第14話 作戦大成功

「ずるい〜! にいにぃだけぇ」

 横に並んで寝てた彩花が、上半身を起こしてポカポカと僕の掛け布団を叩いてくる。

「ごめん、ごめん。でも仕方ないよ。ポン太が化けて変身した鬼嫁おによめの姿、鬼子母神きしもじんっていうんだけど、怖かったんだぞ〜」

「でも彩花の言うとおりだよ。お兄ちゃんだけってズルい。私だってポン太の変身とか見たかったなぁ。サクラさんがお店の方に行かないように必死に言うから、何かあると思ったけれど」

「雷の音だけじゃない、でっかい音がしてたもん」

「ごめん、ごめん。だって豆助がおっかないなんて手紙に書いてくるもんだからさ」

 僕等兄妹は川の字で眠る。

 部屋はあるので、本当は年齢的にも僕は美空と彩花とは違う部屋にしたいのだ。

 でもおじいちゃんの家に引っ越ししてから、彩花は不安らしくて……。

 あぁ、よく考えたら父さんがいなくなってからかな。アパートの時は部屋も少なくてせまいし、みんなでぎゅうぎゅうになって寝るのが当たり前だった。

「二人とも、ポン太には内緒な? 上手く化けられたって思っているだろうから」

「「うん」」

 これでナギ君とヤマト君の母親が心を入れ替えてくれたら良いけれど。

 おじいちゃんは言った。

『一度手助けしたならば、ずっと気にかけてやることだ。気まぐれであの子達に関わるのなら、それは自己満足というもの。おじいちゃんと時々様子を見に行こう』

 おじいちゃんの言うことは、僕はもっともだと思った。

「きっと豆助の作戦は大成功だね。また、ナギ君とヤマト君と遊んだり、御飯を食べようね、彩花」

「うん。姉たん」

 僕は目をつむり美空と彩花の声を聞いているうちに、すぐに眠ってしまった。


   ❀❀✿❀❀


 騒動そうどうから数日がって、穏やかな春の晴れた日。

 僕等兄妹は、おじいちゃんの家から歩いて数分の、こじんまりとした公園に出掛けた。

「お兄ちゃ〜ん」

「お姉ちゃ〜ん」

「こんにちは」

 その公園には偶然にも、ナギ君とヤマト君がお母さんと一緒に砂場で遊んでいた。

「「こんにちは」」

「ナギ君とヤマト君だ〜」

 僕等に気づいて、幼い兄弟の二人は元気に駆け出してきた。以前会った時とはまるで違う子達みたいに、弾けるような笑顔ではしゃいでいる姿に僕はホッとした。

 ナギ君とヤマト君に、ちっちゃい子どもの無邪気さをようやく感じてた。

「いっしょにあそぼう」

「あそぼう!」

「良いよ〜」

「良いわよ。何して遊ぼうか?」

 ナギ君とヤマト君はシーソーに美空と彩花を誘って、4人はシーソーの方へと、びはねる様に走り出して向かって行った。

 あとには僕とナギ君とヤマト君の母親が残る。心なしか、おばさんの服装は店に来た時ほど、派手じゃなくなっているし、香水もさほど匂わない。

「ごめんなさいね。あなた達には大変なご迷惑をかけて。しかも甚五郎さんが託児所付きの働き口を世話してくれたの……」

「うちのおじいちゃんが?」

 おばさんに深々ふかぶかとお辞儀じぎをされて、僕は戸惑とまどってしまう。

 僕はおばさんとすぐそばのベンチに座って、シーソーで遊ぶみんなを見ながら話をした。

「学童保育のお世話係の仕事なのよ。色んな事情の子どもがいる。話を聞いたり、宿題を教えたりしているの。私みたいなのが他人ひとの子のお世話なんてうそみたいでしょう? でも楽しい。私、目が覚めたわ。いつまでも自分がどこか不幸だって可哀想だと思っていた。でも私にはあの子達がいるから。家族で幸せにならなくてはね」

 おばさんは、まるで別人みたいに優しい顔で笑っていた。僕は、心の中がぽわっと明るくなって柔らかい陽ざしを受けたみたいに心地良かった。

「本当ですか? 良かった」

「ありがとう。今度、みんなで遊びに来て。恥ずかしい話、家も心と一緒で荒んでたんだけど、しっかり片付けたから。いつでも来てくれてオッケーよ」

 あぁ、あったかい。

 胸が熱くなる。こんなに人は変わるんだ。

「神様なんていないと思ってた。今ではあれは夢かと思うんだけど……。閉じていた心を開けば、私にも目の前にささやかな幸せがあるってことに気づけるって。そう、おそわった気がするの」

 ささやかな幸せ、かぁ。僕は美空と彩花に視線がいった。それから父さんやおじいちゃん、一緒に暮らす妖怪たちやサクラさんの顔が胸に浮かんでいた。亡くなったお母さんの笑顔も。

「またお店にも来て下さい」

「ええ、もちろん。甚五郎さんのお店は、温かくて不思議なお店ね」

 僕は妖怪犬神の豆助、妖怪猫又の虎吉、妖怪タヌキのポン太と、桜の木のあやかしの蔵之進さんに早く伝えたかった。

 ――どうやら作戦は大成功したみたいだよって。

 そして、同時に思った。僕だって誰かの役に立ちたいなって思ったんだ。

 妖怪ってすごいや。

 次に困ったことが起こった時は、見ているだけじゃなくて作戦に僕も入れて欲しい。

 たぶんおじいちゃんは反対するだろうけれど、僕は妖怪のみんなと立ち向かってみたいんだ。

 解決が難しい困難にだって――



            つづく




 

 

 

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