第二章
訓練を始めよう(1/4)
シファノス公国。大国ラドカルミア帝国に属する小さいが豊かな国である。
巨大な大陸の内陸、そのほぼ中心に位置するそこは様々な人種が分け
それでも過去の歴史の
シファノス公国のみならず、混血は時間の流れと共に大陸全土で進んでいる。いずれは全ての国家がシファノス公国のように、人種の違いなどなんら意味を持たないようになるだろうというのが歴史学者達の
かくして人種間の争いなどすっかり歴史からなりを
とりわけ、人々の生活に欠かせない魔法機械の動力源となる
そういった理由で軍事力という物はどの国家にとっても重要なものである。大規模な戦闘行為など早々起きないにしろ、他国に
また、森の奥深くや
そんな
陸軍学校とはいうが、魔法科や魔戦科であれば卒業後、数年の
軍の
時刻は三時を過ぎたところ。授業が終わるには本来少し早いが、シファノス軍学校二年の生徒達は、予定よりも早く授業が終わってしまったために一足先に自由時間が与えられていた。
頭を抱える天才と、
(思ったより……
天才ことケントが頭を抱えているのは今しがたマギアスの少女、“魔法科一の落ちこぼれ”と呼ばれてしまっているリアの成績についてを本人の口から聞いたからである。
呪文の発音、詠唱速度、術式の理解度……全てが学年最下位。かろうじて
「入試に受かったのが、奇跡……」
「はうあッ!」
思わず
「に、入試は、マギアスだったから……」
「ああ……」
シファノス陸軍学校の入試試験はそれほど
その点、マギアスは先天的に
「そ、それぐらいにしてやったらどうだ?」
見かねてリザイドの少女、マルティナが話に入る。
「実は、その、なんというか……。私も、成績は下から数えた方が早い……」
と、自分から言っておきながらマルティナは
先の試験を
「二年の成績次第では、進級も危ういと言われている。正直、
包み隠さずにマルティナが告白する。いくら豊かなシファノス公国といえど、子供の
そしてマルティナがその状況ならば、彼女より成績が低いだろうリアも当然そうだということだ。もはや顔を
「……………」
「そ、そう心配することはない!大丈夫だ!」
ケントの
「
と、マルティナは
「……無理だよぅ」
帰ってきたのは否定的な返答だった。
「だって、ケント君は“魔戦科始まって以来の天才”。上級生よりも強いって
「そ、そんなにすごいのか君は。確かに、試験の時は魔法も体術もすごいレベルだと思ったが……」
本当にマルティナはケントのことを知らなかったらしい。
その天才とは対極に位置する少女が力なくベンチから立ち上がった。
「……私、先生に言って班決めをやり直してもらえるように
肩を落として、とぼとぼとリアが歩き出す。何か言いたそうにマルティナが口を開きかけたが、その口から言葉が
(――いいのか?それで)
こういうことになるかもしれないことは教師陣も分かっていたはずだ。にも関わらず彼らはケントとリアを同じ班にした。その
「――待ってほしい」
思わず、ケントはその小さな背中を呼び止めていた。
振り向いた
「この小隊演習は、仲間が見ず知らずの相手でも連携がとれるか、という部分も評価の対象の、はず。班変えを
思わず口から出たあまりにも冷たい言葉に内心
「で、でもぉ……」
足を止めたはいいものの、状況は変わらない。実際にそれで評価が下がったとしても、長期的な目線でみればそれは必要
――期待してるゾ!優等生っ!
そう言って担任のフランツィスカはケントの肩を
フランツィスカは、いったい何をケントに期待したのか。
(――まさか、この二人の
それをケントに期待した、というのか。
「あ、あのぅ……」
なんと言葉をかけるべきか。ただ、ケントはこのままリアを行かせてはならないと思った。
この班であること、リアとマルティナとケントが同じ班であることにはパワーバランス
まだ短い付き合いとはいえ、ケントのことを一度も天才と呼んだことのないあの教師に、自分はすでに大きな
(――やるだけ、やってみよう)
そう決めたケントはまずマルティナに向き
「……死ぬ気で
「あ、ああ」
不意に話を振られてマルティナが
次いで再びリアの方に顔を向ける。
「リアさんは、どうなんだ?」
「え?」
「教えて、欲しい。卒業するために本気で頑張るつもりがあるのか。それとも、もう
「……………」
胸の前で不安げに
「わ、私は……」
「このまま、落ちこぼれのままで、いいのか」
おそらく、その言葉はすでに誰かに言われたことがあったのだろう。彼女の表情がくしゃっと
「私だって!好きで落ちこぼれてるわけじゃないもんっ!自分に才能がないって知ってるから、頑張って、努力して、なんとかしようって思ったもん!でも、どうしても、できないから……。天才のケント君には分からないよっ!」
こうやって
だが、結果が
(天才、か……)
もはや言われ
“魔戦科始まって以来の天才”は“魔法科一の落ちこぼれ”と真剣に向き合うために、今一度、
瞳を開くと同時、常に彼の意識を圧迫しつづけていた待機詠唱を解除。ありのまま、
「もし、まだリアさんに努力する意思があるなら。僕が力になろう」
「――え?」
思いがけない
「ただ、本当にやる気があるのなら、だ。僕は君に頑張り方を教えることはできるけど、それを頑張るのは君だ。
突然の
「マルティナさんにも」
「ええ!?私も、か!?」
「もちろん。話してて分かったけどマルティナさんは
つらつらと
「本当か!?私も、努力はしてるつもりだったんだ。でも結果が
その言葉に、ケントは一つ
そして、視線をリアへ。
「リアさんはどうする?もちろん無理強いはしない。本当に
「私は……このままじゃ嫌だ。“魔法科一の落ちこぼれ”なんて呼ばれのはもう嫌だ!私は……変わりたいッ!私のことを落ちこぼれって馬鹿にした人達を見返してやりたい!」
心の底からの本音。
マギアスのくせにと何度
でも、そんな自分にもまだ手を差し
「私に、力を
自分は、変われるだろうか。
「分かった。これから一年、よろしく」
そう言って、人付き合いが悪いことでも有名な“魔戦科始まって以来の天才”は、その
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