第11話 冒険者ギルド

 ロボ氏が村人達の呼びかけに答えない。

 これでは村人たちが反乱を起こす可能性が出てくるんだな。


『ふとっちょよ、きさまが天国の光を使えば良いではないか』


 僕だって天国の光は使える。

 というか、誰でも天国の光は使えるんだな。


 でも……


「僕が使ったところで、前みたいにモンスター認定されてしまうんだな」


 以前、僕の嫁で村人達と交流したときに、僕が話始めるとモンスター認定されて、襲われそうになった。


 天国の光を使った場合、襲われることはないだろうが、偽物扱いされることは目に見えているんだな。


「確かに以前の秋葉さんの状況を考えると、適任とは言えなさそうです」


 水木氏がフォローを入れてくれる。


『そうであったとしても、私は嫌なのだよ』


 ロボ氏が頑なに拒否する。


「うむ。しかしだな、ふとっちょでは失敗が目に見えておる。ここは私がやるとしよう」


「それはいいですね。教授ならロボ教授と同じ声ですし、村人達も気づかないはずです」


 どうやら難をまぬがれたらしい。

 仲川氏はさっそく天国の光を作動させる。

 村人達の前に空から光が差し込む。


”村長よ、今度はどうしたというのだ?”


 仲川氏の天国の光は、ロボ氏と遜色ない。

 これなら大丈夫なんだな。


『神よ、村長です。これまでいろいろと私たちの願いを聞き入れていただき、ありがとうございます』


 マッチョ村長は天国の光に向かって深々と頭を下げた。


『ほんの少し前に、私どもに職業を与えていただいたところですが、この村で手に入る材料では大したものを生産できない状況です。そこで、村の外にある素材を回収してまいりたいのです』


 確かに村の中だけでは、石や雑草しか手に入ら無さそうなんだな。

 とはいうものの……


”うむ。確かに村の外の方が良い材料が手に入るであろう。しかしだな、そのリスクは分かっておるのか?”


 村の外にはモンスターがいる。


 ノンプレイヤーキャラクターである村人は、プレイヤーキャラクターとは違い、一度の死が本当の死になる。

 データのセーブもロードゲームも無いんだな。


 元が意識のコピーなのだから、現実世界的に問題は無いと言えば問題ないのだが、本人としてはとても重要で、怖い話のはずなんだな。


『神よ、分かっております。それでもお願いしたいのです』


 マッチョ村長が答える。

 それだけの需要があるということなんだな。


”それであれば良かろう。しばし待て”


 そう言うと仲川氏は、天国の光を引き上げた。


 さてどうしたものか。

 僕はロボ氏を見る……ロボ氏がいない。

 あたりを見回すと、ロボ氏はいつものイスに座っていた。


「ロボ氏~、何してるんだな~?」


『今はやるべきことが山積みなのだよ。きさまらの話は聞いておるから、進めるが良い』


 ロボ氏は高性能ロボットだけあって、同時にいくつもの事を進めることができる。


 僕たちの話し合いを聞きながらでも、他にいくつかの作業を進めるつもりなんだな。


「うむ、ロボの私よ分かったぞ」


 仲川氏もその辺りは十分に分かっているんだな。


「仲川氏、村人を村の外に出すといっても、誰でも外に出れるようにするのはマズイと思うんだな」


 外に出ることを望まない村人もいるだろうし、誰でも外に出ていたら、誰がどうなってしまったのかかが分からなくなってしまう。


「秋葉さんの言う通りですね」


 水木氏もそこら辺は分かっているようだ。


「となると、村の外に出るのは届け出制か登録制に限った方が良いな」


 届け出制とは、誰がいつ外に出るのかを届け出る制度のことなんだな。

 これだと誰がいつ出たのかのリストが作成されるから、何かあっても比較的直ぐに分かる。


 しかし、村に帰ってきたことまで届け出るかは分からないかもしれないし、毎回手続きをしないといけないというデメリットがある。


「僕は登録制がいいと思うんだな」


 登録制だったらアレを作れるんだな。


「登録制か。どのようなシステムにする? 何か案はあるのか?」


「あるんだな。冒険者ギルドを創るんだな」


 冒険者ギルドは冒険をする者が所属する組合で、冒険者の管理と手助けをするところなんだな。


「なるほどな。冒険者ギルドを創って、村への出入りを管理させるという訳だな」


「そうなんだな。そうすれば、僕らが目を光らさる必要は無くて、ギルドが管理するから僕らの手間も省けるんだな」


「秋葉さんの案は良いと思います」


 水木氏も賛成してくれている。


「しかし、登録すれば誰でも出てゆけるのであろう? 届け出制と何か違うのか?」


「違うんだな。登録は一定条件を満たした者だけになるんだな。少なくとも冒険できる体力が必要なんだな」


「そうすることにより、村人が死ぬ可能性を低減するという訳だな?」


「その通りなんだな」


 これで、村の外に出る人の管理ができるようになるのと同時に、あこがれの冒険者ギルドの立ち上げが可能となる。


 例えば異世界モノなら、冒険者ギルドはほぼ存在するから、また一つ理想に近づいたんだな。


「ギルドということは、登録した者にはギルド証を発行せねばならぬな」


「教授、それだとギルド証を紛失したら管理が出来なくなるのでは……」


「水木氏、その点は問題ないんだな。ギルド証は発行するけど、確認はステータス画面でするようにすればいいんだな」


 ギルド証はモバイルで。


 そうすることで、意識しなくても勝手に村への出入りを管理できるし、なんならどこにいるかまで把握することが出来る。


「あと、村人の職業に冒険用の職業を追加した方が良いんだな」


 こうして、村の外に出るための条件は着々と整っていった。

 追加職業は、武闘家、傭兵、狩人、忍者とした。

 また、シャーマンには魔法が使えるように仕様を変更した。


『うむ、良かろう。きさまらの話を聞きながらシステムは構築済みだ』


 いきなり奥のイスに座っているロボ氏が割って入った。


「仲川氏、さっそく村人に伝えるんだな」


 こうして村に冒険者ギルドができ、冒険者用の職業に転職する者が殺到した。


『ありがとうございます神よ』


 マッチョ村長が感謝の意を述べる。

 村人の三分の一は冒険者となり、直ぐに村の外に出て行った。


「ところで、追加職業ですが、なぜ戦士や魔法使いを入れなかったのですか?」


「助手よ、決まっておるではないか。戦士や魔法使いはプレイヤー用の職業なのだよ」


『流石は私なのだよ。そこは譲れぬところだな』


 仲川氏の考えは、やはり僕にはよく分からないんだな。


 ◇


 翌日。

『私はこれから再度ソウルインプットを使用する。そこでふとっちょよ、きさまは通常通りゲームをし、私と連携するのだ』


「待つのだロボの私よ。それでは私が四日連続でゲームを出来ぬではないか」


 仲川氏とロボ氏は同じキャラクターを使っていることもあり、どちらかがプレイ中はどちらかがプレイできない。


 ロボ氏がソウルアウトしてから今日まで、村人の職業を作ったり、ボスを作ったり、アイテムを作ったりなどなどをしていたから、仲川氏はゲームで遊べていない。


 もちろんロボ氏も三日ほどできてはいないのだが、仲川氏の方が時間的には長い。


『人の私よ、きさまにはやるべきことがあるではないか。まだアイテムの実装が出来ておらぬのだよ』


「ぬう、きさまがした方が速かろうがロボの私よ」


 ゲームへの実装は、人が行うより、ロボが行った方が早いに決まっている。


『それはその通りであるが、私は直ぐに中に入りたいのだよ』


 そういうと、ロボ氏はイスに座ったままウンともスンともいわなくなった。


 ……逃げたんだな。


-------

 第二章おわり。

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