図書・書誌学

『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』ウンベルト・エーコ ジャン=クロード・カリエール

『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』ウンベルト・エーコ∥著 ジャン=クロード・カリエール∥著 工藤 妙子∥訳(阪急コミュニケーションズ)2010/12



フランスの脚本家カリエールとイタリアの中世学者、小説家のエーコによる対談集。

タイトルには絶滅と冠されていますが、書物は滅びることはないだろうという前提で、古書収集家であり愛書家であるふたりの知性の対談は進みます。


序盤でびっくりするのは

「聞いた話では、日本人は、携帯電話で小説を執筆して、それを携帯電話で配信したりもしているそうですね。」(p33-34)

なんて発言が飛び出したこと。この対談は2009年。ケータイ小説のことですかね??


「傑作が傑作であるためには、知られるということが大事です。(中略)知られざる傑作には読者が足りなかったんです。充分に読まれなかったし、充分に解釈されなかった」(p223より)

他の芸術作品でもそうなように、傑作が後世に残るためには目利きの存在が必要なのですね。


耐久メディアがいかに儚いか、書物をフィルタリングすることの功罪、歴史上むしろ書物は焼かれるものだった、古書との出会いと運命、自己顕示、人類は半分は天才で半分は馬鹿である、などなど。豊富な知識と体験によって、書物や情報に関する対談が続きます。


「昔の農民たちが自分たちの愚かしさを隠していたわけではありません。教養があるということは必ずしも頭がよいということを意味しません。しかし、今日では、誰もが自分の考えを人に聞かせようとするので、どうしても、単純な愚かしさが露呈してしまう場合があるんです。ですから、言ってみれば、昔の愚かしさは人目に触れることがなく、認知もされなかったのに対し、最近の愚かしさはやたらと大声で喚きたてるんです。」(p309より)

アイタタタタ。


一口に本を読む、といっても、本そのものが好きなのか、読むという行為が好きなのかに分かれるとか。確かに~。読書依存症(活字中毒?)のタイプの人もきっと多いわけで。

一方、本棚の本をすべて読んでいなくたっていいじゃないか、なんてお話も。新刊はすぐに読まなくちゃって強迫観念があるのだけど三年後に読んだっていいじゃないかと(笑) 積読があったっていいんですよ!(うちでもいっぱい埃をかぶってます……)

それと、自分の好みをわかってくれてる、自分以上に見る目のある「目利き」の友人がいるといい、的な発言も面白い。

貴重な古書を所蔵してるのだから窃盗の心配もあるけど、イタリア警察の書画骨董専門捜査部門は優秀とか。へえー。


400Pを越えるなかなかのボリュームの本ですが、対談なので読みやすかったです。



初出:読書メモ㉚近況ノート2020年9月20日

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