第2話 joker

 

「はぁー」




と小さくため息をつく1人の男

今まさにこの男の目の前で複数台の単車とパトカーが追っ掛けっこを繰り広げている



そうこの場面を一言で簡単に片付けると

"暴走"てやつだ



恐らく2.30台ある

単車達は片側3車線ある道路を縦横無尽に走りたい放題している



車線を塞ぐ様に蛇行走行する者 

前輪を浮かせ今にも落ちそうになっている者

アクセルを握った方の手を激しく動かし音を奏でる者

手離し運転をし両手でバンザイしてる者

 


どの単車も普通に走っている単車はなく好き勝手に暴れている

暴走が激しくなるのと比例しパトカーの台数は増えその場が騒がしくなるにつれギャラリーも増え辺りはカオスと化している



その暴走の様とギャラリーを一望出来る国道を跨るように架けられてる歩道橋の上に2人の男が居た




「よくもまあこのご時世に暴走とかすんなー」




先ほどため息をしていた男の子がそう呟くと男の隣に居た者が失笑ながら言葉を発する





「いやこの暴走の主催は"あなた"ですけどね」




それ聞いた男は呆れた顔をする




「お前がそれ言うんか」




そう言って歩道橋の手摺りに体重を預け肩を落とす


そうこの歩道橋の上で落胆している男こそがこの暴走を仕切る首謀者



大山 力(おおやま ちから)だ

 



見た目は華奢きゃしゃで細く上背は小さくはないが高くもない至って普通 髪も黒く服装も紺色のジーパンにグレーのパーカーとどこにでも居てそう量産型だ

強いて人と違う所を挙げるとするならば目付きが悪いぐらいだ



では何故こんな普通に見える男がこの大規模な暴走の主催出来るのかと言うと現在、暴走している単車は全て「韋駄天」という名前を掲げた今では珍しい"暴走族"ってやつだ


そしてこの男は世に珍しい暴走族「韋駄天」の総長である



"大山 力"であるからだ



では何故主催者である力が暴走に参加していなのかと言うとそれには理由があり、それを説明するには力の生い立ちから振り返る必要がある。


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力の父「大山 将大(おおやま まさひろ)」は西日本を牛耳っている暴力団「山王会」の組長なのだ

そう力の家系は"ヤクザ"であった


さかのぼる事、17年前

そこに生まれ落ちた力は必然的に暴力が飛び交う世界で育ってきた

幼い頃から暴力に関する英才教育を叩き込まれいずれは"組の為"になるようにしごかれてきた



5つ上に兄の「晃(あきら)」がいる為

組を任せられる事はないが兄の右腕となるように父である将大から直々に晃と力は厳しく鍛えられてきた


兄の晃は体格に恵まれ類い稀なる才能でみるみると成長していったが


力は体格に恵まれず線も細く秀でるものもなく至って普通だった


そんな力を見て見限ったのか父の将大には粗暴に扱わられその上、兄の晃からは組み手という名の元の弱いイジメをされる毎日で地獄の日々を過ごしていた。



力は将来的には組の中でナンバー2の立ち位置を約束されているはずなのだが周りの組員達からにも可愛いがられる事もなかった

嫡子ちゃくしである晃ばかりを組員達は慕い、良好な関係を幼い時から築いていた


力に害を及ばす訳ではなかったが幼い頃から力は家中で孤立していた


そんな力にも唯一の心を許せる存在が居た




それは"母"である朱理(あかり)の存在だった




唯一、朱理だけは力の事を気にかけ愛情を注いでくれた


唯一、可愛がってくれていた母の朱理の事を力は大好きだった

女性にしては上背が高くすらっとした体型で

腰辺りまである長い髪はうるしのように黒く、海藻に似た輝きを見せる


力はその朱理の髪が好きでいつも朱理に寄っては良く髪を触れていた

普段、朱理は目元が鋭く切れ長い目が力と接する時は笑みを浮かべ細くなる目はやはり力と類似的で血の繋がった仲睦まじい親子だった



そんな力の唯一の心の拠り所であった朱理は力が10歳の時に"この世を去った"



朱理が亡くなった経緯は力には何も教えてはくれなかった

今までどれほど父の将大にぞんざい扱われても怒りを覚える事もあったが一切反発した事が来なかった力だったが今回だけは違った


朱理から受け継いだ鋭い眼光を際限に発揮し将大を睨みつけ怒号を浴びせた


その力のあまりにも凄い剣幕に周りの組員達は後に




「あん時のぼっちゃんは、まさに現役の時の姉さんの生き写しだった」




と語るぐらいの程だった



"最愛"だった母、朱理を死から力の人生は怒涛のように激しい人生を歩んでいくのであった





その後から力は父にだけではなく家業である"やくざ"という存在自体に憎悪を抱くのであった



力がまず取った行動は"この家から出る"という事だった


この時まだ10歳だった力は1人で生きて行くと決めたがすぐに自分の行動を省みる

力は齢10にして自分は他人の力無くしては生きて行けないと悟ったのだ


今までどんな酷い仕打ちを受けたとしても心の拠り所さえあれば生きてこられた

母の存在がそうだったようにこれからもそうゆう存在が必要だと感じていた



力は決して頭が良い訳ではないし

勉強を出来るわけではないが




「人は1人では決して生きていけない」




という人生においてとても大切な事を自分の経験から学んだのである



力はその存在はこの家には無いと気づきすぐに家を飛び出そうとした

"自分の意思で外に出れば"何かが変わると直感でそう感じたのだ


が勝手な外出は許されていない為、家を出る前に組員に止められ家を出る事が出来なかった

変に荷物を纏めた鞄を背負っていた為、家出を勘繰られ一層、家を出る事が難しくなった


明る日に学校の行き帰りの最中にそのまま家出をしようと思ったが流石にヤクザの息子というだけあって世話役の組員に毎日欠かさず送迎されていた。



"ヤクザ"の息子という事は学校中に知れ渡っているのでそんな奴に近づいてくる者はいなく

力は"友達"という友達が居なかった

そう、力は家でも外でもいつでも独りだった


そんな状態で心を許せる存在などあるはずがなく今後もそう容易く見つかる事ではないなと力は今日も落胆していた




「結局、外に出られても学校の中やったらいつもと変わらんままやな…」




だが人生ていうやつは

"必要な時に必要な事が起こる"ようになっていたのだった



力が家出をしようとして失敗した日から数日後


力はまだ何も見つけれずにいた

学校では近づいてる者もいなく家では鍛錬という名のしごきがあるので外に出れる時間などなく途方にくれていた

 


そんなある日、力に転機が訪れた




「はーい みんな授業始まりますよー!」




ガヤガヤとしていた教室に甲高い声が聞こえ教室中は静まりかえる

みな教壇に向きを変えるそこに担任の先生が立っていて声の高さからして女性の教師だと解る



力は教壇からは1番遠い、後ろの席で突っ伏した状態でうたた寝していた


今日もいつもと変わらず朝の挨拶から始まり授業が始まるのと思っていたが

いつになっても号令がかからなかった力は不思議に思い、ふと顔を上げ教壇に視線をやる


先ほどまでうたた寝していたので焦点が合わず教師の姿がボヤけている

目の焦点を合わせようとし力は目を擦る

段々と焦点が合い教師の顔が鮮明になっていった




(なんや? いつもと様子がちゃうけど…)




力はいつもと違う雰囲気を感じ取っていた

女性の教師は何故かニコニコしていて力には不敵な笑みに感じた


そんな事を思われているとは知らずに教師は口を開く




「ふふふ 今日はですね!授業の前に転校生を紹介します! さあ入ってきて!」



 

その言葉で教室内はざわついた


教師の異様なテンションが若干、カンに触るがこれには力も少しの期待感を持ち、机から上体を起こし教室の前のドアを見る


他の生徒達も例外ではなく転校生が入ってくるであろう前のドアの方に刮目した




「ちっさ…」




思わず力はそう呟く


教室に入ってきた転校生であろう人物にみな力と同じ事を思っていただろう



転校生はその雰囲気を感じながらも教師の声に誘導され教壇へと進む


教壇に立つと教師と横並びになっている状態なので転校生の上背の小ささはこの上なくきわまった


女性の教師なのでさほどデカくはないのだがそれでも転校生の小ささは目立った


やがて教師に自己紹介を促され転校生は口を開く




「荻野 裕貴(おぎの ゆうき)っていいます!よろしくお願いします。」




「そ、それだけかな? はい!拍手!」




教師が拍手するとそれに続くように生徒達も拍手した


転校生の荻野は無愛想な表情で軽く会釈するだけの自己紹介で終わった

荻野の見た目は特徴を挙げると目はくりっとしていて丸く 身長は小学4年生の平均値を軽く下回るほど小さいが頭の比率が多く3.4頭身ぐらいに見えて可愛い印象であったが




「先生一言だけよろしいですか?」




転校生の荻野は先生にそう問いかけ了承を得る




「このちっさいは身長は他界した母から受け続いた"物"なんです。それをバカにするなら誰であろうがぶっ飛ばしますよ?」




そう言い放って荻野はニコっと微笑んだ


これが力と荻野の強烈な"出会い"だった





その発言で恐らく教室内の生徒達を全員敵に回したのであった


自己紹介が終わり何事もなかったように授業が進められ休み時間になったが誰も荻野には近づかずもうすでに腫れ物扱いにされていた


荻野は1番後ろの席の窓側でこの状態を気にも留める事なく本を読み始め自分だけの世界に入っていたのだが



パサッ



急に手に持っていたはずの本が宙に浮き床に落ちる




「何をするんです?」




荻野は机から座っている状態から本が飛んだ元凶を睨みつける




「お前おもろいやん ちょっとあの自己紹介にはさすがに笑ったで」




本をはたき落としたのは力だった


だが荻野は力の事を無視して机から立ち上がる、力がすぐ横にいてるので机を前にずらして本を拾いにいく




「とりあえず謝って貰えます?」




力に目もくれずに本についた埃を払い除ける仕草しながら力に謝罪を求める



周りの生徒はこのピリピリした空気に耐えきれず教室を静かに出て行く者 

固唾を飲んで見守る者 首を横に振り荻野に否定のジャスチャーを送る者など


みな力の一挙一動に注目していた

その瞬間




ガタンッ




荻野の机が勢いよく床に倒れ、先ほど収納したばかりであろう教材が散財した




「お前ちっさいのにええ度胸してるやん体はちっさくても心は大きくってか?(笑)」




力が蹴り飛ばした机が力と荻野の間を分け隔ていたがさらに力はその机を蹴り飛ばし荻野に近くづく為の障害を無くした




「あなただいぶ頭悪いですね? 何がしたいのか自分には全く」




やれやれと言わんばかりに荻野は首を横に振りながら両手の平を上に向け肩の高さぐらいまで上げ更に「はぁー」と軽く溜め息を吐き、力を更に煽ったのである




その荻野の行動に力はこめかみに青筋を立て分かりやすく怒りを露わにする


力はすかさずその怒りを行動に移し萩野の胸ぐらに掴みかかった




「お前ほんまむかつくやつやな」




力は荻野の胸ぐらを掴み見下しながらそう言い放った

力の身長は小学4年生の平均身長をから15センチ程高く逆に荻野は15センチ程低くい

同級生でありながらその差は30センチ 


力の差は歴然かと思われたが




「先程、言いましたよね? このちっさい体を馬鹿にする人は誰であろうとぶっ飛ばすって…!」




荻野は言葉の語尾が強くなると同時に胸ぐらを掴んでいる力の腕を両手で強く手前に引き力の重心が前屈みになる 


力の頭が下がるとその場で少しジャンプし両足を宙に浮かしその両足を重心が下がった頭に絡めそのまま力は荻野に覆い被さるように体勢を崩した




「…!!」




力は萩野の思いもよらぬ行動に呆気に取られ先手を打たれしまったのだ


なんと荻野のは力に電光石火の早業で三角絞めを決めて見せたのである




「どうですか? 自分より小さい奴にやられる気分は…!」(この人、力が凄く強い…!少しでも気を抜いたら破られそうだ…!)




萩野は技を決めながらも力を煽るが力の必死の抵抗に焦りを感じていた



力は完璧に三角絞めを決められていながらも必死に抜け出そうと力を入れて顔が茹でタコ見たいに真っ赤になっている


だがそんな抵抗も虚しく力が段々と弱まり力の意識が薄れていく




(やばい…このままやと…落ちてまう……)




萩野の見事な三角絞めの前には流石さすがの力も意識を飛ばしそうになっていた




(いつも俺はやられてばっかやな…)




力はそう思いながら力を緩め抵抗をやめた

力を緩めた事で完全に荻野足が力の首の頸動脈けいどうみゃくを深く捉えた


力はされるがままに身を任せ完全に気持ちが切れた




(親父にも兄貴にもよく失神させられたでな… そういえば…! 前んときに兄貴に三角絞めした時に完璧に決めたはずやったのに抜けられた事あったわ あん時は確か…!)


だが力は何かを思い出し行動に移した



「…!!」




荻野は力の抵抗が弱まり完璧に三角絞めが決まり勝利を確信していたが




「うおおぉぉおおお!!!!」




力が雄叫びを上げると同時に荻野の体全体が宙にと浮く


力は最後の力を振りしぼり雄叫びをあげながら膂力りょりくだけで上体を起こし荻野を持ち上げたのだ




(…まずい!!!)




荻野はこの状況に危機感を覚えたが時すでに遅く

力は荻野を持ち上げたまま反動つけ床に荻野は叩きつけた




「うっ…!!」




受け身も取れず背中からもろに叩きつけら一瞬呼吸を奪われ荻野もこれには堪らず技を外してまう


その機会を力が見逃すはずもなく瞬く間に荻野の体を押さえつけマウントポジションを取り形勢が逆転したのだ




「はぁ…!はぁ…! …お前まぢで殺す…!」




力は荒れた呼吸を整えながらそう言い放つ

先程、絞めらていたせいか怒りのせいかはわからないが力の顔面は赤く染まり鬼の形相になっていた




(くっ…! この状況はやばい! 体格差もあって抜けれない…!!)




力は荻野の両腕を抑える様に両足で体重を掛け荻野のは体を自由に動かせれずもがくしかなかった


この状況に思わず顔をしかめる荻野であったがそんな事をお構い無しに息を整え終えた力は荻野と違って自由に動かせれる右腕の拳を大きく振りかぶった



荻野は力の行動から次の動作を予測出来たがどうあがいて抵抗出来ず、唯一出来る抵抗は鼻を守る為に首を横に曲げ

条件反射的に目をつむる事しか出来なかった



しかし力が振りかぶった拳は荻野に振り落とされる事はなかった




「何をやってるんだ!! やめなさい!!」




荻野はいつになっても振り掛かってこない拳と誰かの怒号が聞こえたのとほぼ同時に自分に掛けられていた圧力がなくなり体に自由が取り戻した事によって何が起こったかを察した




(危なかった… ナイスタイミングです。 "先生")




荻野は目を開き上体を起こし今の状況を再確認した


まさに力が荻野に殴ろうとしていた瞬間

先ほど教室を出ていった生徒が先生に助けを求めその先生が駆けつけ間一髪で間に合い力を羽交い締めする形で取り押さえたのだ


担任の女性の教師と男性の教師も一緒に駆けつけていた為、大人の男性に取り押さられた力は振り解こうと暴れはするが大人の力の前には抵抗虚しく沈静化された




「離せや!!ゴラァ!! このままやと俺が負けた見たいになるやんけェ!! んな事あったらあかんのや…!!」




力は男性の教師に羽交い締めにされてる状態でもずっと静止を振り解こうとしていた暴れていた



その様子を見ていた荻野は力に対し冷水を浴びたような恐怖に打たれた




(自分はこんな奴とやり合ってたんですね…)




この場は他の教師達も駆けつけ数人の教師で力を取り押さえて教室から引き摺り出した事によって事が収まった




「大事に至らなくて良かったですね…! ここの2人の親が出てくるとなると… 考えただけで恐ろしい…」




場所は変わり教師達しか居ない職員室

そこで力達の担任である女性の教師が肝を冷やしながらも他の教師に愚痴をこぼす




「本間にそうですよ!なって言ったって"ヤクザ"の息子と"政治家"の息子ですからね…!その親が相見えるなんて末恐ろしい限りですわ…」




その後はというと

力を教室から職員室まで連れてくる事に成功した教師達であったがそれでも暴れ続ける力に手が余り、保護者に連絡し助け舟を呼び自宅に連れて帰る事によって完全に事が収拾した


そして現在、教師達は大仕事が終わり一服している所である




「やっぱし大山君の家の人は怖かったですね! あの人が大山君のお父さんですか?」




「いえ!あの人は違いますよ! 連絡してから来るのが早かったでしょ? いつも送迎してる付き人のですよ! では私はやる事があるので」




へぇーとリアクションをとる教師達に適当に相槌を打ちつつ事後処理があるのか担任の教師だけ職員室を出て行った




職員室から出て教室に向かった教師は喧嘩になった経緯を知る為に周りの生徒に聞いて回っていた



あらかた事情を理解した教師はふと教室の外のベランダに目をやると、そこには荻野が居て携帯電話で誰かと通話していた

  

学校では携帯電話を使用もしくは持参する事を禁止されているので注意するべく教師はベランダに向かう


 


「はい。別に大事には至りませんでしたよ。…はい。では以後気をつけます。……はい。では"大山力"の件はよろしくお願いします。」

 



そう言って通話を終わらした荻野は教室に戻ろうと振り返るとそこには担任の教師が仁王立ちしていた




「荻野君…! 学校では携帯はきん…


「先生、自分から今回の件は伝えときましたので。後ほど"父"直々に学校に連絡すると仰ってましたよ」




荻野は教師の言葉をさえぎりそう言い放ちながら教師を横をすり抜け教室に入りすぐ近くにある自分の席に座る


教師は顔を青ざめ早足で教室から去って行った


その様子を確認した荻野は窓の外の方に目にやり黄昏たそがれていると



右ポケットに入れている携帯から振動が伝わり携帯を取り出し画面を開き中を確認した


携帯の画面を思わず凝視した荻野はその内容に少し驚愕したがニヤッと不敵な笑みを浮かべていた




「お前には失望を通り越して呆れたわ…」




はぁと1つため息をつくこの男は力の父である"将大"だ


力はあの喧嘩の後、学校から強制的に帰宅させら現在は父の御前にいる



この家は暴力団「山王会」の総本部で造りは古風のある和風な家だ

基本的に廊下は木造で室内は畳みと障子で設計されている


敷地はかなり広く庭も合わすとかなりの面積だ

住み込みで働く組員も多く部屋の数も膨大で初めて来たものは必ず迷子になる程の規模だった


コンクリートで出来た塀も高く出入りするとこは正面の門以外なくあちこちにカメラが設置されていて組員もずっと常駐している為、ネズミ一匹、侵入を許さない程の警備なのだ



その正面の門からずっとまっすぐに進むと他の部屋とは違う一際異彩を放つ部屋があった


既述の通り基本的に木造で造られているのだがこの部屋はまず入る前に鉄製のゴツい扉が立ちはだかる

戦国の時代に近代兵器の戦車を持ってきたかの様なゴツさだけではなく奇妙な違和感を感じる扉だった




その扉を潜ると中は入り口から奥まで10メートル程ある長方形の部屋である



その1番奥に"山王会"とでかでかと書いてある掛け軸が掛けてある

その真下に御前があり立派な机と椅子に腕組みをしながら存在感放ちながら腰をかけている将大がいた




何よりも異様なのはこの部屋には窓など一切なく壁も天井も鉄に覆われていて

御前の後ろ壁には様々な長さの日本刀が数本飾られていてさらに将大の圧力が増す


まだまだこの部屋には何か"カラクリ"がある様に見受け取られる




「タメでお前より小さい奴にやられたらしいな? この先が思いやられるわ」




力は罵声は浴びせられ苦虫を噛み潰したような顔をしながらも拳を強く握り、無言を貫いていた


そんな力に追い討ちを掛ける様に将大は口を開く




「お前はまだ"ヤクザの息子"という自覚が足らんらしいな…」




そう言いながら将大はおもむろに立ち上がりに力の元に寄っていく


将大は今年で50歳になるが中肉中背ではなく身体は引き締まり腕は丸太の様に太く上背は190センチ近い

目はデカく鼻もデカく顔もデカく全てがデカい


そんな将大が近づいてくる事によって力は"蛇に睨まれた蛙"で微動だに出来ないでいた


そんな力に将大が


ドゴォ




鈍い音が部屋に響くと同時に力は後方に吹っ飛んで行った




「ううぅ……」




将大に蹴り飛ばされた力はうめき声を上げながらうずくま


その一部始終を見ていた数人の組員は眉ひとつ動かさず我関与せずの態度だった



蹲る力にさらに近づいて行く将大


力も将大が接近してくる事が足音によって解るがあまりにの痛さに抵抗出来ず蹲る事しか出来なかった

 


力の前まで来た将大はその場にしゃがむと蹲っている力の髪を鷲掴みし力の顔を上げ口を開いた




「力よ…この世はなポーカーのようなもんや 生まれた瞬間から強いカードか弱いカードかはその生まれた家で変わる。


金持ちの家に産まれたなら強いカード

貧乏の家に産まれなら弱いカード


それで言うとお前はここに生まれ落ちた時から強い手札がぎょーさん揃ってんるんや


"財力"権力"暴力"


この家にはこれが全てある

ポーカーのおもろいとこは最初に配られたカードだけやなく違うカードに"変える"事が出来るんや…! どや?おもろいやろ?


俺が何言いたいかわかるか?

俺の手札の中でお前っていう"カード"はまだまだ、へなちょこに弱いんや 


ええとこ3か4ぐらいやろ 


だから強なってみせろや

足掻いてみせろや

変わってみせろや


俺に使って貰えるぐらいの強いカードになってみろや お前の事を強くする為なら俺は"修羅'にもなるぞ」




その言葉を聞いた力は瞳から涙を流し口を開く




「なら…!俺は最強になったる… 誰にも負ける事のないカード!Joker(ジョーカー)にな…」




そう言い放った力は何かを決心し力の意識はそこで途絶えた




「ポーカーにはジョーカーはあれへんけどな」




力が意識を失った後、ポツリと独り言をこぼしながら御前に戻る将大




「ええ頃合いや 力を"あそこ"にこのまま連れてけや」




将大が組員に指示すると組員達はすかさず行動に移す


意識を失ってる力軽々とを抱えこの部屋から去って行った



力がこの部屋を去って行くのを確認した将大は携帯電話は取り出し"ある所"に電話を掛ける

その時の将大は誰が見ても背筋が凍る様な冷徹な顔をしていた




「父さんえらい悪い顔してるで」




ふと声がした方に目をやると長男の嫡子である晃がこの部屋に現れ将大に問いかける




「もしかしてあいつにも"彫らす"気なん?」




晃は15歳にしては上背が高く180センチ近い服の上から見ても分かる程、筋肉が隆々としている

顔付きは将大に似ていてギョロっとしたデカい目が印象的で銀髪の髪色にワックスで整えられた髪型は何かを貫くかの様にツンツンとしていた




「あぁ… 例外やけど"彫る事"にしたわ まだ何彫るか決めてへんけどな」




「まあ伝統とか俺はどうでもええけど、俺の不動明王と同じランクの神様は辞めてや あんな奴と同等と思われんの嫌やからな」




晃は明らかに嫌悪感出しながら将大に問う


この「山王会」の家系は嫡子が15歳になると背中に入れ墨を彫る事が伝統で決まっている


晃も例外ではなく伝統の従い背中にごく最近、不動明王を背負ったばかりだ





以前から将大は最近の力の行動から何かを察し"ヤクザの息子"という事を再認識させる為に例外ではあるが力にも入れ墨を彫ろうと考えていた


そんな矢先に丁度良く、今回の事が起き機会が訪れたのだ




「まああいつには相応のもんを彫らすわ」




その言葉を聞いた晃は納得したのかこの部屋から去って行く




(さすがにあいつ相応のもんや言うて腐ってもあいつも俺の"息子"や 不格好なんは入れらへん…

今後に期待いう意味で"あれ"にするか)




将大は考えを自己完結すると再び携帯を取り出し電話を一本入れる



この将大のは"判断"が今後の力の人生を大きく変え


それは自分を含め「山王会」の将来を暗礁あんしょうに乗り上げる事になるとはこの時は誰も思いもしなかった










































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