第9話 ポン太の妖怪戦術? 秘策あり。

 ちっちゃな体の狸妖怪ポン太は今時の小学生に変身し僕の目の前でおじいちゃんの作ったおにぎりを食べている。

 まだ休憩中の定食屋甚五郎の四人掛けのテーブルに座るポン太と僕。

「もぐもぐもごもご」

 猫又の虎吉や犬神の豆助は着物だったから、スポーツメーカーのロゴ入りパーカーに黒のハーフパンツを着ているポン太の姿は新鮮だ。

「甚五郎のおにぎりは美味しいなぁ。優しい味がするよ。ねぇ、雪春」

「えっ? うん。なあに」

 つぶらな瞳でポン太に見つめられて僕は優しい気分になる。今日が初対面なはずだけど構ってあげたくなる可愛さ。

「おらに考えがある。今夜決行しよう」

「考えがあるって?」

「もちろんそこのナギとヤマトの為にさ」

 ポン太はおにぎりを一気に口に入れ頬がぱんぱんに膨らんでいる。

「んぐっ、もぐもぐ」

 たくさん頬張りすぎて喋ろうにも喋れないみたい。


 僕の横に美空と彩花もやって来て興味津々に目を輝かせポン太を見つめる。

「タヌキさん」

「はい、おら、狸のポン太だよ」

 ポン太はずずっとお味噌汁を飲み干して、彩花を見、美空を見つめた。

 ポン太は二人に自己紹介済でおじいちゃんは奥の部屋で新聞を読んだり休憩をしているみたい。夕方の営業のための仕込みは終わらせたし、今は各々おのおの自由時間だ。

「ねぇ、一度聞きたかったんだけど」

「なぁに、美空ちゃん」

「おじいちゃん家になんでこんなに妖怪やら桜のあやかしやらいるの?」

 蔵之進さんはまたふらっと出掛けてしまっていた。蔵之進さんはここに住んでいるわけじゃないから、どこに行くとかいちいち僕等に報告する訳じゃない。

「んー。おにぎりが美味しいから? ここの店はずっと昔から形は変われどずっとおら達のそばにある。お前らのご先祖達は害のない妖怪なら邪険にすることは無かったし人間達の食いもんを食わせてくれた」

「ご先祖様が?」

「だからおら達はお前らを守る。助けてやる」

 僕ら兄妹には狸妖怪のポン太が急に頼もしく見えていた。

「「ポン太が助けてくれるの?」」

 美空と彩花がそう言うとポン太は笑った。

「もちろん! 虎吉や豆助、蔵さんから聞いてないの?」

「えっ?」

「お前らのこと、離れていたって代わるわる見守っていた。お前らの父ちゃんがさらわれた時は力及ばず。すまないことだ」

 僕はポン太の声に耳を疑った。いいや、僕だけじゃない。美空も彩花もポン太に詰め寄り迫る。

 美空なんかポン太のパーカーのフードの部分を引っ張ってポン太が「ぐぅぇぇっ」と声を上げた。

「「さらわれたってどういう事っ!?」」

「お父ちゃんはどこにいるのっ!?」

「ぐぅぇぇっ。い、息が……出来な……い」

 僕らが興奮してますます強い力でパーカーを引っ張ったりポン太を揺さぶったものだからあまりの剣幕にポン太は狸の姿に戻って気を失った。

「ご、ごめん、ポン太」

「だいじょうぶっ? タヌキさん?」

「ごめん、ポン太、しっかりしてぇ」

 僕等は腕の中のポン太に謝り続けた。



          つづく


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