訓練を始めよう(3/4)
学校中に
「そいじゃ今日の授業は終わりだね。お疲れちゃーん」
テキパキと筆記用具等を片付ける魔戦科二年の担任フランツィスカ。
「あ、解散の前にちょっと大事なお話があるよん」
と、すっかり気の抜けかかっていた生徒達にフランツィスカが声をかける。帰り
「昨日小隊演習したじゃん?あれの
生徒達から不平不満の声が上がる。良い結果を出せたと
「まぁ別に誰より上とか下とか関係ないけどねぇ。でも分かった方が張り合いが出るでしょ?目指せナンバーワン!頑張れよ若者たち!……いやツッコミ待ちだよ?先生も十分若者ですよって言え!」
「……………」
そういえばとケントは思い出す。このあとリアとマルティナの二人と待ち合わせしている場所も中庭だ。ついでに自分達の成績を見ておくべきだろう。あまり良い結果とは思えないが。
望みのツッコミが返ってこないことに不満顔なフランツィスカ・シュタイン、二十八歳、
「あ、ちなみに一カ月後に昨日と同じ内容の小隊演習しまーす。
と、さらっと重要なことを口にするとひらひらと手を振って教室を出ていってしまった。
色めき立つ生徒達。初回の演習で制限時間まで耐えられた班は半分にも満たない。多くの魔戦科の生徒達が次の
「……………」
そのケントの、見ようによっては落ち着いていて
ケントに続いて彼も席を立ち、中庭へと足を向ける。椅子から立ち上がった
中庭の渡り廊下にはすでに若干の人だかりができていた。自身の班の順位を知りたい者、
そんな人だかりの中に分け入ろうとするケントに気づいた生徒が、あっ、と声を上げて道を空ける。心なしか、その表情には若干の
頭の中で魔法二つを発動
自然に割れた
班番号と名前の
(……最下位、か……)
常に成績トップを
「――落ちぶれたものだな」
その天才に背後から声をかける者がいた。
「……………」
しかしケントは
「“魔戦科始まって以来の天才”が最下位とはな!ケント・バーレス!」
名前を呼ばれて、ようやっとケントは自分が話しかけられていることに気付き声のした方へと振り向いた。
ケントの
美しい少年だった。ケントと同じ制服とネクタイの色から魔戦科の二年ということが分かるが、その
加えて、その銀の髪を
「……オルフェス」
ようやっと反応を返したケントにオルフェスと呼ばれたデモリスの少年は
ケントとオルフェスが向き合っていることに周囲の生徒達が色めき立つ。“魔戦科始まって以来の天才”と名高いケントに次いでオルフェスもまたこのシファノス陸軍学校では有名な存在であったからだ。
オルフェス・ディア・ローダン。ケントと同じく魔戦科二年である彼は間違いなく“天才”であった。
運動神経、魔法の技術、その他学力等。どれをとっても
生まれながらにしての天才。それこそがデモリス。
能力、容姿、血統、どれをとっても最上位である彼らを前に他の者達は口を
だが、このシファノス陸軍学校においてはその限りではない。
「ごめん。聞いてなかった。さっき何て言ったんだ?」
と、“生まれながらの天才”を前にして相変わらずのぼーっとした表情でそうのたまう“魔戦科始まって以来の天才”にオルフェスのこめかみに
「落ちぶれたものだなと言ったのだ!」
もはや
「そうだな。これは、
オルフェスの
「さしもの“魔戦科始まって以来の天才”も、落ちこぼれ二人の
そういうわりにオルフェスの表情にケントを
常に一番であり続けてきたオルフェスにとって、このシファノス陸軍学校で二番であることは耐えがたい
「そうならないように頑張るよ」
「
「僕が二人に剣術と魔法を教える」
その言葉を聞いてオルフェスは鼻で笑った。
「お前が剣術と魔法を教えるだって?やめておけ。落ちこぼれはどうしようが落ちこぼれのままだ。生まれ持った才能は努力したところでどうしようもない。今からでも
入学当初の成績はケントよりオルフェスの方が上だった。しかし一度追い抜かされて
だが、ここまで言ってもケントの無表情は
「落ちこぼれのままかどうかは、彼女らの頑張りしだいだ。やってみないと分からない」
「
「心配してくれて、ありがとう。でも、頑張ってみないことには、まだ分からない」
その物言い、そして一向に変わらない無表情に今一度オルフェスは舌打ちをした。
「……
銀髪が
「――
その一言で、初めてケントの無表情が
周囲の空気が静まり帰り、ざわめきが止んだ。
歩み去るオルフェスをケントが呼び止めようとした
「あ、ケント君やっぱりここにいたんだ」
小さな
ケントのすぐ側まで近づいたリアは、その顔を見上げてひっと声を
「――け、ケント……君……?」
続いてやってきたマルティナもケントの顔を見るなり
「ど、どうした。そんな怖い顔をして……私達の成績、そんなに悪かったのか……?」
「――あ」
そう言われてようやっとケントは
「……成績は、最下位だったよ」
ケントがそう返すと、マルティナはがっくしと
「まさか最下位とは……
項垂れるマルティナを
「ケント君、大丈夫……?」
ケントが我を失っていた理由が成績や順位に
「……ああ、大丈夫だ」
そう言ってポンと自分より頭一つ分ほど低い同級生の頭に手を乗せる。昨日出会ったばかりの異性に対して、そんなことをするなど我ながららしくないという自覚はあった。それだけ
視線を上げて
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