第一章
他学科合同小隊演習(1/3)
まだ夜の抜けきらない早朝の冷たい風が、雲を
観客は一人。階段状に並んだ机の列、その真ん中辺り、
早朝だからだろうか。少し眠たげに細められた眼。学校指定の制服を着崩すこともなく第一ボタンまで
ケント・バーレス。このシファノス陸軍学校においてこの平凡な
魔戦科始まって以来の天才。学校最強の二年生。彼についた呼び名はいくつかあるが、代表的なのはやはりこの二つ。
一年前期では多少優秀
文武両道を行く彼だが、あえて欠点を
その彼、ケントはまだ自分の他には誰も来ていない教室からぼんやりと窓の外を
なんてことない、この一帯に広く生息している種類の小鳥が木々の枝にとまって
小鳥の様子をしばらく眺めていたケントはやがて思いついたように机に向き直ると、右手を胸の前で開いた。
「〈
ケントがそうぽつりと
それは今しがた見た小鳥だった。ぴくりとも動かないことを
「……………」
ケントが意識を自分が作り上げた小鳥へと集中させる。
だが小鳥の動きは毛繕いだけにとどまらない。不自然に両方の羽を広げてみたり、手の平の上で寝そべってみたり、しまいには小さな羽と
小鳥を
そうこうしているうちに時間が
だが、ケントがその
「おい、あいつまたやってるよ」
当然、その様子は他の者にとってあまりに浮いて見える。
「ケント君さぁ、本読んでる時以外はいつも魔法使ってるよね、なんで?」
その問いはケント本人に向けられたものではない。
「見せつけてんだろ、自分はこれだけ魔法使えますよーって」
「この間
明らかにその天才様に
そして始業の
「はぁい、皆いるぅ?欠席、遅刻はないかナ?」
なんとも気の抜けるようなふわふわとした口調で語り掛けるのがケント達のクラスの
もっとも、その
その怒らせるとヤバイ先生はいつもの
「今日はねぇ、昨日言った通り他学科の二年生も
そういえばそんなことを言っていたなとケントは昨日のことを思い出す。だが二年生だけ、しかも他学科の生徒も集めての話など内容の見当もつかない。それは他の生徒達も同じようで、
「うふふ、大丈夫大丈夫。面白い話だからさぁ。きっと皆も喜んでくれると思うよん」
嘘つけ、とクラスの全員が思った。
教師が生徒にこういう言い方をする場合、本当に生徒が喜ぶことはほとんどないのである。フランツィスカの
場所を
「普通科二十六名、魔法科二十二名、そして魔戦科二十名……おほ、すごいすごい。遅刻欠席なし!優秀じゃあん」
その生徒達の注目を一身に
「それじゃあ……さて!今回皆さんに集まってもらったのは、今期の二年生から始まる特殊なカリキュラムについてお話するためでぇす!いぇーい」
「はい、まずは皆がそれぞれ受けているこのシファノス陸軍学校の学科について、その特色と
そう言って
「まずは普通科。普通科では白兵戦闘の技術を中心に軍人として必要な様々な技術と知識を学んでもらっています。ゆくゆくは前線を
言ってしまえば、いわゆる普通の軍人を目指す学科。三年生になれば選択科目によって工兵や
「魔法科。
全ての生命が持ち得る
また魔法は戦場でのみ使用されるものではなく土木作業、
「そして魔戦科。ここでは普通科の内容に加えて魔法技術も
魔戦科はようは普通科と魔法科両方の内容を合わせた学科だ。
それぞれの学科の特色を簡単に話終えたフランツィスカはここからが本題とばかりに
「皆さんはそれぞれの学科に属し、それぞれの専門的な知識、技術……魔戦科は両方だけど、を身につけてもらっています。いずれは軍人として、その知識と技術を国境の
現場、つまり戦場。
「白兵戦に優れた兵士が前線を固め、その後方から魔法師が魔法で
軍とはすなわち群である。単独で行動することは基本的には存在せず、常に多人数で行動することが求められる。誰かが生き
「つまりです。皆さんが学んでいる技術というのは味方と協力することを
おかしいほどではないにしろ、実戦で
「まぁだからこそ一年の時からちょくちょく合同演習とかしてるんだけどねー」
このような
そしてケントの
「と、い、う、わ、け、で!今期からその味方との連携をより強固で
(他学科合同小隊演習……)
学年
ここで各学科の担当教師達は自分達の
「期待してるゾ!
木片を渡し
再び壇上に戻ったフランツィスカがぐるりと辺りを見回して生徒全員に木片が行き渡ったことを確認する。
「はぁい。まぁ、
生徒達がざわざわとどよめき立つ。ケントは
「皆さんには普通科、魔法科、魔戦科、それぞれの学科から一人の計三人の小隊を組んでもらいます!まぁ人数の
普通科に
「二年の間はその小隊単位で試験を受けたり、ときには
生徒一同からブーイングが上がる。
「だってぇ、君らに
しかしながら、連携をとる上で
(……………やばい)
ケントは人付き合いが得意ではない。
今まではそれで問題なかった。だが、これから一年間、同じ者達と共同で試験を受けるとなればそうはいくまい。
「はぁい!それじゃあ班ごとに分かれて一年を共にするチームメイトを確認しましょー!いいか!第一印象は大事だぞぉ、笑顔で挨拶!これ基本」
壇上でにこーと笑顔を作っている学年主任を無視して他の教師達が生徒の
(笑顔で挨拶……)
誘導されつつ、ケントがフランツィスカの言葉を
大変なことになってしまった。同じ学科の生徒達にすらにロクに言葉を
しかし、やらねばなるまい。
(笑顔……笑顔……)
そう反芻しながら自身の
その天才の
教師に
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