第10話 ソウルインプット
『でだな……』
ロボ氏が話の続きを始めた時だった。
「みなさん、ちょっと見てください」
水木氏が横やりを入れる。
普段なら総突っ込みを受けそうなタイミングだったが、水木氏は真剣な顔をして画面を見ていて、何事かが起きていると分かり画面前に集まる。
というか、あの流れで画面に目を向けるとか良くできたなと感心してしまう。
画面を見ると、村人たちが集まって手を上げたり振ったり、
みんな同じ村人Aだ。
「ん~、何をしておるのだ? 何か言っているようだが聞こえんぞ」
「仲川氏、そりゃ聞こえる訳がないんだな。ミュートだから、音出てないから」
素で言っているのかどうか分からない仲川氏。
僕は直ぐに音量を上げた。
『おおい、聞こえてるか―? おおい』
『みのちゃああん、僕は他の人とは違うよー』
『おお、神よー。あなたのシモベである私を他の者と区別してください』
あちらこちらから切実な(?)叫び声が上がっている。
「ロボ教授、とにかく天国の光で何が起きているのかを聞いていただけませんか?」
『んんん? 助手よ、私でなくとも良いだろう? ブラックゴブリンでもソーサリーメイドでも向かわせれば良かろう?』
「「いいや、絶対駄目だ」」
僕と仲川氏による否定の声がシンクロする。
ロボ氏は正気なのか?
昨日あれだけのことがあったというのに、もう忘れているのか?
そんなわけはないな。ロボ氏の記憶媒体は大容量、忘れるわけがない。
素なのだろうか?
「ロボ氏、僕と仲川氏ではダメなんだな。昨日の感じではロボ氏の天国の光なら村人達も心を開いてくれるんだな」
いまいち納得していないようなロボ氏だが、天国の光を操作しだした。
画面を見ると、村の上空から天国の光が降り注いだ。
”村人よ、何ごとだ?”
ロボ氏の声が村に振ってくると、村人達は一層騒ぎ出した。
『聞いてくれよ神様よう!』
『みのちゃんを出せー!』
『おお! 神よ!』
村人はそれぞれ言いたいことを言い出して、収集が付かないといった状態になっている。
”きさまら、一気に話し出したら何のことか分からんではないか! 代表を一人出せ。私はその代表から話を聞く”
そう空から声が降り注ぐと、村人達は騒ぐのをやめ、一人の村人が前に出てきた。
『神よ、私は一応この村の村長として、この世界に転生した者です。皆に代わり私がお話いたします』
いつの間に村長を決めていたのか。でもこれで話がスムーズに進む。
村長によれば、この世界に転生したのはいいが、みな同じ外見をしており見分けがつかないことが各人のストレスとなっていることから、外見の変更をして欲しいとのことだった。
たったこれだけのことが、まとまりが無いとあれほどカオスになるんだな。
”きさまらが言いたいことは分かった。しばし大人しくして待て”
そう言うと天国の光は村から離れていった。
「教授、ロボ教授どうしますか?」
自分が好きなようにアバターを作成するのは、いや作成できるのはここ最近では当たり前のことになっている。
なので、村人達の要求は当たり前なのかもしれない。
何と言っても老若男女関係なく皆が村人Aなのだから、そりゃ気持ち悪くもなるんだな。
一応それぞれが服に工夫をして何とか違いを出すようにしているが、それでも体格や顔は全く同じなのだ、当然出てくる要求といえるだろう。
しかし、その要求はそう簡単に叶えることはできない。
まずベースを複数作成しなければならない。
あるいは同じベースを好きなようにイジレるとか。
ベース問題が解決したとしても、各パーツをかなりの種類用意しなければならない。
十分な時間が取れるのであれば、特に問題は無いかもしれない。しかし、今回はおそらくそれほど時間が無い。
仲川氏もロボ氏も無言である。
「教授、ロボ教授どうしますか? 無視ですか?」
水木氏がイラついてる。今考えてるところだからもう少し待って。
『うむ。これだ』
返事というより、独り言のようにロボ氏が返事をした。
返事かどうかは定かではないが。
『実はな、既に作成はしておったのだ。だがな、ゲームに入れるシステムを作っておったのでな、放置しておった』
グッジョ~ブ、ロボ氏~。
「流石なのだよロボの私よ」
『うむ、しかしベースもパーツもそれほど種類があるわけではないのでな、とりあえず今あるもので急場を凌ぐとしよう』
今後、ベースやパーツについては種類を増やしていき、ある程度たまったところで再度キャラ作成を行うということで話を進めることになった。
『と、とりあえずはそれで許してあげるんだからね!』
『みのちゃあああん!』
『神様ありがとう!』
村人達は大変喜んでいる。
んあ、そういえば!
「ロボ氏、実は僕も装備のデータを作成したから実装したいんだが、いいかな?」
僕が作成した装備は武器だ。
その名も ”プチボウガン” だ。
ソーサリーメイドに出てくる武器の一つなんだが、妙に気に入ってしまったため、みのちゃんの装備ではないものの作成した。
一発放てば装填に時間がかかるため、連射は出来ない。
攻撃力については、いまいち設定が分からなかったから感覚的に決めた。
もちろん、チートにならないように配慮したつもりだ。
「ほう、ふとっちょのクセに生意気な」
でた、仲川氏の僕いびり。
「べ、別にいいじゃないかよ~」
「そうだな、別に良い。ロボの私よ、ふとっちょが作った装備は我々のブラックゴブリンにも装備できるようにしてくれ。使い勝手を確認したいのでな」
ん? もしかして仲川氏、興味津々だったのかな?
『うむ、良かろう。ふとっちょよ、データを持ってこい』
「んあ? ロボ氏につないでるケーブルから読み取れるんだな。僕のファイルに装備データというフォルダーがあるから、その中のプチボウガンになるんだな」
『う~む……これか。うむ、ほうプチボウガンか。そういえば飛び道具はまだ作っていなかったな』
「そうなんだな、これから欲しくなると思うんだな」
『うむ、実装完了だ。きさまの嫁とブラックゴブリン双方のアイテム欄に入れておいたからな、いつでも取り出して装備してよいぞ』
「ありがとうロボ氏! あと、今後のために実装のやり方も教えて欲しいんだな」
『うむ、構わんぞ』
ロボ氏は左手を上げつつ答えてくれた。
これで、僕の嫁がより安全になるんだな。
『ところでだ、だいぶ話がそれたのだが、私はソウルインプットを造った。で、これから初使用する。きさまらには不測の事態に備えてもらいたい』
ついに動き出した。
「うむ、新たなるマッドサイエンスが始まるのだな」
なんだかんだで仲川氏もノリノリのようだ。
流れとしては、ロボ氏はいつものイスに座り、ソウルインプットを起動する。
僕たちは画面で起動後の状況を確認する。
神の視点が起動後のロボ氏――ブラックゴブリンを自動で追尾できるようになっているから見失うことはまずない。
ロボ氏はゲームを起動したら、コンタクト画面を開いて、僕たちに無事を知らせる手はずになっている。
緊急事態が発生したら、現実世界の僕らがアバター――実質みのちゃんしかいないが――を操作して対応したり、その他で対応したりすることとした。
『きさまら準備は良いか?』
そう言い、ロボ氏はソウルインプットを起動した。
ロボ氏はいつものように椅子に座ったまま、ウンともスンとも言わなくなった。
僕たちが画面に目を移すと、大草原で両手を広げて、顔を空に向けて大きく笑うブラックゴブリンの姿があった。
第一章 おわり
―――――――――
第一章10話を書き上げた時点では、0PVです(笑)
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