思いっきり自転車遍路

 昨夜は木々が風にゆれる音が気になって、ぐっすりとは眠れず。テントの中にいると、意外と外の音に敏感になるもの。朝5時半には起きて、テントの中でまずは朝食。食事しながら、スマホで台風情報をチェックする。台風は発生しているものの、上陸するとしてもまだ先になりそう。昨夜の風は、台風とはそれほど関係が無かったのかも。出発するころには風は収まり、空は晴れ渡っている。


 朝6時半に出発。次の22番札所平等寺までは、7kmほど。朝7時の納経受付が始まる時間にあわせての出発だ。道の駅を出てからは、しばらくは下りが続き快適に走る。遍路道は山を越えていくのだが車両は通れない。山を迂回するように走って行くのだ。厳しい坂道などは無く、予定通り7時前にお寺に到着した。駐車場の脇に自転車を停め、服装を整えて本日最初のお参り。


 22番札所は、町中にあるこぢんまりとしたお寺だった。しかし、小さいながらも、朝の空気の中で凜とした雰囲気がある。これに読経の声が聞こえてくると、お寺の朝という感じで良いのだが、残念ながら朝のお勤めの時間はもう過ぎている。お参りを済ませ、次のお寺に向かうこととする。


 次の23番札所薬王寺までの距離は、22kmほど。内陸を通る国道55号線、海岸線沿いを走る県道25号線と2つのルートがある。国道は日本一周をした時に走っているので、今回は海岸線沿いを走ることにした。いくつかの峠を越える、アップダウンの繰り返しではあるが、それほど厳しい斜度の坂は無さそう。


 海沿いに出ると、海面に太陽の光が反射する様子が見られる。きれい。そういえば四国に来て、初めて走る海岸線沿いの道だ。集落と集落を結ぶ峠道を走る。峠を上りきった時に待っているのは、高台から見下ろすきれいな海の風景。


 最後の峠道を上りきったところからは、印象的な赤い塔が見えた。日和佐の町にある23番札所薬王寺の瑜祇塔ゆぎとうだ。峠道を下って、日和佐の町に到着する。ウミガメの産卵で有名な大浜海岸を眺め、古い町並みの残る道を進む。


 徳島県最後の札所となる、23番札所に到着。遠くからでも目立つ瑜祇塔と、厄坂と呼ばれる階段が印象的なお寺だ。お寺の横には温泉施設と宿坊があり、観光地としてもよく整備されている感じがする。良い意味でも悪い意味でも。


 お参りを終えて11時半、近くにある道の駅の、大きな遍路小屋で昼食を食べることに。道の駅の売店で、いなり寿司とフィッシュカツを購入。お弁当の販売が無くて、このようなチョイスになってしまった。フィッシュカツとは徳島のご当地グルメで、魚のすり身にパン粉をまぶして揚げたもの。カレー味が特徴で、これがなかなか美味しい。徳島には何度か来ているが、毎回食べている気がする。


 こちらの道の駅には足湯もあり、食後はしばらく足をお湯につけて休憩。この後のことを考える。さて、本日はどこまで進もうか。24番札所は室戸岬の先端にある。途中で泊まるか、それとも室戸岬まで行ってしまうかだ。


 室戸岬へ向かう途中、次にある道の駅は宍喰温泉というところ。日本一周の時は、この道の駅で野宿した。今いる日和佐からは30kmほどと距離が短く、ここで終えるとしたら、ちょっと物足りないか。ここまでの道のりはそれほど厳しい坂道がなかったので、体力に余裕がある。もっと走りたいし、室戸岬まで行こうか。宍喰温泉の後は室戸岬まで、野宿に向いているところがないのはわかっている。室戸岬までは、ちょっと遠くてあと80kmくらいだ。


 現在の時間は12時。80km走るとなると、日が暮れる前に到着できるかどうか微妙なところ。距離的にも、ここまでで40kmほど走っているので、室戸岬まで走ると合計で120km。ちょっとキツいかなとも思う。ただ過去にも走ったことのあるルートなので、観光せずにただ走るだけで良いだろう。厳しい坂道がないのもわかっている。四国に来てからは長い距離を走っていないし、連日、自転車を置いてお寺に向かったことが、心の隅でわだかまっている。


 この旅は、自転車遍路なのだ。このあたりで気合いを入れて、思いっきり自転車で走ることにしよう。


 日和佐からしばらくは海岸線沿いを離れ、国道55号線を走ることに。道路にはところどころ、遍路小屋がある。歩き遍路をする人は、こういうところで休み休み歩くのだろう。日和佐から室戸岬への道は、歩くとしたら長いだろうなと思う。旅の前に読んだ本によると、この間を2・3日かけて、ひたすら歩くのみらしい。自転車でもひたすら、ペダルを漕ぐのみだ。


 途中、コンビニでソフトクリームを購入。本日は天気も良くて、日中はぐんぐん気温が上がっていた。道路に標示されている温度計には、30度の表示が出ていたくらいだ。10月なのに。


 室戸岬に近づくてくると、遮るものもない海のすぐ横を走る道に。昨夜のこともあり、台風の影響で風が強いかもと恐れていたのだが、それほど風は吹いていない。海を見ても、波はそれほどなくて、荒れていない。台風情報は特にチェックしていないが、四国直撃は免れるだろうと思う。


 ひたすらペダルを漕いで17時すぎ、巨大大師像が見えてくる。正式には室戸青年大師像と呼ばれるもので、1984年に建立されたとのこと。お遍路には関係のない施設なので、駐車場に自転車を止めて、自転車に跨ったまま手を合わせるだけで済ませる。


 さらに進むと弘法大師が修行したとされる、御厨人窟みくろどがある。日本一周の時は立ち入りが禁止されていたこの場所、今年の4月末から入洞ができるようになったと聞いていた。しかし、時間が遅かったのか、柵がされていて入ることは出来なかった。


 そして24番札所最御崎寺ほつみさきじへ上る、遍路道入り口に到着。納経受付時間はもう過ぎているので、お寺へは明日お参りすることにして、宿泊場所に向かう。本日の宿泊場所はお寺からは少し離れることになるが、海の駅と呼ばれる、食堂もある漁港横の公園で。こちらにはテントが余裕を持って張れる、大きな東屋があるのを知っていた。


 到着してすぐに日が暮れてくる。食堂が営業していれば、そこで食事も考えていたのだが、営業しておらず。東屋にテントを張る。テントの中では食事する気も起きずに、寝ころんでいるとそのまま眠ってしまうことに。食事をする気力もなくなっていたのは、120km近く走って疲れ果てたからか。


 3時間ほど眠ったら目が覚める。ブログを書かなければという使命感だろうか。なんとかブログを書きおえて、また眠ることにした。

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