第2話 宇宙要塞 ラオ
《メルリオル系 宇宙要塞、ラオ》|
太陽系から遥か遠く離れた宇宙にある惑星系、メルリオル。
メルリオルという恒星を中心に数多もの惑星が公転しており、FR-1もそこに存在する。
その広大さは、未だ未探索の惑星が幾百とあるこの惑星系は宝の山と称される程だ。
そして『ラオ』というのはメルリオル系内のラグランジュ点に建設された巨大なプラットフォームであり、エルドリッヒの所有する宇宙要塞でありそして、現時点で植民候補惑星FR-2に最も近い場所とされている。
エルドリッヒはラオを所有しているだけで作った訳ではない。
当時建設を担当していたのはエルドリッヒ傘下にある企業の一つ『東亜連合』だ。
約200万キロ平方メートルという広大な面積のラオは今後のFR-2開拓の最前線になる事を想定しているだけあってかなり作り込まれていた。
数千機単位の航空機を収容、整備、補給、離着陸させる事が可能であり、また、軍港としての機能も揃っており、最大で十六個艦隊規模の数の軍艦を収容可能。
勿論要塞である為、防衛兵器も揃っている。
敵艦を対艦ミサイルや大出力のレーザー砲台でアウトレンジから叩ける上に接近を許したとしても今度は何百、何千門もの実弾、粒子砲弾問わずの砲台による一斉射撃によって蜂の巣にされる。
こんな化け物に近づこうと思う奴などいるはずもなく、現在もメルリオル系のラグランジュ点を悠々と浮かんでいる。
「ここがラオか……」
軍用の連絡船からラオに降り立った彼、アルビスは宇宙港の中を歩きながらその広さに目を見張っていた。
あちこちに軍用の船と航空機が停められていてその周りに整備兵達が取り付いている。
居住区でないのにも関わらず人の数は尋常ではなく、人通りの多さは大型ショッピングモールのそれだ。
ただ、ここにいるのは殆どが軍属の為、着ているのはどれもエルドリッヒ指定のカーキ色の軍服ばかりで既に見飽きている。
出入口から宇宙港の外に出るとそこには停められた一台の車とそれに寄りかかるように立っている男がいた。
「おーい、こっちですよ」
糸目で少し老け込んだ顔の男はアルビスを見つけるなり腕を大きく振ってこちらに呼び掛けてきた。
どうやらあれが迎えのようなので男の元へと向かう。
「貴方がアルビス・ドルターク大尉ですね。 乗って下さい、今からすぐ駐屯地に向かいます」
男に言われるがまま、装甲車の助手席に乗り込み、ドアを閉める。
荷物を足元に置き、シートベルトを装着した事を確認すると男はアクセルペダルを踏み、発進する。
隣にいる男からはなんというか、紳士的な雰囲気に隠れて別の何かを感じる。
恐らく彼は只者ではないだろう。
軍にいるのだからこういう出会いも少なくはない。
装甲車が高速道路に入った所で男が何かを思い出したようにこちらに振り向き、口を開く。
「そういえば、申し遅れました。 私はルーダ・ベイエルンと申します。 階級は少尉です」
「アルビス・ドルターク、大尉だ」
「アルビス大尉の事はよく知っています。 レインボー作戦から生還したエースパイロットの一人として、ここでもよく話題になりますよ」
ルーダはそのままハンドルを切り、左折する。
曲がり角にあった看板にはこの先、第314駐屯地、と書かれていた。
特に話すことも無く、車内は静寂に満たされた。
窓の外には軍事施設だけでなくラオに住む兵士の為の居住区画や商店等も多く並んでいた。
地球では既に失われた光景だ。
暫く時間が経つと、この静寂をルーダが破った。
「着きました。 ここが今日から大尉の仮拠点となる第314駐屯地です」
駐屯地としての規模は至って普通。
ゲートの前に立っていた警衛の兵士にIDカードを見せると、中へと車を進めた。
駐屯地の中を進む一台の装甲車。
左へ行ったり右へ行ったり、2、3回ぐらい角を曲がって着いたのはコンクリートで作られた同じ物が複数並ぶ建造物だった。
それが兵舎である事など、軍にいるアルビスが分からないはずも無かった。
ルーダが降りると、アルビスもつられて扉を開け、アスファルトに足をつける。
「荷物を置く必要があるのでまずは大尉の部屋まで案内します。 着いてきて下さい」
薄らと笑みを浮かべるルーダの後ろに着いていき、エレベーターに乗る。
ルーダが押したのは最上階である四階。
数秒して扉が閉まり、途端に感じた浮遊感がエレベーターが動き出した事を知らせる。
何か話をする間も無く四階へ着き、扉が開く。
「こちらです」
ルーダに導かれるままに無機質な廊下を進む。
今は全員部屋を出ているのか、周囲からは人の気配を一切感じなかった。
ただ無機質なコンクリートの壁に鉄の扉が並んでいる。
大方、訓練にでも出ているのだろう。
「ここが今日から大尉の部屋になります」
無機質な廊下にはやはり無機質な部屋か。
まだ誰も住んでいないので家財一式は無く、しかし掃除はちゃんとされているのか埃が積もっていたりはしていない。
自分としてはもう少し狭い方が良かったのだが、今更文句も言えまい。
その日は取り敢えず部屋に荷物だけ置いて、基地司令に着任の報告に向かった。
にしても、久方振りに乗った宇宙船の乗り心地はなかなか良かった。
人類が宇宙開拓への道を切り拓けたのも、全てはワープドライブ技術の確立のお陰だ。
これが無ければ、人類は永遠に太陽系という名の鳥籠に閉じ込められていたままだっただろう。
そして、終わり無き戦争の時代が訪れる事も無かっただろうが……。
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