台風接近、休足日
ネットカフェを7時前に出る。曇り空であるが、雨は降っていない。ただ風が強い。直撃ではないにしろ、台風の影響だろう。荷物満載の自転車は、風にあおられてバランスを崩しやすいので注意が必要だ。車道は走らずに、歩道をゆっくり走って行くことにする。
まず訪れたのは、昨夜時間を潰した公園。こちらに水道があったので、水の補給にきた。自転車を停めて、ペットボトルに水を補給をしようとしたその時、突然の暴風。砂は舞い上がり、ゴミかごが倒れる。恐るべき風の力。これほどの風が吹くなら、ネットカフェに戻った方が良いか。そんな考えが頭をかすめた。
しかし、次の32番札所 禅師峰寺までは7kmほど。風に気をつけながら、ゆっくり行けば良いか。常に暴風という訳ではないのだから。その後、風は強いものの、追い風になることが多く快適に走れる。風にあおられないようにと注意をするのだが、結局公園で受けたような突風が吹くことはなかった。
お寺への道の最後に、坂道が待っていた。このお寺も小高い山の上にある。斜度もなかなかのもの。今回は自転車で上ろうと挑戦する。本日は32・33番札所の2ヵ所しか訪れるつもりはない、それほど長い距離を走る予定ではないのだ。昨日もそれほど疲れなかったし、朝一からちょっと力を使っても良いかなと。
多分ロードバイクに乗っている人には、それほどの坂では無いだろう。しかし、こちらは荷物満載の自転車だ。少し斜度がキツくなるだけで、ペダルを踏むのはグッと重くなる。出来るところまでペダルを漕いで上ろう。休憩しても良い、なんとしても自転車で上がろうと。
途中、何度かの休憩をとり、急な斜度のところは少しばかり押すことになったが、なんとか山の上の駐車場に到着。駐車所には見晴らしの良い場所があったので、自転車を入れてこの旅初めての記念撮影。自身のお遍路姿を撮るのも、初めてだった。
しばらく駐車場で休憩して、息を整える。駐車場の横にはガレージがあって、そこで休憩できるようになっていた。どうやらここは寝泊まりも出来るのだろう、簡易ベッドのようなものもあった。
落ち着いたところで、お参りに行く。仁王門を入ると、境内にゴツゴツとした岩が横たわっている。それ以外は普通のお寺だったが、奇岩をバックに池に立つ不動明王像が印象に残った。この奇岩、炎のような模様になっていて、不動明王の怒りを表しているような気がした。
納経所にて次の札所に向かうための、渡船が運航されているか聞いてみる。人の良さそうなおばさんだったので、声をかけやすかったのだ。台風の影響で、昨日は欠航になっていたのだが、本日はまだわからないとのこと。電話をかけて聞いてくれた結果、本日も欠航とのこと。
次の33番札所 雪蹊寺に行くには、渡船を使うか浦戸大橋を渡るかして、浦戸湾を渡らなければならない。渡船が駄目なら、橋を渡るしか無い。しかし、この橋は出来るだけ自転車では走りたくない橋。斜度はキツいし、歩道も狭く荷物満載の自転車がそこを走るのは無理。車道は車の通行が多く、速度の遅い自転車が走るのは危険だ。もうひとつ浦戸湾をグルッと回る方法もあるのだが、さすがにこれは面倒すぎる。
さてどうしたものかと考える。本日の予定としては、32・33番と回り、33番札所近くの高知競馬場か図書館で時間を潰すことを考えていた。台風の影響がある中、風を避けられる施設を利用して、それほど走らずに足を休めようと。時間はどちらで潰すにしろ33番を訪れる予定で、渡船なり橋なりで対岸に渡り、その後はまた戻って、渡船場近くにある種崎千松公園キャンプ場でテント泊するつもりでいた。
こちらの公園キャンプ場は使用料が無料で、日本一周をする人たちもよく利用している。自身の日本一周の時は、中心街のネットカフェを利用したので、今回はぜひ利用したいと思っていた。この旅ではキャンプ場を楽しむという目的も、少なからずあったからだ。ただ台風接近中で強風が吹くようなら、ネットカフェ利用も考えていた。
ひとまず種崎千松公園キャンプ場へ行ってみることにした。その様子を見て、風を避けられる位置にテントが張れるのかチェックするためだ。キャンプ場は思っていたより広く、テントを張る位置の指定は特にない。公園敷地の奥には駐車場があり、その近辺に車で来ている人たちはテントを張っている。
本日は土曜日、台風が影響が少ないなら、夜にキャンプに来る人もいるだろう。できるだけ静かに過ごせそうなところで、風の影響が無いところを探す。石垣と大きな根上がり松のある、風を防いでくれそうな場所があった。本日はここにテントを張れば良いだろうと判断。これならネットカフェを利用しなくても良い。場所取りのためにテントを張ろうか迷うも、駐車場からずいぶんと距離があるので、ここまでは人は来ないだろうと。
場所取りはせずに、自転車で浦戸大橋へ向かう。橋の入り口は公園のすぐ横だ。自転車で挑戦してみようか、とりあえず見に行ったのだ。やっぱりダメ。坂は見るからに斜度があるし、とにかく車の通行が多い。橋の上はそれなりの風があるだろうし、もしフラつくようなことがあればこれは怖いなと。橋で渡るのはあきらめて、渡船場に行ってみる。欠航しているかどうかの確認。状況が変わって、営業しているかもしれないし。
自転車で走りながら、この風の強さを考えたら無理だろうと思っていた。渡船場にはやはり、欠航の看板が掛かっていた。さて、どうしたものか。33番札所には行きたい、けど渡船も橋も無理。浦戸湾をグルッと回るか。でもまたキャンプ場に戻ってくるなら、走る距離はそこそこ長くなる。嫌だな。
それなら自転車をキャンプ場において、歩きで橋を渡るのはどうかと。また自転車を置いてお遍路か、とも思いつつ。浦戸大橋を利用して、33番札所へ歩いて行くとすると、片道5kmほど。これくらいなら余裕だろう。一旦キャンプ場に戻り自転車を停めておき、お遍路スタイルの準備を整え、橋を渡ることにする。
橋の狭い歩道を歩いて行く。橋の上はものすごい強風だ。海上は遮るものがないので当然だろう。風をもろに受け、菅笠が飛ばされそうになる。片手で菅笠を押さえ、片手は橋の手すりをつかみながら歩く。
体が狭い歩道から、車道に押し出されそうな勢いの風が吹く。必死に手すりをつかむのだが、すぐ横を車が通過するので怖い。台風の時の海上の風の強さ。これなら渡船が欠航になるのも当然だ。橋の頂上までたどり着くことなく、引き返すことにした。
本日、33番札所を訪れるのはやめて、キャンプ場でゆっくりすることに。無理はしなくとも良い。明日行けば良いのだ。もうこれはお大師様が、本日は休めといっているに違いない。
朝食も食べていなかったし、昼食もかねて食料を買い、キャンプ場で食べることにする。近くにコンビニがあったので食料を調達し、下見していた場所にテントを張る。本日はゆっくりとキャンプを楽しもう。
食後はテントの中でスマホでネットを見たり、音楽を聴いたり、今後のスケジュールを考えたりと。途中、風がうなり声を上げることもあったが、テントの位置が良かったのか、テントが風にあおられることもなく、ゆっくりと寝ころんでいることが出来た。
ネットニュースを見ると台風は、関東地方から東北地方へ抜けていくルートをとるようだ。9月に千葉に多大な被害を与えた台風15号に引き続き、これはまた大変なことになりそう。後に「令和元年房総半島台風」と呼ばれることになる台風15号では、千葉のゴルフ練習場の鉄柱倒壊の姿が生々しく頭に残る。今回の台風19号は降水量も多いようで、さらに被害が大きくならなければ良いのだがと思う。
テントの中にいるのが飽きたら、時々、テントを出ては公園内を散歩する。雨は降らないものの、天気もそれほど良くないので、しずんだ姿を見せる海を見ても心がときめくようなこともなく。夕方になると、少し晴れ間が出てくる。台風は四国から離れていったのだろう。雲の間から日が差して、浦戸大橋を照らしている。無機質なコンクリートの橋なのだが、なぜか美しく見えた。
本日自転車で走ったのは、17kmほど。ほとんどの時間をキャンプ場で過ごし、休息日ならぬ休足日になった。明日はちょっと厳しい山の上のお寺があるので、頑張ろうと気合いを入れつつ、テントの中でゆっくりと過ごした。
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