第8話 村人の職業
僕が装着したのは、安物のネックレスではなく呪いの首輪だったんだな。
首にかけると収縮して、絶妙にフィットした。
あの ”カチッ” という音が引き金だったようだ。
絶妙にフィットした後は、どうやっても外すことができない。
首との間に隙間さえ見つけきれない。
外せないネックレス……まさに呪いの首輪だった。
「ろ、ロボ氏?」
僕はどうしていいのか分からない。
『なんだ、ふとっちょよ』
「あの……これ外せないんだけど……」
僕は呪いの首輪に指をかけ、外れないアピールをする。
『当たり前ではないか、外れてしまっては動きのデータが取れないではないか』
現実は残酷だ。
「いや……でもロボ氏――」
僕が反論しようとしたその時。
「皆さんこれを見てください」
水木氏!
「今それどころじゃないんだな!」
思わず大声を出してしまった。
「秋葉さん、うるさいです。皆さん早くこれを見てください」
イラッとしている僕をしり目に、仲川氏とロボ氏は水木氏の元へ向かう。
やはり僕は軽く見られているんだな。
とはいうものの、何が起きているのかは確認したい。
僕も仕方なく水木氏の元に行く。
水木氏は画面を指さしている。
またこのパターンか。
画面の中では、姿を変えた村人たちがワーワー騒いでいた。
『かーみーさーまー』
『はあ、まじで、まじで、まじで』
『僕にはグッズが必要だ!』
いつも通り、村人たちのおねだりタイム。
まだ何か必要なんだろうか?
「ロボ氏、早く天国の光をだすんだな」
『うむ』
ロボ氏は天国の光を発動した。
”今度はなんだ? 村長はおるか?”
ロボ氏の問いかけに、待ってましたとばかりに、ほぼ全裸ムキムキマッチョの村長が現われた。
『神よ、村長でございます』
村長は胸筋をピクピクさせながら天国の光に頭を下げている。
全く
”うむ、それで村長よ、今度は何だというのだ?”
『はい、我々に職業をお与えください』
村長によれば、各自個性的な外見を手に入れ満足していたが、みんな職業は村人である。
そのため、何かしようにも適性が無く、上手くいかないということである。
その内みんなやる気を無くしてしまい、このままでは村が生きる屍の村になりかねないと
そこで、村人以外の職業をいくつか作ってもらい、各々が転職できるようにして欲しいということである。
『もちろん、その中には ”村長” という職業を必ず入れてください』
このムキムキマッチョは村長にこだわりがあるらしい。
しかし、コミュニティーを運営するには専門職というか、エキスパートというか、とにかくプロがいて役割を分担できる方がよりよいのは明白なんだな。
『現状はみな村人であるため、何をしたら良いのかが分からなくなっています。もちろん何もしなくても生きていけるのは分かるのですが、やはり生きがいが欲しいです』
静かに村長の話を聞いていたロボ氏であるが。
”うむ、
村長にそう伝えると、天国の光を引き上げた。
ロボ氏は僕らに向き返り、さっそく話し合いが始まった。
「ゲーム内の村人の職業といったら、まずは鍛冶、農民、商人が思い浮かぶんだな」
僕は最もポピュラーな職業をとりあえず伝えた。
「秋葉さんの言う通りですね。私はその他に詩人が必要だと思います」
水木氏も一般的な職業を提案してきた。
「助手よ、なかなかやるではないか。あとはシャーマンが必要だな」
仲川氏がオカシナことを言い出した。
「仲川氏、とりあえずシャーマンは必要ないんじゃないかぬ?」
当然の疑問である。
これは電子空間の話であり、そもそも
多少の気候変動はあるものの、基本的には温和な気候が続くのだ。
シャーマンといったら、異常気象や流行り病などを
祈祷といえば、神にお願いをすることである。
このゲームの神は誰か?
それはロボ氏であり、なんならロボ氏を除いた僕たちも神に属するはずだ。
つまりシャーマンという職業は必要ないんだな。
『ふう、これだからふとっちょは』
ロボ氏は両手を上に向け、肩を少し上げてあきれた感を出した。
このラボでは比較的良く見る光景なんだな。
しかし、僕は既に慣れているんだな。
「ロボ氏、どういうことなんだな?」
『ふとっちょよ、シャーマンは必要なのだよ。誰が何と言おうとだ』
「そうだぞ、ふとっちょよ。こればかりは理論ではない、ロマンだ」
人とロボのダブルで仲川氏が僕を
マッドサイエンティストが理論を捨てて、ロマンに走るなんて思いもしなかった。
「教授、ロボ教授、その考え私にも分かります」
水木氏にも分かるということは、僕には分からない話なんだな。
「うん、シャーマンは必要なんだな。分かったんだな」
『うむ。では職業は村長、鍛冶、農民、商人、詩人、シャーマン、あとは……踊り子、大工、料理人、薬士とするが良いか?』
シャーマン以後の職業がなぜ出てきたのか謎だが、もうどうでもいい。
基本職業は十種で決定した。
「うむ、しかし職業を変更した場合、村人であることが分からなくなりそうだな。ということはだ、村人は属性としたほうが良いのではないか?」
仲川氏が急に良いことを言い出した。
『うむ、確かにな。それでは種族は人、属性は村人で固定し、職業は十種から選択としようか』
悪くは無い設定だ。
「ところで、鍛冶や薬士といえば原料を加工するわけだが、そっちは問題ないのかぬ?」
「ふとっちょよ、なかなか冴えておるではないか。現状どうなのだ? ロボの私よ」
『うむ、システムの変更が必要だ。ふとっちょのくせにヤルではないか』
急に褒めだすいつものパターン。
う、嬉しくなんかないんだな。
嬉しくなんかないんだが、テンションが上がるんだな。
「あとは、出来上がったアイテムもイジレるようにしないといけないんだな」
『そんなことは分かっておる。調子に乗るでない』
「うむ」
「はい」
仲川氏が同意するのは分かるが、水木氏も同意するのは違うんではないだろうか?
何はともあれ、ロボ氏は直ぐにシステムを作り上げた。
その辺はさすが高性能ロボットなんだな。
転職はシャーマンが担当することになった。
シャーマンが祈祷をし、村人の転職が完了するというシステムなんだな。
シャーマン希望者を募ったところ、立候補者は一人だけだったから直ぐに転職をした。
あとはシャーマンが村人の転職をしてくれるから僕たちに面倒は無い。
シャーマンは村人の転職という力を手にしたが、いくつか条件を付けて、乱用や悪用が出来ないようにしているんだな。
また、一度転職を決めたら基本変更できない仕様なんだが、今後のことを考えて条件をクリアーしている場合は再転職を可能とした。
再転職については、とりあえず村人には内緒なんだな。
「ではそろそろ始めようか」
『うむ、そうだな』
仲川氏とロボ氏が何やら始めようとしている。
「仲川氏、ロボ氏、何を始めるって言うんだな?」
「ふん、ふとっちょよ、きさま一体ワレワレを何だと思っておるのだ?」
『そうだぞふっちょよ。分かっておらぬようだな?』
分かっているんだな。
自分の足では立てない自称マッドサイエンティストなんだな。
何を今更といった感じなんだが、違うのだろうか?
いつの間にか、仲川氏とロボ氏は横並びになっていた。
「そう……」
『我々は……』
「『マッドサイエンティーヌ!』」
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