寄り道をしてお遍路

 ホテルにて6時半起床。久しぶりのベットの寝心地は最高で、目覚ましをセットしていなかったら起きられなかったかも。若干体は重いが、昨日の疲れは取れたと思う。まずはテレビで天気予報を確認。台風は日本に接近しているようだが、高知には直接的な被害はなさそう。雨は降らなさそうだが、風だけは気をつけないと駄目みたい。


 朝7時を過ぎると朝食の時間、バイキング形式で食べ放題。ご飯を2杯に、おかずもこれでもかと食べる。宿泊代にプラス550円たすだけで、たっぷりと食べられた。満腹。


 食後はテレビを見ながら少しゆっくり。久しぶりの朝ドラを見てからの出発。外に出ると曇り空。風はそれほど吹いていない。


 安芸からしばらく進むと、自転車道があった。日本一周の時も利用したこの道路、入り口が閉鎖されている。工事中かなと思いつつ、一般道を進むことに。また自転車道への入り口があり、今度は入ることが出来た。この海沿いを走る自転車道では、ざっぱーんと激しい波の音が聞こえる。高い堤防に守られているので、実際の波の様子はわからないが。


 しばらく進むと進入禁止看板が。看板には、波の高さが5mを越えると進入禁止になると書かれている。最初の入れなかったところも、工事では無くこれが理由だったのだろう。どうやら台風接近で、海はかなり荒れているようだ。しばらくは自転車道を離れ、自転車道に戻れる場所をうかがいながら走って行く。閉鎖区間が終わり自転車道に戻るも、今度はトンネル工事中で進入禁止がある。しかもその迂回路が酷い。


 狭い上にスゴい斜度の上り坂である。通常は自転車の利用を考えられていない道であろう。しかし、引き返すとなると、かなりの距離を戻らなければならない。仕方なく気合いで自転車を押して上ることに。こんな自転車道はもうやめだ。自転車道は諦めて、国道を走ることにした。


 国道をしばらく走って道の駅で少し休憩。本日は観光に立ち寄ることに決めていた。日本一周時に休館日で訪れることが出来なかった場所、赤岡の町の絵金蔵へ。出発が遅かったのも、道の駅での休憩も、ここを訪れるための時間調整だ。


 絵師金蔵、略して絵金。もとは土佐藩家老お抱えの狩野派の御用絵師だったが、贋作事件に巻き込まれ藩を追放に。その後この赤岡の町に現れ、たくさんの芝居絵などを書き残すことになる。絵の内容には残酷な描写があったり、下品なものなどが多くある。テレビで絵金蔵のことを見た時は、無残絵・残虐絵として有名と紹介されていた。


 しかし、実際に展示されているものを見るとそれほど残酷な物はなく、下品な物もあまりない。これはアピールの仕方を変えたのだろう。解説されているものを見ると、あまり表に出さない方が良いだろうものも多い。漫画家でいうと永井豪だろうか。バイオレンスとエロス。もっと世に知られても良いのではないかと思う。


 展示をじっくりと見ていると、1時間以上滞在することになった。寄り道はこれくらいにして、本来のお遍路に戻る。次に目指すは28番札所 大日寺。


 大日寺までの道のりは、北向きに走る道。向かい風が厳しい。台風の影響もあって、なかなかに強い風が吹いていた。ようやく到着した大日寺で待っていたのは、またもや斜度のキツい坂道。町中のお寺なのに。もう見るだけで嫌になって、坂の下に自転車を置いて歩いて上る。それほど距離ではないがなかなかの斜度で、自転車を置いてきて正解と、自転車遍路らしからぬ心持ち。


 どうして高いところにばかり作るのか。そんな不満を持ちながらも、きちんとお参りをする。本日からお参りの際に、体力増強を願うことにした。結願した後には、高野山を自転車で楽に上れるようになっているはず……


 次に目指すは、29番札所 国分寺。距離はそれほど離れていないが、そこまでの道がわかりづらい。一直線でつながらないというか。途中道に迷いながらも、なんとか到着。こちらのお寺は坂も階段もなし。それだけでうれしい。


 お参りを済ませ、次の30番札所 善楽寺に向かう。こちらは地図で見るとちょっと山の方にある。これは坂道があるかも、そんなことばかりが気になる。そして、予想通り寺へ向かう途中には、ちょっときつめの坂道が待っていた。これ自体はなんとかクリア。しかし、お寺付近でさらに坂道を上がる案内看板が。


 これは嫌だなと、毎度のごとく駐輪スペースを探す。歩いて坂を越えて、また戻ってくれば良い。キョロキョロとしていると、道に迷ったのかと、トラックドライバーが声をかけてくれる。坂道を上る案内は車用のもの。お寺へ行くにはそこだけでなくて、坂のない歩き遍路用の道があるとのこと。もちろん自転車も通れて、楽に行けるらしい。道が細く解りづらいからと、その道筋を詳しく教えてくれる。四国の人は皆、お遍路さんに優しい。


 坂道を避けて善楽寺に到着する。到着したのは、14時を過ぎ。そういえば昼食もとっていなかったと気づく。ホテルで朝食をたっぷりとったので、全然お腹がすかないのだ。食べ放題の朝食バイキングに、今更ながら感謝した。


 お参りを済ませた後に、お寺のベンチでこの後どうするかを考える。31番札所 竹林寺に向かうか、高知駅に向かうかだ。時間や天気の動向次第で、高知駅周辺の駐輪場に自転車を停めて、駅周辺で時間を潰すつもりでいた。駅周辺にはネットカフェもあって、宿泊場所の心配もない。


 しかし雨が降りそうな気配は無く、時間的にも竹林寺へは無理なく行けそう。宿泊場所は少し引き返すことになるが、近くにネットカフェもある。竹林寺に行くことに決める。


 事前に調べた情報によると、竹林寺も山の上にあるらしい。自転車で上れる坂道もあるのだが、斜度はやはりキツいとのこと。こちらでも自転車を置いて、歩いて上ることになるだろう。


 竹林寺への道は南向きなので、今度は追い風になった。ずいぶんと楽に走ることが出来る。手に入れた情報に従い、山の麓にある公園の東屋に自転車を停め、歩きでお寺に向かう。最初は山道のような遍路道を上る。途中で車道と交差するところがあったので、遍路道をやめて車道を歩くことに。距離的には遠回りになるのだが、舗装されていて歩きやすい。30分ほど歩いて、お寺には16時すぎに到着。それほど疲れていない。斜度の緩い車道を歩いてきたのが、正解だったのだろう。しかも思っていたより早く着いたので、余裕を持ってお参りすることが出来た。


 最後に納経所へ。こちらの納経所は新しく建てられたようで、ふんだんに木材を使っているのだろう、木の良い匂いがする。納経の受付をしている女性に「良い木の香りがしますね。」と思わず話しかけてしまう。コミュニケーション能力がないので、こちらから話しかけることは滅多にないのだが。


 女性は笑顔で「ありがとうございます」と。それ以外の言葉はなかったのだが、素敵な笑顔をいただいた。受付の方も千差万別で、愛想の良い方もいれば、そうでない方もいる。愛想良く受け答えしてくれる方は、ずっと一人で会話をすることもなくお遍路している人間にはちょっとした救いだ。


 納経を済ませ、自転車のところまでゆっくりと歩いて戻る。時刻は17時になっていない。ネットカフェの料金が安くなるのは、18時から。朝7時の出発として12時間パックの利用を考えると、19時くらいまでどこかで時間を潰しておきたいところ。とりあえず場所の確認のため、ネットカフェへ。ルート的には次の札所からは離れることになるのだが、これは仕方がない。先に進んだところには、キャンプ場もあるのだが、台風の影響があるかもしれないので、安全策をとることにしたのだ。


 ネットカフェの近くに100均のお店があったので、線香とろうそくの補充、新たに線香入れも購入した。また、近くのドラッグストアでパンと飲み物を購入。本日は朝食以降、結局何も食べずにここまで来てしまった。ネットカフェ近くの公園で食べようかと。公園へ移動し、パンを食べた後は、ぼーっとしながら時間を潰すことに。


 時刻は18時近くになり、あたりは暗くなり始めていたのだが、公園には女の子が二人いた。ブランコに座りながら、二人でずっとおしゃべりしている。内容はわからないが、聞こえてくるのは大きな笑い声。とにかくよく笑う。小学校高学年くらいに見えたのだが、箸が転んでもおかしい年頃というやつだろうか。


 キャンプ場などで騒がしいのは好きではないのに、この時の女の子たちの笑い声がなぜか心地よく聞こえた。その子たちは18時半をすぎるころには帰ってしまう。暗い公園の中一人取り残され、寂しさを感じた。一人でいることに寂しさを感じることは、この旅中にもほとんどなかったのに。


 19時になったので、ネットカフェに移動。テレビで天気予報を確認すると、台風は関東の方に向かうため、四国へは直接の被害はなさそう。ただ、明日も風が強いみたい。大型の台風のようなので、どれくらい影響があるのだろうか。少しの不安をいだきながら、眠ることにした。

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