第2話「古びた本」

圭介が持ってきたその古びた本は、ボロボロだった。

私は圭介から手渡され、本の状態を観察する。

本の表紙はボロボロで、何と書いてあるかすら読めない。

何とか読み取れたのは、背表紙に書いてある題名の「蝶は舞い降りた」と言う題名だけだった。


「何よこれ…」


「まぁ、読んでみろって」


先程、片したテーブルの上に置き、1ページ目を開く。

すると、中は意外に劣化しておらず、とてもではないが本の表紙の状態とは思えない程、綺麗だった。


私は、少し不安に思いつつも読み解いて行く。お話はこうだ。


登場人物の1人が亡くなる時、肉体から離れた魂は蝶々へと変貌を遂げ天国へと旅立っていくお話。

それはとても幻想的で、まるでに書かれていた。


他にも、どうして人は感情があるのか。


どうして、人は死ぬと悲しむのか。


様々な葛藤の末、主人公もまた蝶として旅立っていく。

そんな悲しいお話だった。けれど、私はこの幻想的なお話に魅了されていた。

そして、見た目では結構な厚さがあったにもかかわらず、私は20分程でそれを全て読んでしまった。


「ねぇ、これは一体…あんたまさか、どっかで盗んできたんじゃ―――」


そう言いかけると、慌てて圭介は答えた


「ちげぇよ!俺のじぃちゃんがお前にこれを渡してほしいって言ってきたんだ」


な?不思議だろ?と、圭介は言ったが、私には一つ心当たりがあった。

それは、夏休みの出来事だった。


ある時、私が市立の図書館へと行こうとしていた時、圭介のお爺さんが、犬の散歩でばったり会った事があったのだ。

その時、近くの公園で少しお話をしようと言われ、私は急ぎで無かった事もあり、お話を聞くことにした。


「いつも圭介と遊んでくれてありがとうねぇ」


「いえ…一応、幼馴染ですし」


多分、そんな他愛の無い話だったと思う。

―――だけど


一つだけ、気がかりな事を聞かれたのだ。


「君は蝶を見たことがあるかい?」


私はありますよ。というか、この辺りに飛んでるじゃないですか。

そう苦笑しながら答えると、お爺さんは首を横に振りながら、


「いいや、君はまだ見た事が無い。今度、見せてあげよう」


と言われたのだ。


あの時の出来事は、よく覚えてる。その時に関してはボケていたんだろうと失礼な事を思っていたのだが、こういう事だったのかと思える。


「なぁ?お前はこれどう思う?」


声を掛けられて、私少しビックリしながらも、受け答えをする。


「不思議だけど、良いお話だと思うよ」


「そうじゃなくて、じぃちゃんが何でこんなもんを持っていたのかってことだよ」


―――確かにそうだ。

仮に、こういう本が自作で作られたとしてもかなり良い作品だ。

中学生の私でも、分かるぐらいとても綺麗なお話だった。

何処かの出版社にでも応募すれば多分、取り上げられても可笑しくはない。


それに何より、しっかり製本されているのが気になる。

私は本が大好きだから、このような面白い作品に出合えたら、きっと覚えてる事だろう。

なのに、何故かこの本に見覚えも無い。書店でも見かけた事すら無い。

これは一体…


「な?不思議だろ?俺も、じいちゃんに聞いたんだけど、じぃちゃんなーんも答えてくれなくてさ」


「まぁ、とにかく、その本はお前にあげるって言ってたから、持っておけば?」


タダで貰うには、気が引けたが私はどうしてもこの本が気になって仕方なかった。

きっと、私はこの本が持つ魔力に魅了されていたのだろう。

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