その時、蝶は舞い降りた
ステラ
第1話「蝶が舞い降りた」
ちょうちょ ちょうちょ 菜の葉にとまれ~
私は、大好きな童謡を彼に聞かせていた。
「上手いな、
そう言ってくれた彼が大好きだった。
菜の葉に飽(あ)いたら
桜にとまれ
でも、もう彼は居ないの。
桜の花の 花から花へ
とまれよ あそべ
あそべよ とまれ
蝶になったからね。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
2000年9月16日 土曜日 10時23分
夏も終わり、秋に入り始めた。大分、穏やかな気候になってきた事もあってか、私は勉学に勤しんでいた。
中学三年生になった後期、自分の行きたい高校受験に向かって私は一心不乱だった。
「おーい、詩織。また、勉強してんのかー?飽きねぇよなぁお前も」
そうやって、私の集中を切らすのは
隣に住んでいると言う事もあってか、時々こうやって、茶化しに遊びに来るのだ。
「何よ、圭介。あんたもそろそろ高校受験に向けて勉強しないと不味いんじゃないの?」
「良いんだよ、俺は。どーせ、偏差値30の底辺高校だしさ」
なんて、苦笑いをしながら悪態をつくが、悪びれもせずに、私の邪魔をしようとしてくる。
「…ねぇ、責めて集中したいからその変な踊り止めてくんない?」
勉強している居間で、私の前で変に踊っている圭介にうんざりしていた。
「なんだよ、俺の華麗なダンステクニックに、痺れてのか?」
ギザなセリフと噛まずにこうも言われると、私自身が恥ずかしい気持ちになってくる。
「あのねぇ…」
重く溜息を付きながら、私はテーブルに広げていたノートや参考書を閉じていく。
「分かったわよ、たまには遊べば良いんでしょ?何して遊ぶのよ」
どうせ、彼の事だ。何か、また企んでいるんだろう。第一、彼がこうやって構ってほしそうに私の家に来る事は多々あった。
すると、よし来た!と言わんばかりに、私の前に机を間にして、座りながら、真っ直ぐ私の目を見つめてきた。
「な、なによ」
お世辞にも、可愛いとは思えない私はそんな真剣な眼差しで男子に見つめられる事に抵抗があった。右斜め下を見て、圭介の視線を逸らす。すると
「うーん、ブサ―――」
私は、有無を思いっきりぶん殴ってやった。確かに、私はブサイクなのかもしれない。けれど、面向かって言われるなんて思いもしなかった。
「な、なにすんだよ!?突然」
「それはこっちのセリフ!女子に向かって、突然、ブサイクなんて言うやつ居る!?」
「この俺がそうだ!」
えっへん!と胸を張って、言われて、苦笑いすらも出なかった。
「で?何?どーせ、あんたのろくでもないホラ吹き話でも付き合えってんでしょ?」
「今回は違う。なぁ、これを見てほしいんだよ。」
彼が出してきたのは一冊の古びた本だった。
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