第7話 仲川一輝
「コンニチハ ボクデス」
今や、世界で一番有名になったと言えるであろうこの一文。
一見バカっぽく見えてしまうが、この一文が世界を大きく変える第一歩となった。
この一文ののち、黒い石には意志があると確認できることとなる。
黒い石はこの一文ののち、返事をしたのだ。
何のプログラムもされていないただの石に、電気信号を送受信するための機器を取り付けただけ。
それだけの状態で、黒い石は返事をしたのだ。
そもそも黒い石には電気を通す性質がある。
これも仲川
見向きもされない中で、しかし仲川一輝は研究を続け、特定の電気信号に黒い石が反応することを突き止めた。
研究資金はほとんどなく、研究成果を発表し資金捻出を試みるも、見向きもされなかった。
それでも研究を続ける。
親族や知人たちには金銭面でも迷惑をかけ、かなり心配されていたようだ。
中には研究など止めて、その地域の一大産業である農業に
しかし、仲川一輝は黒い石の研究を止めなかった。
当時流行り出したチャットというシステムを利用して、黒い石との意思疎通を試みたのだ。
当初黒い石は、人間と意思疎通ができるようになったことに混乱していたそうだ。
混乱は大きく、いじけることも多々あったという。
ところが徐々にやる気を出し始めて、この世界の科学を一歩も二歩も前進させた。
今や偉大な科学者となった仲川一輝。
まさか仲川氏がその息子だったなんて……初耳だ。
知らなかった。
「村田氏、そんな話は初めて聞くんだな」
僕は素直に村田氏に言った。
「そうだろうね。これはトップシークレットの一つだからね。
「む、村田氏、そんな重大なことを、僕に話しても良かったのかぬ?」
時間が止まったかのように、村田氏は僕の顔を見たままピクリとも動かなくなった。
不意に口をダランと開くと「あっ」と小さい声が漏れた。
村田氏は右手を握り、口に当てるとゲフンゲフンと咳払いする。
「秋葉君、これは君の胸に留めて、決して他言してはいけないよ」
満面の笑みで村田氏は僕に言う。
そう、満面の笑みで……
背後に真っ黒い、殺意のオーラが見える。
村田氏……やっちまったんだな……
どう考えても極秘情報だ。
こんな情報を漏らしたらどうなるのか、いくら一般人の僕でも容易に想像がつく。
「も、もちろんなんだな! 村田氏、ぼ、僕は口が堅いんだな!」
唇が震え、手も震え、いや体の芯から震えている。
そんな状態で何とか言葉を振り絞り、僕は返事をした。
「さすがは秋葉君だ」
村田氏はなお満面の笑みだが、黒いオーラが消えている。
「まあ、ここまで話したんだし、もう少し続けようかな」
村田氏、正気か!?
正直やめて欲しいが、今は拒否が許されない雰囲気だ。
村田氏によれば、仲川氏は一輝博士の末っ子らしい。
一輝博士には他にも子供がいるようだが、科学の道を志したのが仲川氏のみだったそうだ。
一輝博士は自分の子供が科学の道に進むことを良く思っていなかったらしいが、黒い石が何故か末っ子の仲川氏を援助するように言ったのだそうだ。
黒い石にどのような意図があるのかは不明であるが、黒い石の一言により、仲川氏を援助することになったと村田氏は言う。
あまりに衝撃的な内容に頭はフリーズ気味だが、だからこそ僕の頭にはとても重要なことが浮かんできた。
そう「僕はこの研究所に必要ないのではないか」ということである。
こんなに重大な話の最中に、こんな話題を入れるのは正直いかがなものかと思うが、このチャンスを逃すと、次はいつになるか分からない。
僕は勇気を振絞って聞いてみた。
「と、ところで村田氏……」
僕が村田氏に声をかけたその時である。
「ふとっちょよ、きさま何をしておるのだ?」
不意に仲川氏が声を掛けてきた。
気づかれたか?
村田氏を見ると、相変わらず笑顔で仲川氏の方をみているが、微妙に汗が垂れているような気がする。
「べべべ別に何もしてはいないんだな!」
まさかの大ドモリ。
仲川氏が
まさか村田氏から、極秘情報である仲川氏の秘密を聞いていたとは言えないし、どうすればいいのか……
そんなことを考えていると、今度はロボ氏がこちらに顔を向けた。
『ふとっちょよ、早くこっちに来るのだ』
ナイスロボ氏。
僕は仲川氏の怪訝な顔は無かったことにして、ロボ氏の元へ向かった。
ロボ氏達の中心には、ネックレスがあった。
いかにも安物といった感じの、ゴムのような素材であるが、おそらく前になるであろう部分が少し太くなっている。
太くなっている部分は、まるでカプセルが内蔵されているかのような形をしている。
ロボ氏達は揃って僕の顔を見ていた。
『実際ゲームに入って感じたことの一つに、私自身とモンスターの動きが微妙におかしいということがあった』
ロボ氏によれば、ゲーム内におけるキャラクターの動きがカクカクで不自然だったから、それを何とかしたいということである。
この問題を解決するために、現実世界の人の動きを収集するというものである。
この安物のネックレスは、太くなった部分に機器が設置されており、現実の人の動きをデータ化し、収集することが出来るのだそうだ。
通常であれば、人の各所にポインターを設置して、そのポインターを専用のカメラで撮影するところだが、ロボ氏はそれをネックレスを一つ着けるだけで可能とした。
これは凄い発明だ!
「ほう仲川君、なかなか凄い物を作ったね」
いつの間にか村田氏もこちらに来ており、僕の後ろからネックレスをのぞき込んでいた。
『ふっふっふ、村田さん分かってもらえますか? これの凄さを』
ロボ氏が村田氏に向かって、ドヤッとした動作で聞く。
「分かるも何も、これが正常に使えるようなら、色々なことに応用が可能になるじゃないか。もし、上手くいくようなら僕のところでも使いたいから、ぜひ成功させてもらいたいな」
まさかの村田氏前のめり。
村田氏がここまで興味を示すのは珍しいんだな。
それだけこれが凄い物なのだ、ということなんだな。
そして僕はモルモットになるわけか……
まあ、今回は特に危険は無さそうだからいいんだけど、別に水木氏でもいいんじゃないだろうか?
というか、人間という意味では仲川氏でも問題ないはずだ。
なぜ僕なのだろうか……
「秋葉さん、私は一般人で女性なのでその……プライバシー的に無理なんです」
普通顔のマッドサイエンティストの助手、水木氏が何か言っている。
少なくとも一般人とは言えない。
モルモットになるのも、男性か女性かは関係ない。
「ふとっちょよ、私のようなマッドサイエンティーヌは極秘事項が多のだよ。という訳で、私は出来ないのだよ」
仲川氏は、一輝博士の息子なのだから、確かにやめた方が良さそうだ。
ロボ氏は人の動きとは言い難いところがあるから、やはり僕しかいないんだな……
『うむ、やはりふとっちょが適任だな。というか、ふとっちょよ、きさましかおらぬのだよ』
そう僕しかいない。
その理由が全く腑に落ちないが、僕しかいない。
「も~、仕方ないんだな~」
そう、僕しかできないんだな。
仕方がないんだな、僕しかできないんだから。
『ふとっちょよ、これを首に』
ロボ氏から安物のネックレスを渡される。
僕は直ぐに自分の首にネックレスを掛けた。
カチッ。
嫌な音が聞こえる。
「じゃあ僕はこれで失礼するよ」
嫌な空気を感じ取ったのか、村田氏は直ぐにラボを出て行った。
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