第4話 プチボウガン

 私の足がチクッと痛み ”1” の数字が飛び出す。

 足に目をやると、矢が刺さっている。

 少し離れた屋根の上に、私に矢を撃ったモンスターが確認できる。


 私は直ぐに移動し、物陰に隠れた。

 モンスターはそれでも私に向けて矢を撃ってくる。

 その全てが壁に刺さるため、私にダメージは無いのだが……しつこいやつだ。


 ここは捨てられた街。


 コンクリートやレンガで造られた家が立ち並ぶが、その全てが廃墟であり、ところどころ倒壊している。


 それほど広くない道路には大小さまざまな瓦礫がれきが転がっており、道自体整備の手が入っていないためデコボコしている。

 そこかしこに雑草が生えており、もちろん人の気配はない。


 そのようなフィールドであるため、大草原とは違いモンスターから身を隠す場所は多いが、同時にモンスターに奇襲をかけられることも多い。


 さらに、ここのモンスターは死霊系と言ったら良いのか人型が多く、武器を使用する。


 その中で、弓を使うモンスターは離れた所から攻撃を仕掛けてくるため気づきにくく避けきれない。


 しょせんレベルが違うのだから、死にはしないが気に入らない。


 我がブラックゴブリンは近接戦闘を主体と考えているため、まさかの弱点が浮き彫りになった。


 そもそもプレイヤーキャラクター側に飛び道具を準備していないのに、モンスター側には設定しているというのはどういうことだ?


 改良の余地があるな。


 市街地戦闘の場合は、超近距離と遠距離の攻撃が出来ないとなかなかに不便であることが分かった。


 超近距離攻撃に関しては、大きめのナイフを持っているため、スニークキルで何とかなる。


 スニークキルとは、相手に気づかれないようにひっそりと近づき、例えばナイフで一刺しにして倒すことを言う。

 簡単に言ってしまえば暗殺だ。


 逆にスニークキルでないと、周囲のモンスターに気づかれて囲まれるから良くない。


 もちろんレベルが違うのだから何とでもなる。

 しかし今私がしているのは、このブラックゴブリンの可能性を引き出す作業だ。

 そう、色々と試しているのだ。


 しかしスニークキルにも飽きてきた。

 そろそろ他の攻撃を試してみたいものだ。


『ステータスオープン』


 私はアイテム欄を開き、何か使えそうなアイテムまたは武器が無いか確認する。

 すると面白い名前の武器が目についた。


 ”プチボウガン”


 これは私が考えた武器ではない。

 ふとっちょが作成し、私に実装を頼んできた武器だ。


 ――そういえばソーサリーメイドで全く使えないアイテムとして登場していたな……ん? 飛び道具を作っておったのだな。


 よかろう、使ってやろうではないか。

 私は右手装備をプチボウガンに変更した。


 ステータス画面を閉じ、右手を確認すると拳銃程度の片手に収まる大きさのボウガンが握られていた。


 ――飛ぶのか?


 プチボウガンは相手に向けて、引き金を引くだけで攻撃ができる。

 まったくの拳銃であるが、ボウガンであるから音は小さい。


 私はさっそく先程から壁に向かって矢を放つモンスターに狙いを定めて引き金を引いた。


 シュッという小さな風切り音が鳴るのみで、矢は放たれたと感じるが早いか狙ったモンスターの頭を吹き飛ばした。


 ダメージ表示は無いため、ヘッドショットが決まり即死判定になったといったところか。


 しかしながら見た目に反した威力である。

 通常この見た目でこれほどの威力が出るはずが無い。


 少なくとも頭が吹き飛ぶほどの威力は求めるべくも無く、刺さる程度が関の山だろう。


 ゲームの世界であるから多めにみるが、やりすぎだ。

 ところがボウガンであることに変わりはないため、連射は不可である。


 ――このゲームを終えたら、ふとっちょに抗議だな。


 とはいうものの、遠距離攻撃を手に入れた私は遠近超近距離の攻撃を使い分け、周辺のモンスターを倒していく。


 しばらく進むと狭い通路が現われた。


 ――うむ、ここだな。


 この通路の奥に奴はいる。

 騎士系の死霊であり 【デッドナイト】 がその名前である。


 剣術を得意としており、動きもかなり良く設定している。

 つまり、どれくらい操作に慣れたかを確認するには絶好の相手ということだ。


 装備はロングソードであるためリーチ的にはこちらが不利である。

 とにかく動き回って相手の側方、できれば後方を取り一撃を与える。

 これを何度も繰り返す戦法が有効であろう。


 さらには奴の攻撃を弾き隙を作って一突き、が何度も決まれば操作に十分慣れたと言えるだろう。


 通路を走り、奴がいる場所を目指す。


 ――走っているのに疲れぬな。体力ゲージを作るのも良いかもしれぬ。


 しばらく進むと奴が見えた。

 私は走るスピードを落とし、奴が動き出すギリギリの距離で止まる。


 デッドナイト――頭のテッペンから足の先まで錆びた金属製の鎧で身を固めた騎士。

 盾の装備は無く、ロングソード一本で攻撃をしてくる。


 鎧の中は既に死んでおり、そこに悪霊が取り付いたモンスターである。

 であるがゆえに動きは軽やかである。


 あと一つ歩を進めれば奴は動き出すが、ここでプチボウガンを構える。


 ――さすがに一発ということはないであろう。


 そう思いつつ、しかし威力を知りたいがために試し撃ちをしておきたい。

 狙いはもちろんヘッドである。

 奴のヘッドに照準を合わせ……撃つ。


 すると、奴の頭は吹き飛んだ。


 ヘッドショット成立。

 もちろんダメージ表示は無い。


 ――これでは何の鍛錬にもならんな。


 私は来た道を戻り、デッドナイトが復活するまで時間を潰すことにした。


 現状プチボウガンは一撃必殺の武器となっているため、遠隔攻撃をしてくるモンスターに対してのみ使うことにしよう。


 今の目的は動きに慣れることである。

 特に弾きとかわしの動作、スニークキル、側方と後方の位置取りがどの程度うまくできるかを確認したい。


 このフィールドのモンスターは、基本的に死霊系というかゾンビやガイコツである。

 こ奴らは動きがそれほど早くない。

 だからこそ中ボス級のデッドナイトで試すのが良いのである。


 しかしデッドナイト復活まではまだ時間がある。

 それまではこ奴らで鍛錬するしか無かろう。

 間違ってもボス級に挑める状態とは言えない。


 これがキーボード操作であれば、いくらでもボスに挑み倒す自信が十分にあるのだが、今はゲームに入り込んでいる状態であるから指先だけで操作という訳にはいかない。


 ――というか……ボスは作っておらぬな。いやいや、今は慣れることこそが重要である。


 そう私は自分に言い聞かせるのであった。

 野外戦を行っていると日が傾き、辺りがオレンジ色になっていた。


 この世界にも夜がある。


 今は夕方ということになるが、かなり敵を視認しにくくなっている。


 こちらがモンスターを認識すると、モンスターの頭上にHPバーとモンスター名が表示される。

 しかし、こちらが認識していないと表示されない。


 つまり、視界の悪さは奇襲やスニークキルを受ける可能性が高くなるのである。


 ――自動でモンスター位置を示す機能をつけるのも有りだな。


 そのようなことを考えていると、日はさらに傾き辺りは薄暗くなった。


 ここにきて私は致命的なことに気がつく……明かりが無いのだ。

 これまで夜は大草原でのみ戦闘していたが、大草原は月や星の光が強く、明かりに困ることは無かった。


 しかし、ここは市街地である。

 建物達が空からの明かりを遮り、ほぼ暗闇に包まれる。


 ――確か建物の中であれば松明たいまつの明かりが……無いところも多いな。


 基本的に建物内の光が届かない場所には松明を設置し、明かりを確保している。

 が、外の光が届く場所にはまだ何も設置していない。


 そこまでの時間的余裕も無かったのだから仕方がない。

 がしかし、どうやら夜間にここで戦闘するのは分が悪いようだ。


 ――仕方がないな。


 私はジャンピングポイントに向かい、大草原に退避することとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る