第2話 実に面倒だ
ラビが消えた空間を見つめている。
ブラックダガーはなぜ出てこなかったのか、鬼の拳はなぜ発動しなかったのかを考えている。
――そうか、スタート画面では叫ぶように強く念じたら実行されたのだから、同じようにすればよいではないか。
私は ”ブラックダガーを手にする” と強く念じた。
しかし、ブラックダガーは現れない。
『ブラックダガー!』
そう叫んでみたが、やはり現れない。
ふと身体を見てみると、見慣れぬ服を着ていることに気づく。
――ステータスを見る必要があるな。
そう思い私はステータスを強く念じたが見れない。
『ステータスオープン』
試しに声に出してみると、半透明のステータスの画面が現れた。
その中の装備欄を何となく指で押すと、装備画面に切り替わった。
うまくいったと思い、今の装備を確認すると、布の服、布のズボンそして靴しか装備していない状態である。
――なるほど、そもそも装備していなかったのだな。
何故なのかは特に考えず、元の装備に戻そうとするが、どうすればよいのだろうか?
装備欄の『頭』を指で押してみると、画面が切り替わり『装備可能一覧』が表示された。
私は『装備可能一覧』から『赤いトンガリ帽子』を指で押す。
すると画面が切り替わり、装備欄『頭』に『赤いトンガリ帽子』と表示された。
ここまでの流れをまとめると、ステータスを見るためにはステータスオープンと声に出す必要がある。
開かれたステータス画面では、項目を指で押すことにより選択できること、また装備するには装備したい体の部位を選択し『装備可能一覧』から目的のアイテムを指で押すことにより選択装備が可能となる。
実に面倒だ。
というか……鬼の拳もそうだが、こんな設定にはしていないのだが……
とはいうものの、現状ではそれ以外に方法が見当たらないため、面倒でも一つ一つ装備していくしかない。
装備
頭 :赤いトンガリ帽子
服 :鬼の前掛け
ズボン:鬼のはかま
靴 :ダークシューズ
マント:白衣
腕、手:怒鬼のこて
すね :奈落のすね当て
飾り :鬼の腰巻き
右手 :ブラックダガー
左手 :鬼顔の盾
装備をし終えステータス画面を閉じようとするも、閉じ方が分からない。
『ステータスクローズ』
試しに声に出してみると、うまくステータス画面が閉じてくれた。
実に面倒だ。
装備後の身体を確認すると、見事にブラックゴブリンの格好である。
右手にはまがまがしい怒鬼のこて、右太ももに愛刀ブラックダガーがある。
さやから抜くと光沢を抑えた黒い刀身が現われた。
持ち替えて一振りし、刀身を眺める。
『勝ったな』
思わず口からこぼれる。
ブラックダガーで突く、振り下ろす、振り上げる。
回転して横に裂く、好きな動作が可能だ。
これで先程のラビ戦のような失態は無くなる。
次に左手に装備している鬼顔の盾を背負えるか確認する……問題なく背負えた。
これで背の防御も完璧だ。
『ステータスオープン』
私は今の状態で装備欄を確認してみた。
すると左手の装備は『なし』という表示になっており、鬼顔の盾が装備欄に見当たらない。
確実に背負っているが、もしかすると装備欄に無い部位に装備すると、表示されないのかもしれない。
実に面倒だ。
設定と違うからだが、帰ったら修正するとしよう。
――さて、次は鬼の拳だな。
鬼の拳はブラックゴブリンのスキルであるが、発動は出来たが実際に繰り出すことができなかった。
通常であれば発動後に相手に接触するだけで繰り出せるのだが……
とりあえず鬼の拳を発動しようとしたところで、かすかに草を踏む音が聞こえた。
すぐさま音の方に目を向けると、ところどころに白いラインが入っているが、全体的に緑色の毛でおおわれた小型の狼がそこにいた。
モンスター ラップウルフが現われた。
ラップウルフは牙をむき出しにし、低い唸り声をあげて私を睨んでいる。
『ふっふっふっそうかぁ、きさまかぁ』
右手を右太ももにやり、ブラックダガーを抜き出す。
すぐさま私目掛けてラップウルフが飛びかかってきた。
私は牙をかわし、すれ違いざまに切り捨てる。
ラップウルフは着地することも無く、白く光りはじけ飛んだのを背で感じた。
おそらく切り捨てた瞬間にやつの頭上には ”9999” と数字が飛び出していたことであろう。
『これだ! 私が求めていたのはこれなのだ、よ!』
振り返るとそのには新たなラップウルフが2体現れており、2体同時に飛びかかってくる。
即座に前転し2体の攻撃をかわすと、振り向きざまに横一線。
背を向けたままの2体の頭上にはそれぞれ ”9999” が飛び出し、2体は振り返ることなくはじけた。
『私こそが最高なのだよ!』
両手を広げ、顔を空に向けると私は笑いに笑ったのである。
◇
ブラックゴブリンは倒したラビがいた空間を向いたまま微動だにしていない。
「もしかしてロボの私はバグったのであろうか?」
仲川氏が不吉なことを口走る。
ロボ氏は仲川氏の分身なのだから、もう少し気遣っても良いのではないかと思う。
「ロボ教授が動きました」
ブラックゴブリンは右手を顔の前に上げて何かを念じている様である。
それを2回ほど繰り返すと、少し間をおいてステータス画面が展開された。
ステータス画面は半透明で、画面を展開している間は周囲の時間の流れが遅くなるようになっている。
そうすることにより、戦闘中でもアイテムや装備を変更してより良い戦闘が出来るようにしているのだ。
展開されたステータス画面をブラックゴブリンは指で押している。
案外アナログな操作になっていることに僕は驚く。
「操作を指でするのは面倒だな」
仲川氏はポツリとつぶやく。
確かに面倒だ。できれば頭の中で操作できるようにしてもらいたい。
帰ってきたらロボ氏に伝えよう。
いつの間にかブラックゴブリンの頭に赤いトンガリ帽子が乗っている。
ブラックなのだから黒で統一すればいいと思うんだが、仲川氏とロボ氏は帽子が赤であることとトンガっていることにこだわった。
どうやら装備の確認をしているようだな。
さっきラビとの戦闘がおかしかったのは、装備をしていなかったせいなんだなきっと。
そういえば、スタート時の装備が村人の服みたいになっていたから何かしらのシステムエラーが起きているのかもしれない。
「あ……」
いきなり水木氏が声を漏らした。
「どうしたのだ助手?」
「いえ、思い出したんですが、ロボ教授はゲームがスタートしたらスグにコンタクトで連絡すると言ってたような気がして……」
確かに。
水木氏が言う通りロボ氏はコンタクトで連絡を入れると言っていたんだな。
「う~ん……この様子じゃあロボ氏忘れてるんだな~」
いま画面の中ではブラックゴブリンがラップウルフを倒したところだ。
続けて2匹のラップウルフが現われたが、手にした武器を横一線に払い2匹同時に倒した。
倒したのだが……
どう見てもあの武器であの距離は届かないだろう。
「仲川氏、かなり自分たちに有利になる武器設定していないかな?」
「な、何を言っておるのだ。そ、そんなことするわけがなかろう。人聞きの悪いことを言うものではないぞ」
仲川氏は僕と目を合わせず、どこということも無く、空間に目を泳がせていた。
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