第6話 元魔術師団長殿の現在
「ふはははは!最高の気分だ!」
マルキウスはルクスを追い出した後に一人、声を大にして喜んでいた。
それもそのはず。
出世を妨げる目の上のタンコブがいなくなり、その地位に加えて、若くて才気だけでなく魔力溢れる肉体を手に入れたのだから。
中将から大将となれる日も近いのではないか。
そして元帥となるのも現実味を帯びてきた。
もっとも、この身体は中将でありながら元帥代理でもあるがな。
そして何より楽しみなのは、女性を抱くこと。
以前の身体では若い時ほど元気がなくなってきたと感じていたので、まさに僥倖である。
そもそも団長職の兼任など出来るわけがないではないか。
面倒な仕事は部下に任せてしまおう。
剣術は新兵の時にサボっていたせいで殆ど使えない。
魔術師だから剣など使う必要などない。
家のコネとゴマすりでのし上がって来たようなものだからな。
さぁ、今日は祝いだ!
娼館に行くぞ!
『な、な……どういうことだ?』
まさかの想像もしていなかった事件が起きた。
全てがここにあら不ず。
全てがないと言っても過言ではない。
つまり、不全。
むしろ不能。
そう、起きられないのだ。
どういうわけか、息子が起きてくれないのだ。
(勃て!勃て!息子よ!)
と心の中で叫んでも、以前の身体でお世話になっていた元気になる魔法を使っても状況は変わらない。
不全というと完全でないみたいな響きだが、皆無と言っても良い。
元気なきこと柳の如し。
娼館の相手女性は気まずそうにしている。
くそったれ……!
彼は心の中で呟いた。
「すまない。大事な用事があったのを思い出したので、失礼する」
大事な用事なんて無いが、そうでもしないと面子が保てなかった。
女性を抱けないとわかった以上、お姉さんのいるお店で酒を飲む気力がないので帰宅する。
元の身体の時から使っていた家を使う。
退役の時に、騎士団長殿に寄贈という名目で名義を変えており、荷物も何もかも全くそのままの状態である。
城の者は誰も知らないので、本来のルクスの家に帰らなくても、足が付く事はないはずだと。
調べた限りで独身、恋人なし、一人暮らし、メイドはいない。
これなら帰らなくても問題はないだろうと。
そもそも住所がわからなかった。
世間的には褒められないことだが、兵の住所録を確認すると、何故か名前以外の殆どか空白。
その他、軍に入る前の経歴等も全く謎。
自分が人伝てに聞いた話も本当かわからない。
秘密主義なのか、上の意向なのかはわからないが逆に都合が良かった。
家に帰ってから、やろうと決めていた事を実行する。
悪魔に文句を言う事だ。
「おい、貴様。換魂の法で交換すると不能になるなど、説明がなかったそ。貴様は言ったよな?女を抱けると。これは契約違反ではないか?」
「それは、換魂の法の副作用ではない。予め身体を奪われた後に発動する呪いが掛けられていた。だから私のせいではない」
「ふざけるな!契約書に記載してある『話す内容に偽りは一切ないことを誓う』という内容に反している。結果的に貴様が約束した結果が得られない以上、偽って契約を結ばせたのと同じだ!どうしてくれるのだ!?対価として捧げた寿命と魔力を返して貰うぞ!当然、肉体も元に戻せるのだろうな?」
「……。私ではその呪いは解けない。他に望むものがあるのであれば、それを叶えよう」
「ふん、だろうな……。王を傀儡とすることは出来るか?姫婿となるか、養子となるか、乗っ取るか、いずれにしても将来の王を目指すのも悪くない」
「わかった。不自然が無く、お前の言葉に逆らえないように呪いを掛けておく」
娘を抱けないのは手痛いが、王となることで手打ちにしよう。
この勃たない呪いを解く方法を探すことにする。
何故このような呪いが掛かっているのだ……!?
ふざけおって!
その後、本来の自分の肉体が、王都の公園で眠っているところを保護したと報告が上がる。
一般的に知られていない暗殺部隊の服装をしており、死んではいないが目を覚さないという状況。
目を覚まし次第、話を聞くということになった。
目を覚まさないなら都合が良い。
むしろ死んでくれたか?
この身体に不都合があった場合に、元に戻れるかもしれない。
王となって、楽して贅沢して女を侍り、完璧だな。
そうして、マルキウスは全てを手に入れつつ、呪いを解くため奮闘を始めるのであった。
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