第10話 アイテム

 暗闇で自ら発光する仕様について、あれだけ引っ張っての回答が 「検討しよう」 だけというのは腑に落ちないが、ロボ氏はロボ氏でいろいろ思うところがあるのかもしれない。


 気にしないようにしよう。


 ◇


 翌日。


『今日はアイテムを考えてゆく』


 アイテムとは言っても、色々な種類がある。


「ロボ氏、どんなアイテムを考えているのかな?」


『うむ、まずはステータスアップのアイテムであろう』


 ステータスアップのアイテムは、手に入れると少し幸せな気分になるんだな。

 とはいうものの、どういうステータスを考えているのだろうか?


「なるほど、それでは筋力アップはプロテインで決定だな」


 仲川氏が安易な考えを披露する。

 あり得ないだろう。プロテインって……


『うむ、決定だな』


 もう僕にアイデアは無い。


「それでしたら、体力はタウリンですね」


 水木氏はおっさんだろうか?


『ほう助手よ、良いではないか』


 冗談だろ?

 それでいいのなら僕も出るんだな!


「な、なら亜鉛で免疫力を向上するんだな!」


「それはないな。ふとっちょよ、そもそも免疫力というステータスは無いのだよ」


 た、確かに……

 僕としたことが、気が急いてしまった。


 このゲームのステータスを思い出すと、HP、MP、筋力、賢さ、体力、素早さ、運なんだな。


 やはりこれに絡めて考えていくべきなんだな。


「美容にマルチビタミンはどうでしょうか?」


 水木氏が僕と同じ過ちを犯す。


 他山の石という格言を知らないのだろうか?


『なるほど。現状では美容のステータスは無いが、ソウルインプットを使うと現実と変わらなくなるのだから、新設するのも有りかもしれんな』


 話が違うだろう。ロボ氏、話が違うだろう。

 ステータスに追加項目有りなら、僕の亜鉛を採用してもいいだろう。

 なんで水木氏だけ許されてるんだ?


「となると、目薬も必要だな。目がかすんでは戦闘が出来ぬからな」


 目薬は暗闇状態のような、目が見えなくなる状態異常回復用が一般的。

 仲川氏もやっちまったんだな。


『流石は私なのだよ。これから遠距離から攻撃できる武器も作ってゆこうと考えていたのだよ。目薬が有れば相乗効果が狙えて良いのだよ』


 もう何も言うまい。


「持久力と言ったらマルチミネラルですね」


「ほほう、良いではないか」


『そうだな。そして賢さと言えばDHAしかないであろう』


「ということは、残りはHPとMPと素早さと運ですね」


「助手よう、運と言えばパワーストーンで決定であろう」


『そうだな人の私よ。そしてMPであれば魔力の小袋だな』


 うん、MPと運で初めてそれっぽいのが出てきたんだな。


『素早さはスピードスターとする』


 素早さはサラと流すんだな……


「となると、残るはHPだが……」


「HPですか……」


『ふとっちょよ、何か良い案はないのか?』


 ここにきて急ブレーキなんだな。

 三人ともが僕に注目している。


 パワーストーン、魔力の小袋とスピードスター……以外の流れを考えたら一つしかないんだな。


「マカ」


「秋葉さん……」


「ふとっちょよ……」


『きさま……』


「「『天才か!』」」


 なんか悲しくなってきたんだな。

 ステータスアップのアイテム、そのほとんどがサプリメントになってしまったんだな。


 作成中のゲームは少なくともファンタジーなんだな。

 現実的なサプリメントなんか誰も求めてはいないんだな……きっと。


 結局ステータスアップアイテムは初めに出たアイデアで決定された。


 マカ――HPアップ。


 魔力の小袋――MPアップ。


 タウリン――体力アップ。


 プロテイン――筋力アップ。


 マルチミネラル――持久力アップ。


 スピードスター ――素早さアップ。


 DHA――賢さアップ。


 マルチビタミン――美容アップ(予定)。


 パワーストーン――運アップ。


 目薬――視力アップ(予定)。


「そういえばこんなアイテムを作ってみたんだが……」


 僕はみんなに画面を見せる。


「ワラですか?」


「そう、ワラなんだな」


「きさま、ふざけておるのか?」


 いやいや、ステータスアップアイテムのほうがふざけているんだな。


『隠れミノか』


「そうなんだなロボ氏!」


 やはりロボ氏は頭の回転が違うんだな。


「ロボ教授、これは何に使うのですか?」


 水木氏、そこは僕に聞くべきところなんだな。


『これはだな、擬態ぎたいするためのモノなのだよ』


 そうなんだが、ロボ氏、そこは僕に答えさせるべきところなんだな。


「うむ、擬態とは風景に馴染んで敵に視認されにくくなることなのだよ」


 仲川氏まで……

 僕無視で進行されているが、隠れミノは擬態のためのアイテムなんだな。


 ただ、風景に馴染むという訳では無くて、そのフィールドに合った何かに化けるアイテムなんだな。


 例えば、岩場では岩に、街中ではゴミ箱や壺に、草原では草むらに化けるんだな。

 一枚の葉っぱとどっちがいいか悩んだんだが、やはりミノがいいと思った。


『なかなか面白いではないか。採用なのだよ』


 サプリメントでは特に何もできなかったが、隠れミノで挽回ばんかいできたんだな!

 ……挽回の必要はないんだがな。


「ふとっちょが作った隠れミノは、すでにデザイン済みのようだな。それではステータスアップアイテムに注力すれば良いな」


「教授、では早速デザインしていきますか」


『待つのだよきさまら。まだなのだよ。もう一つ考えねばならんアイテムがある』


「き、きさま! まさか!」


『そうなのだよ。呪いのアイテムがまだなのだよ』


 僕は全く必要性を感じない。


 呪いのアイテムとは、高性能ではあるが使用すると呪われるということで、あまり嬉しくないアイテムのことだ。


 呪いの正体は、大体が尋常でない状態異常だ。

 ロボ氏はなぜそんな不要なモノを作ろうとしているのだろうか?


『先にボスとして、酒呑童子しゅてんどうじを作ったであろう。私はあれのステータスを一般のモンスター程度にしか設定しておらん。なぜならば、そこにロマンがあるからだ』


 ロマンを語るマッドサイエンティストが再び現れた。


「ほう、ということは、その呪いのアイテムを装備したことによってボスになるというわけか」


『流石なのだよ人の私よ。呪いの短刀を装備することによってボスになる。それが我が酒呑童子!』


「短刀と決まっているのですね?」


『そうだぁ。呪いの短刀、その名も ”妖刀 酒呑藏さけのみぐら”』


 な、なんて十八禁なアイテム……いや、二十禁なアイテムだ。


「ロボ教授、それではそのアイテムが盗まれたら、酒呑童子は直ぐに倒されてしまうのではありませんか?」


『盗まれればな』


 何なのかよく分からないが、ロボ氏が嬉しそうで何よりなんだな。

 結局呪いのアイテムは結構な数を作ることとなった。


 呪いの短刀(妖刀 酒呑藏)


 呪いの仮面


 呪いの指輪


 呪いの服


 呪いの腕輪


 呪いの靴


 呪いのズボン


 呪いの首輪……僕の首にあるのが既に呪いの首輪なんだが……


「ロボ氏、呪いの首輪ってこれのことかな?」


「皆さん、これを見てください」


 僕の嫌みをかき消すように、水木氏がまた割り込んでくる。


 どうせあれなんだな。

 村人なんだな。

 いつもいつも村人なんだな。


 仲川氏もロボ氏も画面の前に立つ。

 仕方が無いので、僕も画面をのぞき込む。


 そのにはやはり、マッチョの村長が立っていた。

 村長の後ろには、その他の村人たちが集まっている。


 これで何度目だろうか?

 転職できるようになったばかりだというのに。

 僕は呪いの首輪が外れなくて迷惑しているというのに。


 そんなことを考えている間、他の三人は画面をジ―ッと見ているだけで、特に何をしようという雰囲気が感じられない。


「ロボ氏、何してるんだな。天国の光を使って早く村人達のお悩みを解決するんだな」


 これまでもそうしてきた。

 天国の光なら直ぐに使えるから、特に問題ないんだな。

 ところが、そんな僕の問いかけに、ロボ氏は顔を向けて言った。


『嫌なのだよ』

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