第9話 ボスと魔法と特殊能力
「皆さん、村人の転職が終わったようです」
水木氏は仲川氏の決め台詞に全く興味を示していなかった。
仲川氏とロボ氏は互いの目を目るとコクリとうなずき合った。
さっそくロボ氏は天国の光を発動する。
”鍛冶と薬士に転職したものはおるか”
すると数人の村人らが天国の光の前に出てきた。
”さっそくだが、今ここで何かアイテムを作って見せよ”
前に出てきた村人達に緊張が走る。
初めての作業なのだから、失敗はつきものなんだな。
それをいきなり神の前で行うのだから、そりゃあ緊張だってするんだな。
とはいうものの、神に言われたからにはしないわけにはいかない。
パラパラとそこら辺にある石や草を持ってきて、スキルを使い始めた。
すると、あちこちで爆発が起こり始めた。
”分かったか村人どもよ。作成に失敗したら爆発するシステムだ。もちろんダメージも負うのだよ。そこら辺も十分に加味するが良い”
ロボ氏はそう言うと天国の光を引き上げる。
村人たちはその場に呆然と立ち尽くしていた。
ロボ氏は僕たちに向き直って言う。
『ではこれから、ボスモンスターを作っていこうではないか』
村人達が呆然としていたことは無かったかのように、ボスモンスターの話を切り出した。
「ほう、確かにな。中ボス程度はいくらか作ったが、ボスはまだであったな」
「そ、そうですね。では早速かわいいボスを……」
どうやら水木氏の頭には ”かわいい” しか無いようだ。
「かわいいはせいぜい一体だけで十分なんだな」
「そうだな。助手よ、一体だけだ。一体に全てを注ぎ込むのだ」
「りょ、了解しました」
水木氏はいつになく真面目な顔をして敬礼した。
しばらくすると、ロボ氏が声を上げた。
『できたぞ!』
どうやらボスの案が出来たようだ。
案と言っても、実装はロボ氏が行うのだから、ロボ氏が作ったものは採用決定である。
ロボ氏のボスを見ると、角が生えた赤い肌……
「赤鬼かな?」
『う~む、違うな~。
酒呑童子――簡単に言えば、酒好きの鬼である。
それなりに有名なモンスターに分類されるとは思うが、まさかロボ氏が作るとは……
「このフォルム。流石なのだよロボの私よ!」
『やはり! 分かってもらえるか人の私よ!』
やはり同じ仲川氏だけあって、こういうところは通じ合っているんだな。
『出来はしたのだがな、これはまだまだ完成ではないのだよ。これには先がある。楽しみなのだよ』
ロボ氏は独り言のように未完成をアピールする。
「それでだな、皆の者よ。私も完成したのだよ」
見ると、仲川氏が作成したのは白い蛇のようだ。
「大きな白蛇ですね?」
水木氏は見たままを伝える。
「助手よ、きさま何も分かっておらぬな。これは竜だ。塩で出来た竜なのだよ」
その名の通り、塩の竜だ。
塩である理由が特に分からないが……
「なに、進入禁止区域が
なるほど、そういうことなら納得なんだな。
『人の私よ、やるではないか。では絶対に負けるわけにはいかぬから、全ての能力をMAXに設定しようではないか』
こうして無敵のボスが誕生した。
実働することはないんだろうけど。
「まさか、秋葉さんと同じ扱いを受けるなんて……心外です」
水木氏はボソッと言ったつもりかもしれないが、僕にはバッチリ聞こえてるんだな。
大丈夫。僕のハートはここ数日で確実に強くなっているんだな。
『して、助手にふとっちょよ、きさまらは出来たのか?』
「私はまだです」
「僕は出来たんだな!」
水木氏は僕を睨む。
いつから敵視されるようになったんだろう。
「ほう、三つ首の龍か」
「そうなんだぬ。その名も ”
『う~む。普通だな』
「普通ですね」
ロボ氏が否定し、水木氏がそれに乗っかる。
いいんだな、僕のハートはここ数日で強くなったんだな。
僕たちはそれから数体のボスモンスターを作成していった。
◇
翌日。
みんなが揃ったところでロボ氏が提案してくる。
『ゲームと言えば魔法であろう。そろそろ作っておこうかと思う』
確かにファンタジーであれば魔法は必須だ。
「魔法なら、攻撃、補助、回復の三種類に大別されるんだな」
『うむ、そうだな。しかし、このゲームの性質上、蘇生は入れない予定だ』
「なるほど、このゲームはゲームオーバーになったとしても、ロードし直すとセーブした場所からスタートするから蘇生は不要ということだな」
『その通りだ人の私よ。さらに魔法ではないが、魔法のような効果の能力も作ろうと思っておる。案を持ってくるのだ』
すると水木氏が手を上げた。
「も、モンスターをモフモフにする魔法を作ってください!」
『却下だ』
即否定のロボ氏。
水木氏は白目をむいて固まっている。
『そのような遊びは必要ない』
すると仲川氏が割って入る。
「ロボの私よ。基本的にはきさまの考えと私は同じだ。しかしだな、一般的にはこのモフモフに命を懸けておる者もおるようだ。一般リリースされることを念頭に置くと、不必要とは言えぬぞ」
仲川氏がまともなことを言っている。
『そうか人の私よ。では仕方あるまい。助手よ、魔法名は ”モフモフ” で良いな?』
「ふぁい!」
水木氏は両手で口を押えて、涙目で普段使わない言葉で返事をした。
よほど嬉しかったのだろう。
とりあえずモフモフは補助魔法に入れ込むことになった。
さて、僕はどんなものを作っていこうかな。
ソーサリーメイド系の魔法でもいいんだが、それだといろいろと問題が出る可能性があるんだな。
みのちゃんを作った時点で問題があるのは十分に承知の上なんだが、これ以上サーサリーメイドのお世話になるわけにはいかないんだな。
これは僕の意地なんだな……あ~プチボウガンも作ってたんだな~。
ま、まあ過去は振り返らないんだな。
僕は前を見て生きていくんだな。
こうして僕は二つの能力を考えた。
ダメージは与えないが、相手を吹っ飛ばすことが出来る。
魔力は必要ない。
オーラソード ――刃物系武器を振ったり、突いたりしたときに輝く刃が出る能力。
もちろん魔力は必要ない。
「ほう、発破にオーラソードか。やるではないかふとっちょよ」
褒められるっていいんだなぁ。
仲川氏達は、あれこれと考えてはいたようだが、基本魔法を考えた他に忍術も考え出していた。
まあ、忍術も王道の能力の一つなわけなんだが、仲川氏達が考えたということが凄いことなんだと僕は思う。
攻撃魔法は、火、水、土、風、氷、光、闇の属性を基本とした。
補助魔法は、能力向上や状態異常を基本とした。
回復魔法は有名なヒールを作り、状態異常回復もいくつか作った。
もちろん、蘇生に関する魔法は作っていない。
「うむ、それなりのモノができたな」
仲川氏は満足そうである。
『そうだな人の私よ……ぬお!』
急にロボ氏が奇声を上げる。
「どうしたんですかロボ教授?」
『忘れておった。建物があるフィールドに明かりを設置せねばならぬ』
ロボ氏の話によれば、夜になると普段は太陽の光が当たるところほど、真っ暗になるのだそうだ。
目を閉じて暗闇に慣れようとしたが、無理だったそうなんだな。
だから明かりを設置していくと言っているんだが……
「ロボ氏、それなら真っ暗闇に入った時は、キャラクターが勝手に光を放つ仕様にしたらどうかな?」
『むむ?』
と言ったっきり、ロボ氏は黙り込んだ。
しばらくの沈黙ののちに、ロボ氏は顔を上げて言った。
『検討しよう』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます