第三章 満願寺の和尚と学校のお化け

第15話 明日はドキドキの転校初日

 今夜はなかなか寝つけそうにない。

 明日から学校が始まるんだ。

 新しい学年は新しい学校で迎える。どんなクラスメイトがいるだろう? 仲良くなれそうな相手はいるかな? 友達は出来るだろうか……。

 不安でたまらない。

 美空みそら彩花あやかの前では平気そうなフリをして励ましたりしても実は僕の本音は逃げ出したい気分……。

 ドキドキ不安とドキドキちょっぴり楽しみ。

 怖気づいてはいるが好奇心もある。

 ――新しい学校ってどんな所だろう?

 

 僕と美空も学生鞄を何度も確認していた。彩花はまだ新しい教科書の入っていないスカスカのランドセルの中を何度も覗き込んでいた。

 それから彩花は途中まで使いかけの連絡帳をおじいちゃんに見せていた。前の先生が押してくれた『見ました』と文字の入ったうさぎのハンコを指さしている。

「良いでしょう? うさぎ」

「うんうん、可愛いハンコだな。彩花はうさぎが好きか?」

「うん! 彩花はうさぎ大好きだよ」

「今度、彩花が行く小学校では、うさぎを飼ってるぞ」

「本当?」

「あぁ、本当だとも」

 おじいちゃんはあぐらをかいた上に彩花を座らせにこにこと笑う。


 おじいちゃんの隣りに妖怪猫又の虎吉が猫の姿でのんびり丸まり猫そのものだ。二本ある尻尾だけが普通の猫とは違う。

 妖怪犬神の豆助と妖怪狸のポン太は人の子の姿に化け茶の間の隅のちゃぶ台で将棋をさしている。

「ねぇ? 将棋って面白い?」

「雪春もやってみるか? 面白いぞ。オラの里では将棋大会があって優勝すると米一俵こめいっぴょうが貰えるんだ」

米一俵こめいっぴょう? 米俵こめだわらってすごい大きいよね!」

「んだんだ。大きいぞ」

 ポン太が楽しそうに笑い僕もつられて笑った。

「油断禁物だぜ、ポン太。また俺が勝っちゃうからな」

 その声で僕は視線をポン太の向かいの豆助に向けた。じぃっと真剣に将棋盤を見つめている。真面目な性格な豆助。

 ヒーロー好きのお調子者でお茶らけた子供っぽい虎吉。明るくて可愛いポン太。豆助はちょっとクールだけど時折熱くなる性格で飼い主に忠実な賢い犬って感じがする。

「んっ? 俺のことをそんなに見てどうした?」

 豆助に言われ僕は慌てた。別に悪いことを考えてたわけじゃないけど心の中を見透かされてるみたい。

 僕は「いや、明日のことを考えてただけ」と誤魔化した。

「そうか、雪春も明日が楽しみだけど不安なんだな。後で蔵さんから気持ちが軽くなる花を貰って来てやるよ」

 豆助が立ち上がると虎吉が重ねるように提案する。

「オイラが行って来るニャ。蔵さんの花は不眠にも効くからニャ。サクラの分もそろそろ無くなる頃だしニャン」

 虎吉はぐぐっと体を四本足の先から尻尾まで伸びをして「ニャニャニャッ」と気合いを入れるや人の子供の姿になる。

「虎吉。もう夜が遅いから猫の姿の方が良くないかな?」

 美空が言うと虎吉は「大丈夫ニャ大丈夫ニャ」って答えながら手の平をぶんぶん顔の前で振る。

「平気ニャ。妖怪が見えるヤツはそんなにいないニャン。オイラは妖力が高いけど気配は調整出来るから心配ないニャ。たまの満月の夜は妖力のコントロールが利かなくて見られちゃうかもだけどニャ。ニャッハハハ」

 今日は満月だったよな。

「それは笑えないじゃないか。僕も行こうか?」

「雪春は駄目ニャ。子供は寝る時間ニャ」

「なんで人の姿にこだわるの?」

「内緒ニャン」

 虎吉は真っ赤になってそっぽを向いた。二本の尻尾は小刻みに揺れている。

「ふふっ。虎吉は雪女の雪絵ゆきえとヒーローごっこだばするんだもんな」

「ポン太、余計なこというニャ」

「あれ? この前は人魚達とヒーローごっこしてなかったか?」

「豆助も皆に言っちゃ駄目ニャ! それに人魚達と遊んだのはスパイごっこニャン」

 虎吉は窓を開け人の子の姿のまま窓枠に足を掛けるとピョーンと跳ねるようにして慌てて出掛けて行った。

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