第9話 街道にたむろする集団

「今更だが、状況を教えてくれないか?」


 誰が責任者かわからないから、姫の護衛の兵にとりあえず集まって話を聞くことにした。

 幸いにして死者は出て居なかったが、残念ながら四肢が欠損した者は何人か出てしまっていた。俺が治療して元に戻したが。


 ガスターという名前だと思われる男が隊長なのか説明をしてくれた。関わりがないので自信がないが、中佐あたりだった気がするんだよな。


 「はっ!実は……」


 姫が母方の実家であるウィンダム公爵家に護衛を五◯人程付けて、諸用を果たしに行った帰りに、さっきの百人程の集団に襲われたというのが事のあらましだ。

 姫の誘拐なのか、殺害なのか、目的は分からないが、待ち伏せしていて襲ってきた。

 相当の手練れであったようで苦戦を強いられ、魔術師は双方共に最初の方に無力化され、ジリ貧の近接戦闘を繰り広げていたところに俺が現れたということだ。

 俺としても味方の損害を減らすために、魔術師は最初に狙いたい。


 ちなみに沈黙の魔法で黙らせた姫は声が出ないとジェスチャーをして、大人しく話を聞いていた。



 ここで関わってしまった以上、解決しなければならない問題が顕在化する。

 俺は王都には帰れない。同じ容姿の人間がいるのだから、選択肢として最初に除外する。

 単独で実家に帰るにしても、彼らを帰したら同じ理由で街道で会ったあいつは何者だということになる。

 途中でまた襲われるかもしれない。

 では、どうするか? 最も手っ取り早くて確実なのは……。





 この場にいる全員を一人残らず始末することだ。






 しないよ。そんなことしないよ?

 思いついただけだから。

 

 仕方ないからみんな実家に連れていくか。

 姫はうちの実家と付き合いがあるから良いとして、残りの兵には家族ぐるみの付き合いだとか誤魔化そう。

 

 名前を偽っていることと、実はティファレント家だった知られると面倒くさいことになりかねない。

 姫を黙らせたのはそういう理由だし、彼女自身もわかって反省している。

 姫には手紙を出して、兵も一緒に居てもらうとかでも良い。最悪、兵には本当の事を話すという選択肢もある。


 沈黙の魔法は既に解除している。

 とりあえず姫に方針を決めさせて、ガスター達を従わせる形で行こう。


「姫様、私はティファレント領に向っております。姫様も王都に戻られるより、安全だと思いますが皆もご一緒に如何でしょうか?」


「そうじゃな。王都に帰るより、ティファレント家に世話になった方が良いじゃろう。ガストン達も良いな!」


 ガスターじゃなくてガストンだったか。名前を呼ばなくて良かった。

 あぶねー。危うく名前を間違えて呼ぶところだったわ。

 

「はっ。敵の襲来がまたあるかもしれませぬ。ルクス殿の申しますように、ティファレント領に行くのが良いかと思います」


 スカーレットが疾すぎて、ティファレント領まで間近な距離まで来たし、王都に行くよりも確実に近くて安全だ。

 何かあっても俺一人でどうにか出来るしな。


「うむ。妾はルクスの馬に乗せて貰おうぞ。良いかえ?」


 あー、そうなるか。

 スカーレット大丈夫かな?


「……」


 意外にもしおらしく、身体を落として乗っていいよという態度を姫に見せた。

 やはり頭の良い馬なんだな。


「おぉ! 賢いの! 立派な馬じゃ!」


「スカーレットと名付けました。賢いだけではなく、私が今まで乗った中で最も優秀な名馬です」


 そう言って撫でると、嬉しいのか頭をスリスリさせてくる。


 可愛いかよ。


「では、ティファレント領へ参りましょう」


 こうして、俺たち一行はティファレント領へ向かうのであった。

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