第3話 臥薪嘗胆
「つぅ…」
力は背中に心当たりのない痛みを覚え目を醒ます
そこはいつもの見慣れた景色から自分の部屋だという事がわかる
力は失われた時間を取り戻すかのように意識を失う前の記憶を遡る
(そういえば親父に蹴られて気失ってたんか… 蹴られたとこだけやなくて背中も痛いし熱っぽいし体だるいな…)
力は自分の体に違和感を感じながらも体の気怠さに負け考える事を辞めた
ふと時計に目をやると時刻は午前の1時
力は「えらい時間気失ってたんやな」と思いつつも部屋の明かりを消し再びに眠りについた
その様子を力の部屋に隣接する廊下から観察していた組員がその場を去り、将大の元へと向かう
「どうや?力の様子は?」
組員が将大の部屋を訪れると将大だけではなく晃の姿もあり晃が組員に問いかける
「若もいらっしゃたんですね。はい、ぼっちゃんは一瞬目を覚まされましたがまだ"彫り物"には気付いておらずお休みになられました。」
組員は中腰の態勢で総長である将大に忠義を尽すかのように頭を下げつつ晃の質問に答える
「そうか じゃ引き続き監視しとけや」
将大はそう言いながらしっしっと手を払う動作をすると組員は「失礼します」と一礼をし部屋を去って行った
「ふあぁ〜〜」
大きい欠伸しながら伸びをしつつ力は目覚める
部屋の明かりをつけていなくても小窓から光明が差し込み部屋が明るく心地の良い目覚め
心とは対照的に身体は熱を帯びていて気怠さを感じていた
(何か体重いし"熱"っぽいな〜 今日は学校休めんなー)
熱を利用し学校休むというずる賢い考えをしている力であったが体の気怠さだけではなく他に違和感を感じていた
(何かめっちゃ背中痛いねんけど… 親父に蹴られたのん背中やっけ…?)
力は記憶と答え合わせするかの様に自分の背中に手を伸ばした
背中に触れた感触をいつもの自分の背中ではなく触れればヒリヒリと痛みを感じ、わずかではあるが皮膚に凹凸(おうとつ)がある事を感じとれた
その感触に身に覚えがあった力は嫌な予感が脳裏に過ぎる
(まさかな…)
力はベッドから立ち上がり姿鏡のある場所へと移動し鏡の前に立つと鏡に対して背中を向け顔だけは鏡に向けながら恐る恐る服を腰の方から捲った
「…!!!!」
力は服を捲ったとこから見えたいつもと違う自分の背中を目の当たりにし全容を確かめるべく焦りながら服を脱ぎ捨てる
その自分の背中は見た力は言葉を失う
そこには"伏龍と鳳雛"が背中一面に描かれていた
腰から肩に目掛けてまさに天に昇るかのように対になって入れ墨が彫られていた
ガシャンッ!!
何かの破壊音と共に力の叫び声が部屋中に響き渡る
力の事を監視する為に近くに待機していた組員が異変に気づきすぐさまに力の部屋に駆けつけ扉を開き様子を確認する
「うわああぁぁぁああー!!!!」
力は自分の体に起こった不幸に動揺と怒りを隠しきれず感情をあらわにする
現実逃避をするかの様になりふり構わず辺りにある物に怒りをぶつけ部屋の中はぐちゃぐちゃに散乱している
物を破壊する為に酷使した拳は血に塗れ痛々しいが怒りの感情で生み出されたアドレナリンの成分の前には痛覚は勝てず
"怒り"に身を任せた行動は歯止めが効かなかった
(……。)
その惨状に駆けつけた組員は言葉を失うが自分の仕事を全うするべく力に近寄り破壊行動を静止しようとする
だが組員が部屋に訪れた事により力の怒りの吐き口の標的が"物"から"人"に変わった
「ぐはっ…! や、辞めて下さい! ぼっちゃん!!」
力は組員を発見するとすかさず組員に飛び掛る
飛び掛かる勢いと咄嗟の事により大人で体格のある組員は不意を突かれ、子供である力に床に倒され馬乗りの状態を取られた
力はその状態から拳を掲げようとするが組員に両腕を掴まれ振り解こうと暴れるが流石の大人の力には勝てず、攻めあぐねていた
力と組員の攻防の騒ぎに他の組員も駆けつけ力は瞬く間に取り押さえられた
最初は激しく抵抗していた力であったが数人の組員に囲まれ流石に諦めがつき抵抗を辞める
動きを静止させられた事により怒りが沈静化されふと我に帰る
(この状況、昨日と全く同じやん…)
先日の事がフラッシュバックした力は自分の情けなさに嫌気がつく
どれほど鍛えていたとしても、所詮子どもの力では大人の前には歯が立たないという事を力はこの二日間で嫌ってほど痛感させられた
この時、力は"この境遇のまま大人になっても現状は変わらない"と直感的に肌で感じていた
今まで"ヤクザ"という看板に嫌気を差していた程度の力であったがこれを機に完全に憎悪を募らせ復讐心を心に宿した
(俺はほんまに"ジョーカー"になったる…! 切り札のジョーカーやなくて "道化師"のジョーカーにや…!!)
力は強く決心した
この「山王会」否、"ヤクザ"自体をこの世から葬り去るという事を
その思いを決心した力はこの時から"臥薪嘗胆"の思いで復讐は果たす為に自己研鑽に励むのであった
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