルを抜けたところに、遍路小屋があった。ここでしばらく休憩することにする。汗で濡れたサイクルジャージを脱いで、体を拭く。サイクルジャージもその上の白衣もびしょ濡れだ。この状態で坂を下り風を浴びると、体が冷えてしまう。ウインドブレーカーを着て、汗冷えに対処。充分な休憩をとり、出発することに。遍路小屋からはひたすら下るのみ。すこし寒いが下るだけの道は、気持ちよかった。
次に向かうのは、43番札所 明石寺。お寺への道がよくわからずうろうろしていると、旅装備をした自転車がやってきた。近寄ってきて、話しかけてくる。自転車に乗っていたのは、僕より少し若いくらいの女性。同じように明石寺への道がわからないで、迷っているよう。
お互い明石寺のある方向はわかるが、入り口の道がわからない。地図を見て話し合っても結局、道がよくわからず。その女性は、近くを歩いている女子高生に聞きに行く。僕なら絶対に無理な行動。女性同士の気楽さか、女子高生は丁寧に道を教えてくれた。その女性と一緒にお寺へ向かうことに。教わった道を進んでいくと、最後にお寺への坂道が待っていた。短いながらも、斜度はかなり厳しそう。
女性が乗っている自転車は、e-バイクというスポーツ向けの電動アシスト自転車。さすが電動アシスト、厳しい坂もすいすいと上っていく。電動アシストすごい。多分自分だけなら、坂の下に自転車を停めて歩くのだが、つられてチャレンジ。普段はしないダンシングを交えて、なんとか上りきろうとする。短い距離なら、これで上れるかも。しかし、あえなく挫折。結局、押して上ることに。
自転車を停めて、お参りの準備をしていると、観光バスが到着。50人くらいの団体が降りてきた。その前にも何十人かの団体がいたので、それほど広くない境内は人で一杯になってしまう。ゆっくりとお参りがしたいので、団体のお参りが終わるのを待つことに。一緒に来た女性は、さっさとお参りを済ませていた。団体のお参りが済んだので、ゆっくりとお参り。
お参りを済ませた後が大変だった。納経所の方は一人で、黙々と団体の納経をしている。十冊以上の納経帳が積まれていた。その後に待っている人が列をなしていたのが、そのペースは変わらず。お寺によっては、個人参拝の納経を優先してくれるのだが、先に来ていた団体の分を終わらせようとしている。お参りが済んだ順で捌いているのだろうか。結局、納経所でずいぶんと待つことになった。納経を終えたのは、先にお参りを済ませていた女性とほぼ変わらなかった。
お参りを終えた後は、本日の宿泊場所を考える。お遍路ルートとしては、大洲方面を目指すのが普通。しかし、ちょっと寄り道をして、八幡浜に行くことに。翌日は雨の予報がでている。八幡浜の道の駅は、日本一周の時も利用しており、屋根付きの東屋があるのがわかっている。翌日に時間を潰せる場所のアテもあるし、日本一周の時にやり残したこともある。少し遠回りになるが、八幡浜に行くことに決めた。
大洲方面に向かうという、電動アシスト自転車の女性とは、ここで別れ。結局、あまり話をすることもなく、別れることになった。普通ならここで話が盛り上がって、一緒にお遍路を続けるという展開になるのかもしれないが、そうはならない。お遍路さん同士、過去を聞かないのが普通なので、なぜ女性が一人でお遍路してるのかすら知らない。わかったのは、電動アシスト自転車は充電が大変ということくらい。この時もお寺についてすぐに、門前のお土産屋で充電させてもらっていた。
人との出会いには、あまり興味がない。一人が良い。そんな思い。
八幡浜方面に向けて出発。八幡浜へは基本下り基調で、快調に走る。しかし、途中から雨が降ってきた。ペースを上げて、20kmほど先にある八幡浜の道の駅を急いで目指す。
2時間もかからずに、道の駅には到着。日本一周の時と変わらず、屋根付きの東屋があるので、本日の宿泊はここで良いだろう。テントを張る余裕もある大きな東屋。宿泊場所の目星はついたので、食事にすることに。時刻は17時になっていた。
日本一周時のやり残し、それは八幡浜のソウルフードといわれる、八幡浜ちゃんぽんを食べること。豚骨スープがベースの長崎ちゃんぽんとは、ひと味違うちゃんぽんがこの地にはあるとのことだ。日本一周の時は食事のタイミングをあわず、通り過ぎてしまう形になった。今回はぜひ食べたいと。
雨はやんでいたので、自転車に乗って近隣のちゃんぽんの店を探す。しかし、営業しているお店が見つけられない。有名店はお昼だけの営業であるし、商店街にそれらしい店はない。道の駅に併設された食堂では、スープがないと軽くあしらわれた。
結局、ショッピングモールの中のチェーン店で、ちゃんぽんを食べることに。スープは豚骨ベースではないようだが、グルメではないので味は良くわからない。海鮮系がしっかりと入っておいしいのだが、スープがちょっとしょっぱかった。チェーン店なので、こんなものなのか。お店によって味付けが違うらしいので、また明日にでも有名店に行けば良いか。明日は雨の予報なので、八幡浜の博物館や図書館で時間を潰すつもりだ。時間はたっぷりあるだろう。
暗くなるのを待って、東屋にテントを張る。テントの中でゆっくりしようと思っていたのだが、駐車場のトラックの音が気になって、なかなかゆっくりと出来ない。そういえば忘れていた。この道の駅の横にはフェリー乗り場があって、ひと晩中うるさいのだ。雨が降りそうだから屋根のあるところが良いとか、ちゃんぽんが食べたいとか、そんなことばかりを考えていて、すっかりと忘れていた。
フェリーの出航時刻は夜遅いようで、乗船待ちのトラックがエンジンをかけたまま停まっている。なかなか寝付けずに、ひと晩過ごすことになった。
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