南国お遍路
四万十川キャンプ場にて、朝5時半起床。鶏のコケコッコーという声で目が覚めた。近くに鶏を飼っている家でもあるのだろうか。鶏の声で目が覚めるくらい、このキャンプ場は非常に静かで、ぐっすりと眠ることが出来た。トイレが和式のボットン便所とか、蛇口をひねっていないと水が出ない水道とか、使い勝手の面では劣るが、気持ちよく過ごせた。
まずは朝食の準備。いつものようにホットサンドとコーヒー。朝食の後は、夜露に濡れたテントの水分をとり、日にあてて乾かしておく。しばらくはスマホで情報収集しながら、ゆっくりと過ごす。テントがある程度乾いたところで、出発準備に取りかかる。テントを片付け、カバンに詰め込み自転車に取り付ける。朝7時半くらいの出発。
足摺岬へはまず四万十川に沿って走って行く。途中から少し坂道を上り山の中へ、トンネルを抜けると川沿いの下り坂。その後は海沿いの道に出る。川沿い、山の中、海沿いと短い間に景色が変化する、走っていて楽しい道。
サニーロードと名付けられた海沿いの道を走っていると、きれいな砂浜の海岸が見える。海岸が見渡せる場所で自転車を停め、しばらく休憩。きれいな海を眺める。
休憩を終えるとまた走り出す。ぐっすり眠れたのが良かったのか、朝から快調。足も体も軽い。そういえば室戸岬以来、1日に100km以上を越えて走っていない。本日の予定では、100kmくらい走ることになりそう。天気も良いことだし、思いっきり走ろうと思う。
出発してから約30km、土佐清水の町へ到着。足摺岬の根元の位置にある公園で、ひと休み。いよいよここから足摺岬突入だ。
足摺岬の先端へは、東側、中央、西側と三つのルートがある。中央のルートは車向けの道で、坂が厳しそう。東側のルートは距離が長い。アップダウンはあるものの、西側のルートが一番楽なので、これを往復することにする。
足摺岬も日本一周の時に走っているので、アップダウンの厳しさは理解している。不思議なことに一度でも走った記憶がある道は、アップダウンが厳しくても斜度や距離に目安がついているからか、それほどキツく感じない。
アップダウンを繰り返している途中、前方にお遍路さんの姿が見える。3人組の先頭は風格のある姿をしている。あれは昨日、土佐佐賀の道の駅を出た後に、追い越したお遍路さんたちだ。もうこんなところまできてたのか。追い越したところから、どれくらいの距離だろう。僕が温泉やキャンプ場でゆっくりのんびりしていた時にも、この人たちはひたすら歩いていたのだろう。自分が少し恥ずかしくなった。追い越す時はサムズアップして通り過ぎるのだが、「がんばって」という声は出ない。「おまえこそ頑張れよ」という声が返ってくるのが怖かった。
アップダウンを繰り返して、38番札所 金剛福寺に到着。広い境内には大きい池があり、それを中心とした庭園になっている。本日も暖かくて、植物などの雰囲気を含め、南国のお寺という印象。海の彼方にある常世の国・補陀落浄土とのつながりを想像させてくれる。太龍寺以来、久しぶりに時間をかけて見ていたいと思う。その前にお参り。
実は昨日の岩本寺では、お参りがおざなりになっていたような気がしていた。慣れからくるものなのか、手順通りにしてはいるが、雑になったというか、心がこもっていないというか。昨夜そのことに気がついて、本日はしっかりとしたお参りをすることに。改めてひとつひとつの手順に心を込めて。
手水所で清め、ろうそくと線香をともし、札を納め、賽銭を入れ、鐘を鳴らし、読経する。
ここでちょっと問題が。大師堂でのことだ。先にお参りしていた人が、声を出してお経を読んでいる。よく通る低い声が心地よく、ちょっと聞き惚れていた。読経するのは、この人が終わってからにしよう。そう思っていると、後に来た人が大きな声で読経し始める。先に読んでいた人は、ペースを乱され調子が狂ってしまった。
こういうのってどうなのだろう。
後から来た人は、待つか声を出さずに読むべきなのではないかと。二人の読経の声が、混じり合って何が何だかわからなくなる。先に読んでいる人がいるのに、邪魔するような形で読むなんて。邪魔する意図はないにしても、こういうのってどうなのだろう。人の祈りに割り込むような祈りに、救いは訪れるのだろうか。それともそれは祈りですらなく、ただの自己顕示欲の発露なのか。
二人が読経を終え、人がいなくなってから読経した。改めてお参りするという行為について、考えることになった。お参りを済ませた後は、境内をじっくり見て回り、その風情を楽しむ。じっくりと味わい、自分なりにおざなりではない、しっかりとしたお参りが出来たと思う。
帰りは海沿いの風景を見つつ、走ることに。アップダウンの繰り返しがあるが、これくらいならクリアできる。昨日から少し走りに自信が出てきたような気もしていた。町まで戻って昼食を。地元のスーパーでお弁当を購入し、公園で食べる。
この後は本日の宿泊予定地に向けて、ひたすら走るのみ。海岸線沿いの道は、アップダウンに加えトンネルもたくさん。自転車乗りにとって、トンネルは大敵だ。狭いし暗いし、後ろから迫ってくる車が怖い。体力より、精神力が削られる。
休憩をはさみつつ、アップダウンを繰り返しながら、頑張って走る。国道から離れ、最後に待っていたのは、スゴい斜度の下り坂。本日の宿泊地は、この下っていった先にある樫西海岸。そこに無料のキャンプ場がある。下り坂を下っていくのは、気持ちが良い。しかし、明日この道を引き返さなければならない。それを考えると、気持ちいいとは思っていられず、明日の心配ばかりが頭をもたげる。
キャンプ場には16時過ぎに到着。キャンプ場は海岸にあるのでは無く、近くの高台にあった。そこへは短い距離ではあるが、キツい坂を上らなければならない。嫌になるくらい坂ばっかり。最後に必死に上ることになった。高台にある公園がキャンプ場となっている。平らなところが少なくて、どこにテントを張るか迷う。
トイレの裏手にコンクリート敷きの場所があったので、そこにテントを張ることにした。ここなら夜露や結露でテントが濡れることはないだろう。明日の朝の撤収が楽になる。トイレを利用者する人には、ちょっと邪魔かもと思いつつ、ほとんど人が来なさそうなので良いだろうと。
日が暮れるまでは、近くのベンチで寝転んでいた。本日はずっと天気が良かった。秋らしい空と雲を眺め、ゆっくりとしていた。
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