第4話 シュミレーションシステム
ロボ氏はそもそも仲川氏なわけだから、仲川氏が二人いるってことなんだよな……正直めんどくさい。
うん、やっぱり僕の立ち位置ってこういうことだったんだな。
そういえば、昨日ロボ氏誕生の時に僕がいないテイで進行していたなあ。
そもそもニックネームが ”ふとっちょ” の時点で間違いないんだな。
あれ……なんか、涙が溜まる。
そんな僕の肩を無機質な手が掴む。
『まあ、ふとっちょらしい発言だな。きさまの有能さはよく分かっておる』
「そうだな、有能であるがゆえに空気が読めない、だけなのは分かっておるぞ」
ロボ氏……仲川氏……それ、褒めてるのか、ケナシテるのか分かりずらい。
「ま、まあそうですね」
水木氏が恥ずかしそうに言った。が、なぜ恥ずかしがる?
皆さんツンデレのつもりなのかな?
普通デレられたら嬉しいはずだけど、全然嬉しくないな。
腑に落ちない。きっと働くところ間違ったんだな。
うん、こんど村田氏に相談しよう。
僕が人生について考えている最中に、みんなは画面に向き直っていた。
仲川氏がキーを差し込むと、画面は真っ白になり、黒文字で ”認証中” の文字が現われた。
通常、ダウンロードや更新の最中は、線や点がマルを描き続けたり、進捗状況をバーや数字で表現しているものだが、今回は ”認証中” と表示されたまま、ウンともスンとも言わない。
フリーズかな?
ラボに不穏な空気が流れている。みんな僕と同じように不安になっているのだろう。
「こ、これはどういうことだ? ロボの私よ、きさまがオカシナことをしたせいではないだろうな?」
仲川氏はイライラしている。
『言ったであろう人の私よ、問題は無い、と』
画面を見たままロボ氏は無表情だ。
「ま、まあ二人とも落ち着い――」
「ぬぉ!」
『む⁉』
「あ!」
水木氏が二人の仲を取り持とうと声をかけた時に合わせたかのように、画面が切り替わった。
水木氏は仲川氏とロボ氏の方を見ていただろうから、画面が切り替わる瞬間を見逃したはずだ。
慌てて画面を向いても既に切り替わった後だろう。
まあ、本当に切り替わっただけだから、瞬間を見るも見ないもないんだけどね。
でも、見なかった水木氏にとってはそうでもないだろう。きっと悔しい顔をしているに違いない。
まあ、画面を見つめていたから、分からないけども……
「草原……か?」
『青い空に浮かぶ白い雲。広がる緑のジュウタン。草原だな』
「うん、草原なんだな」
いま画面にはだだっ広い草原が映し出されている。
仲川氏はキーボードを操作して草原を前進しだした。
画面には視点のみが存在し、視点のみを操作しているような状態だ。
空には鳥らしきものが飛んでいるから、一応生物はいるようだ。ただし、あまりこちらを気にしている様子が無い。
『これはもしかして、神の視点というやつか?』
ロボ氏は気づくのが早い。
神の視点、空気の視点と言ってもいいかもしれない。
その世界にいる者は、こちらが見ていることに気づいていない。というか、こちらがその世界に存在していないのかもしれない。
「うむ。どうやらそのようだ。ということは――」
仲川氏がキーボードを操作すると、視点は上昇し始めた。
完全に飛ぶ鳥の位置から世界が見渡せる。
この草原はどうやら広い。
正面ははるか遠くに森らしきものが見える。
右はこれまたはるか遠くに岩山が見え、左もはるか遠くに森が、後ろを見ると他よりは近い位置に小高い丘があるが、その先ははるか遠くまで草原が広がっている。
「文字通り大草原といった感じですね」
水木氏はおそらく画面に見入ったまま言った。
僕も画面から目が離せない。この電子空間はいったい、どれだけ大きいんだろうか。
しかし、神の視点の動きは遅い。こんな動きではこの世界を全て見るのに一体どれ程の時間がかかるのだろうか。
『人の私よ、もっと早く動かせんのか?』
「ロボの私よ、これが精いっぱいなのだよ。そもそも操作マニュアルがない。今既に手探りで操作しているところなのだよ」
そう、村田氏から渡されたのはキーのみであり、接続後にどうすればいいかは何も教えられていない。
村田氏のことだし、僕たちがイジルのだから好きにすればいいという考えなのだろうが……とりあえず、コードを確認したいところだ。
「仲川氏、このまま神の視点を動かしてても何も変わらなそうだから、コードを覗いてみたいんだな」
ま、コードを覗いたところで、理解できるかどうかは分からないんだけどね。
「ふとっちょ、まだだ。この世界をもっと見てみたい」
仲川氏はそう言うと神の視点を正面の森に向かって動かした。
『人の私よ、どうだ? いったん私と交代しないか?』
どうやらロボ氏もこれに興味があるようだ。
「ロボの私よ、しばし待て。いま私が動かしておるのだ」
仲川氏は画面から視点を外すことなく、神の視点を前進させている。
三十分が経過しても仲川氏は変わる気配が無い。
しかも、視点は未だ森に着いていない。
どれだけ遅いんだよう。
そんな状況にロボ氏はシビレを切らしたようだ。
『ふとっちょよ、パソコンに繋いでそこから私もこれに入っていこうと思う。準備してくれ』
確かに、仲川氏が独り占めの状態が続いてるからそうしたい気持ちは分かる。
「ロボ教授それは出来ません。このメインコンピューターからしか接続できない仕様であると、村田さんが仰ってました」
んあ~、それはダメだな~。
『では、人の私がどかぬ限り、私は操作できないということか?』
うんそうだな。と心の中で返事する。
ロボなだけあって、見た目からはよく分からないが、ロボ氏はおそらくイライラしているのだろう。
『ふとっちょ、プログラミング関係の本とゲーム関係の本、あとキャラクターイメージの本があったな? 全部もってくるのだ』
ロボ氏は言いながら振り返り、あの椅子に腰かけた。
自分で持って行ってもいいと思うんだが……
とはいうものの、ロボ氏もかなりイライラしているようだし、僕も触らせてはもらえなさそうだから、仕方ない持って行ってあげよう。
もちろんソーサリーメイドのキャラクターブックも渡してあげよう。
というかロボ氏は昨日今日で、このラボにあるほとんどの本を読み終えているから残りは少ないな。
「そういえば、ロボ氏はメインコンピューターに接続しているんだから、そこから入れるんじゃないのか?」
当然の疑問だ、昨日メインコンピューターと接続してそのままなのだから、仲川氏が画面を独占しているのは関係ないはずだ。
『良く気付いたな。しかしだ、入れないのだよ。現状では操作ができるのは一人だけらしい』
なるほど、だからパソコンを繋いでとか言ったんだな。
ロボ氏は本をパラパラとめくり始めた。その速度だと、残りの本は1時間も持たなそうだな。
水木氏は仲川氏の後ろに立ち、画面を見入っているようだ。
さて、今日はもう何も僕がすることはなさそうだ。みんな何かに集中してるし……帰ろう。
僕はみんなの邪魔をしないように、出来るだけ音を立てずにラボを出た。
◇
翌朝、そんなに早くもない時間だが今日も僕がラボ一番乗りだ。
もちろんロボ氏はいた。
ロボ氏はメインコンピュータの画面に座って、キーボードをカチャカチャ打っている。
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