僕の方こそ(4/4)
今回ケントがリアとマルティナに伝えた作戦は、彼女らが二人がかりで一方から来る敵を
そのことそのものは
二人を信じること。ある
彼女らは真剣だった。真剣にケントの言う通りに努力してくれた。その成果はきっとある。
「一体そっちに行った!
だから何体かはあえて声をかけるにとどめ、自分は他の
この演習は一人ではなく三人で受けているのだから。
「任してくれ!」
「分かりました!」
ケントに
思えば、ケントは誰かに頼るということを長い間してこなかった。頼れるのは
ただ、一人だけでは得ることのできない強さもある、ということだ。
今、この瞬間、ケントはそれに気付いた。
苦しい時は誰かに頼ってもいい。そう思えるだけで、こんなにも
「リア!こいつをッ!」
マルティナが一体を
「――〈
リアが
「ッ!?」
そのすぐ側まで
(間に合わない――!)
時間の
――呪文の
一週間の訓練で確かに魔法の精度は上がった。だが、待機詠唱ができるようになったわけではない。
リアが魔法を
やるしかない。
自分の努力した時間を信じるのだ。それが無駄ではなかったと
リアは
「〈
声を振り
魔力から変換された
クンッ
それは、あまりにも
その踏みとどまった一歩が、
「〈
不可視の一撃が
もはやただの
そして――
パタン
「そこまで。演習終了です」
その一言が
そしてなぜか、ケントら十一班の
「ふむ。リア・ティスカ。まだまだ魔法の精度は悪いですが、呪文の発音はずいぶんとよくなりましたね。ようやく、マギアスとしての最低ラインに立ったといったところでしょうか。ですが
アルバートは
続いて
「一週間でここまで成長するとは思いませんでしたぞ!いやはや、天才というものは周囲にも
二人の教師から
そして、最後にもう一人の教師からも言葉がかけられた。
「よくやったね。三人共。他学科合同小隊演習、二度目の試験。十一班は無事制限時間まで耐えきったので、もちろん合格だよん」
フランツィスカのその言葉が
「「やったあああああッ!!」」
飛び上がって喜びを表した。
このシファノス陸軍学校に入学して以来、これほどまでに嬉しいことなど他になかった。
何をやってもうまくいかない。授業が進むにつれ、どんどん周りから置いて行かれる自分。下がり続けていく成績。ここに入学するべきではなかったと思ったことなどもはや数えきれないほどだ。それでも一度入学したからにはやるしかないと、ギリギリのところでなんとか持ちこたえてここまできた。
もうどうすればいいか分からなかった。ずっと
それが二年になってようやく、彼女らは。
誰かに
「やった!やったよぅ……!」
その二人を見て、ケントはふと自身の
「―――――!」
少しばかり上がった口角。
それは
試験に合格して、嬉しい。そんななんてことのない思いを自分が感じていることにケントは
長らく、合格して当たり前という状況にいた。そして自身も必ず合格できるという自信があった。だから試験に合格することは当然のことであり、それを
しかし今は
――天才と呼ばれる自分と、落ちこぼれと呼ばれる二人の、この三人で試験を合格できたことが嬉しい。
「ケント君――!」
「私……ケント君と同じ班になれなかったら、絶対合格なんてできなかった……。どう頑張ればいいかも分からなかったから……」
頭一つ分以上低い位置からくぐもった声がする。胸に顔を押し付けられては、泣いているのか笑っているのかも分からない。
「僕は大したことはしてないよ。ただ、頑張り方を教えただけだ。頑張ったのはリアと、マルティナだよ」
視線を向けると少しばかり
「ケント。君がいたから私達は頑張れたんだ」
顔をうずめていたリアが顔を上げた。
「落ちこぼれの私を、
その言葉に、マルティナも強く
ただ書き取りと
「――僕の方こそ。ありがとう」
リアとマルティナには、その感謝の言葉に
彼女らが頑張ったから十一班は合格できた。それももちろんある。だが、それ以上に。
一つの
「あー……よろしいですかなお三方。次の演習の準備を始めねば」
ゴドウィンに続いてアルバートもゴホンと
「言っておきますが、この試験は合格して当たり前です。そのことを
アルバートの言葉を、
「おうおうおう、こんな場所で
目線を合わそうとしないので、ケントの方からその表情は
「ケッ!ほら、次の
そういえば、教師のみならず他の二年生達も周囲で見学していたことを思い出し、ケント自身も
しかしケントの感じたその気恥ずかしさは、ほとんどの生徒達にとってはさして意識にとまったことではなかった。
たった一週間で落ちこぼれ二人のこの変わりよう。
きっとあの天才が何かしたに違いない。そう思う者がいるのも無理からぬことだろう。
「…………チッ!」
そして、この演習で天才が
自分より下だと思っていた者の思いもよらぬ
誰かの成功を心から喜べる者が、実際どれほどいるだろう。ましてや相手が多少
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