訓練を始めよう(2/4)
ケント達十一班の面々はまず場所を中庭から同じく学校敷地内の魔法訓練場へと移した。
そこは周囲を
適当なレーンを確保し、巻き藁の位置を調整していたケントが二人の少女の元へと戻ると、この場所に来たことのなかった普通科のマルティナが少し居心地が悪そうに身じろぎした。
「私はどうすればいいだろう?邪魔にならないように出ておいた方がいいんじゃないか?」
「いや、特に予定がないのならここで見て話しを聞いておいてほしい」
「しかしなぁ……」
訓練場には十一班以外にも魔法の訓練を行っている生徒達がいる。当然、魔法科か魔戦科の生徒だ。中にはケント達と同じ二年の生徒もいるようで、時折ケント達に好奇の視線を向けている者もいる。二年でなくとも魔法を一切
「あまり、魔法科の連中は好かないんだがな。あ、いや、リアさんは別だぞ!ただ、なんというか、見下されているような気がしてな……」
マルティナのその感覚は彼女個人だけではなく、おそらく普通科の生徒全てが感じているものだ。
というのも、才能の技能と呼ばれる魔法を扱える者はそうでない者を見下す
そのため、普通科の生徒の多くは魔法科の生徒をいけすかない連中だと思い、魔法科の生徒は普通科の生徒を
「仲間の実状を知っておくのも大切なことだと思うし、何より普通科だからって魔法についてまったく知識がないのはどうかと思う。戦場で敵国の魔法師と戦うこともあるかもしれない。そういった時に相手の使う技術を知っているかいないかが生死を分けるかもしれない」
ぐぅの音も出ないほどのケントの正論に、マルティナは分かったよと
「さて……」
ケントは
「あ、えと、それで、まずは何から!?」
「とりあえずリアさんがどのぐらいの実力を持っているか知る必要がある。そうしないと今後の見通しも立たないからね」
「なるほど」
ふむふむとリアは頷く。その多少オーバーなリアクションと小さな
「リアさんの実力に応じて、これから一年の訓練計画を立てる。落ちこぼれとこの学校を卒業したいなら、真剣に取り組んでほしい」
「はいっ!ケント教官!」
「教官って……ちょっと恥ずかしいからやめてほしい」
壁際でマルティナが口元を押さえている。
「そうかなぁ……いいと思うけど……」
「ケント君のままでいいよ」
「そう?あ、でも私のことは呼び捨てで呼んで!さん付けなんてよそよそしいし、同い年なんだし」
「……………」
それはそれでケントとしては恥ずかしいのだが。
男友達ですらロクにいないケントである。異性の友人やまして恋人などいようはずもなく、今までの人生で異性を呼び捨てで呼んだことなどなかったのだ。できれば
「あー……じゃあ、リア。まずは現状の実力を見せてほしんだけど……」
と、ケントが言ったところで当のリアは少し
「……男の子から呼び捨てで呼ばれると、ちょっと
自分で言ったんだろうが!という言葉が
このリアというマギアスの少女。意外と根は明るいというか
ゴホンとケントは
「朝の試験の時、〈
そしてレーンの奥の巻き藁を
「分かった!」
試験の場という状況ではなく、この
「デい/オル/エテ/エテ/えファ/ウえル――」
「〈
バシッ
空気が
「……なるほど」
「うぅ……当たらない……」
自身の腕前の
項垂れた
「どうしてあんなに弱い電撃しか出ないのか、その額の宝石で
ケントが自身の額を指し示しつつ問う。
「魔力があっちこっちに広がってるからでしょ?視えてはいるの……」
マギアスの額の宝石は魔力の流れを視る。どのように視えているのかはその視覚器官を持たない人間であるケントには分かり
原因は分かってはいるが、
「じゃあ次は待機詠唱を使って無発声で〈
「でも、私……」
「いいから」
「〈
目を開くと同時にリアが
「待機詠唱、できないっていったのに……」
「でも手から魔力は出てた。雷撃に
ふむふむと頷いてケントは語り始める。
「リア。魔法の狙いが定まらなかったり威力が弱かったりする原因と、待機詠唱ができない原因は一緒だ。君は呪文の意識がちゃんとできてないんだよ」
「呪文の意識……?」
「そもそも魔法というモノがどういうものか、説明できる?」
あまりにも初歩的な問いかけにリアがムッとして
「……生き物が持つ生命エネルギーである魔力を、呪文によって変換、形成して様々な
「初心者用の
「やっぱり馬鹿にしてる?」
少しばかりリアの表情に
「馬鹿にはしてない。ちゃんと自分なりにどうにかしないとと思って、そういう
まだ少しばかり不満げなリアだったが、その言葉に
「じゃあ魔力を変換、形成するのに必要な呪文はどこで効果を
「えーと……口?」
「違う」
否定してケントはトントンと自分の頭を指で指し示す。
「呪文とは音じゃなくて形だ。その形を頭で意識することによって最終的に精神が魔力に作用する。だから呪文は必ずしも発声する必要はない。ただ、口に出すことで声を出す、自分の声を
「一方で無声詠唱、つまり待機詠唱は声に出さずに呪文を意識する技術だ。呪文を頭の中で意識して、発動
その
「あー、ちょっといいか」
と、
「ちなみに、君はいくつ
マルティナの
「最大で三つ」
「三つ!?」
驚きの声を上げるとリアだが、問いかけた当のマルティナは小首を
「三つというのは……多いのか?」
「三つも
リアの言う先生、つまりシファノス陸軍学校の教師陣の魔法
「そうは言うけど、
「あー分かった分かった。魔法のことになると君は饒舌だな」
「そうかな?」
ケント自身そういう意識はなかったので、確認も込めてリアの方へ視線を向けるとリアはうんうんと頷いた。
「うん。正直、最初はケント君のこと、なんかいつも無表情で口数の少ない人だなぁって思ってたけど、今はなんか生き生きしてる」
実際、口数以上に表情からして朝の様子とは少し違うように二人の少女は感じていた。
「ああ……今は何も
「は?」
思わず
「普段は
と、事も
「
「……魔法を二つ
マルティナがリアに説明を求める。
「えと、私は一つもできないわけだけど……常に二つのことを考えながら、別のことをしてる状態というか……普通なら上の空になるっていうかうーん……」
上手く説明ができずリアはあーうーと
「頭の中に重りを入れてる感じというか……」
「それは死ぬんじゃないか……?」
リアの説明はさておき、魔法を二つ
「どうしてそんなこと……」
リアの当然の
「待機詠唱、苦手なんだ。だから訓練してるんだよ」
「苦手……?三つも
「一年の時は一つがやっとだった。だからまず一つから
実際、気を張っている訓練中はともかく、それ以外では声をかけられても気が付かないことなどがままある。常に集中状態なので周囲の話声なども聞こうとしなければ耳に入ってこない。
「じゃあ、いつもボーっとしてて口数が少ないのって……」
「そうならないように訓練してる最中だから……」
さも当然のように訓練訓練と口にするケントだが、常に待機詠唱を
「僕のことはともかく。これでリアの問題点は分かった。どうすればいいか、ちょっと考えるよ。今日はここまでで、明日の放課後から訓練開始だ」
そう言ってケントは解散を
「私はどうすればいいんだ?」
「マルティナさんの問題点は実はもう分かってる。マルティナさんの訓練の
「分かった」
マルティナが頷いて、本日のところはそれで解散となった。
天才と落ちこぼれ二人、三人が三人共大きな決断を下した一日が過ぎていった。今日という日は彼と彼女らにとって大きな
今日から始まった他学科合同小隊演習。関わるはずのない三人を
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