第3話 忍者ギョー

「何者ぞ?」


ロードゲーム後、私とふとっちょはジャンピングポイントから村の近くに飛んだ。


冒険者ギルドがどうなっているのか、画面からではなく、ちょくせつ我が目で確認するためである。


ポイントから村まではそれほど遠くはない。走ればすぐに着く距離だ。


しかしながら私は今、ソウルインプット中である。この世界を楽しみたい。


歩いて景色を楽しむのだ。楽しむのだったが……どうやら判断を誤ったようだ。


ポイントに着き、しばらくすると “0“ の文字が飛び出した。


周囲を見渡すが、モンスターはいないようだ。


このような時は、足下に小動物系のモンスターがいたりするものだが、それすらいない。


深まる謎。

あの “0“ の文字は何だったのか。


そんなことを考えていると、またもや “0“ の文字が飛び出した。


文字が飛び出すほんの少し前に、小さく “カン“ と音がしておった。


『ふむ』


なるほどそうか。


「ん? ロボ氏どうしたんだな?」


ふとっちょは何も分かっておらぬ。


『きさま正気か? いま音がしたであろう? あれが何か気にならないのか?』


明らかに不自然な音だ。

さらに、“0“の文字が浮かび上がるということは、攻撃されている以外に無い。


まあ、我がブラックゴブリンはレベルが違う。ここら辺のモンスターがどれほど頑張ろうが、どうなることも無いのだ。


「そうだったのかぬ? 僕はソウルインプットしていないからか、良く聞こえなかったんだな」


ふとっちょのアバターであるふとっちょの嫁は、表情一つ変えず答える。


なるほど、あの音はソウルインプットしているからこそ気づけたのかもしれぬな。


『ふとっちょよ、今我々は攻撃されておる。周囲を確認するのだ』


ふとっちょの嫁は動きを止めた。

おそらく周囲を確認しているのであろう。

このようなときは、画面プレイの方がやりやすかったりするようだ。


「ロボ氏、あそこなんだな!」


ふとっちょの嫁が指差す先を見ると、小石が私に向かって飛んで来たところであった。


私は飛んできた小石をかわし、すぐさま――かなり力を抜いて――小石を投げ返した。


すると、林の中から “20“ の数字が飛び出した。

手応え有りである。


“ドスッ“ と音がする。

木から落ちたのであろう。


私はすぐに木の元へ飛ぶ。

しかし、そこには何もなかった。


「何者ぞ?」


どこからか声が聞こえる。

360度全てから聞こえておるような、そんな気さえする。


『何を言っておるのだ? 我がブラックゴブリンを知らぬのか? 貴様こそ何者だ?』


だいたい正体は分かっておる。

冒険者ギルドを創ったのだからな。

冒険者以外におるまい。


がしかし、村にも行ったことがあるこのブラックゴブリンを知らぬはずがないのだが。


「だ、誰なんだな! 出てこないとお仕置きしちゃうんだな!」


「怪しき者ぞ、ここは通さぬ」


ふとっちょは要らんことをしてくれる。

ソーサリーメイドの見た目で、ふとっちょの声が聞こえてきたら、誰でも怪しむというものだ。


また別の角度から小石が飛んできた。

いち早く気づいた私は、小石を避けること無く飛んできた方へ突っ込んでいく。


“0“の数字が飛び出す。


小石が飛んできた元――茂みをかき分けると、頭巾ずきんにマスクで、目の部分のみが露出している格好をしておる……間違いない、忍者だ。


忍者がそこにおるのだ。


「ふん」


忍者は足下に何かを投げつけた。

すると、煙が吹き出し周囲を真っ白に染めた。


煙が吹き出したのと同時に、忍者は真横に飛んだ。

私もすぐに横へ飛び、忍者の目の前に立つ。


一切の間を空けず、忍者の顔面に拳をめり込ませ、殴り倒す。

そうである、私には全て見えておったのだ。


周囲が煙で覆われた程度、何ということもない。

捨てられた街の暗闇で学習したのだ、プレイヤーに有利でないと面白くないと!


暗闇だろうが、煙まみれだろうが関係ない。

いつでも拳をくれてやろうではないか。


忍者の頭に “40“ の文字が飛び上がる。


『その浅はかな行動を悔いるがよい』


私は地面にめり込んだ忍者に、拳の裏を向け言い放つ。


ほんの少しの間をおいて、忍者はゆっくりと倒れるように地面から抜け出した。


「ダンナ、勘弁してくだせー。あと2削られたら、アッシはこの世からオサラバでさー」


!?

まさか、このような話し方をする者がいようとは……


「あー、ロボ氏ー! この人話し方がおかしいんだな~」


いや、きさまが言うでない、ふとっちょよ。


『きさま何者だ? 冒険者か?』


「アッシの名前はギョー。冒険者で忍者のギョーでごぜえやす」


ギョーは地面に横たわったまま答える。


冒険者といえども、村人にかわりない。

村人にはセーブもロードも無い。

つまり、一度ポイントがゼロになったらそれっきりとなるのだ。


『それで、きさまは何をしておったのだ?』


「へい」


ギョーによれば、冒険者になれたのだから、村の外を探索しておったら私たちを見つけたのだそうだ。


「ダンナたちを見つけたものの、どうにも怪しくて、隠れて様子を見ることにしたんでさー」


『うむ。それで、なぜ小石を投げてきたのだ?』


「へぇ。モンスターかどうかの確証が無かったもんですから、石を投げたら分かるかと思いやしてね」


なるほど。それは無くはないであろう。


『しかしだな、我々は一度村に行っておるのだぞ?

気づかなかったのか?』


ギョーは未だ横たわったまま、目を細めて私を見る。


「……!? た、確かに! 見やした! お、おのれ、村を狙う化け物だったかー!」


ギョーは飛び上がると、ナイフを構えた……


……面倒臭い。

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村人M(仮) 草った頭 @kusattaatama_1

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