君を変える魔法 ー天才と落ちこぼれー
noyuki
プロローグ
魔戦科始まって以来の天才
穏やかな午後だった。どこまでも
一陣の風が吹く。さわさわと
されど、その陽気の中で向かい合う二人の少年の間に満ち満ちた空気は息が苦しくなるほどに張りつめていた。
共に年齢は一七ほどに見える。体格も同じほどで衣服もまた同じ。通気性のよい
だが二人には決定的に違う点があった。片や一方は取り立てて特徴のない少年。この地方でよく見られる濃い茶色の髪に同色の瞳、顔だちはなかなか整っているが、せいぜい中の上といったところ。中肉中背だが、見る者が見れば全身にメリハリのある筋肉を
もう一方は、目前の少年よりもさらに筋肉質だった。体格が同じほどでも筋肉がより目立つのは、筋肉量の差以上にそれを隠す脂肪の少なさだ。
そして何より二人を決定的に
リザイド。彼の人種はそう呼ばれていた。
この国ではそう珍しくもない人種である。
「んじゃあ、準備はいいかナ?」
張りつめた空気を意にも
ぴっちりとした制服に身を包んでいるが、どうにも表情や口調に
「いつでもいいすっよ」
最初に答えたのはリザイドの方。その声色、内に秘めたる闘争心を隠そうともしない。
次に女に視線を向けられた少年は、無言でこくりと
「おっけい。んじゃあ……始めッ!」
女が少し距離をとってから高らかに宣言したその瞬間、蜥蜴がその身を
地面を
カァンという木材同士がぶつかる衝突音。
だが
少年は
「くっ……!?」
あまりにも密着されすぎれば木剣は振れない。二撃目を放てなくなった少年の顔面に右手の
双方木剣を構え仕切り直し。距離は遠いが最初と
最初に仕掛けた少年の体術は十二分に
体術だけでは分が悪いか。そう判断したリザイドの少年がまたも先んじて攻勢に出る。
「シュル/ペディム/エファ/エファ/ウエル――」
木剣を持たぬ左手の平を相手へ向け、
「〈
そして手の平から放たれるは光の帯。一直線に茶髪の少年と向かうそれはまさしく槍となって迫る。
「〈
だが光の槍が防がれることはリザイドの少年にとって想定の範囲内のことだったらしい。その口の
「〈
続けざまに左手を
最初の一撃は
勝負を決めるかに思えたその
「〈
新たな力場が発生する。今度は前方ではなく、茶髪の少年を
「嘘だろッ……!?」
リザイドの少年が毒づいた。彼が
「シュル/ペディム/エファ/エファ/ウエル――」
茶髪の少年が呪文を唱え始めた。最初にリザイドの少年が唱えた物と同じ物。何が来るか
「〈
攻守を入れ
「〈
横殴りの攻撃まで同じ。
「あ、〈
展開された薄い力場が攻撃を防ぐ。だがリザイドの少年に一切の余裕はない。顔に
受けるのではなく、
だが、茶髪の少年は無情にも次なる手を打った。
少年が突然矢のように飛び出す。一気に相手との距離を
「〈
ガァンッ
茶髪の少年が握りしめた拳を
「うわああッ!?」
「一本ッ!そこまで~」
そこで
「くそッ!」
地面に転がっていたリザイドの少年がそう吐き捨てて、地面を殴りつけた。着地の瞬間にしっかりと受け身をとったようで、外傷らしい外傷は見当たらない。
「あ~あ、やっぱりケントの勝ちかよ」
その数二十
「はいはい静かに。はい、二人とも。元の位置に戻って~」
女がそう言ってパンパンと手を叩く。
立ち上がって
「……………」
今しがた彼を吹き飛ばした茶髪の少年が、吹っ飛んだ
それがリザイドの少年には気に食わない。
「……チッ」
乱暴に木剣をひったくると、少年は元の位置に戻った。気を害した様子もない茶髪の少年もそれに続く。
「は~い、それじゃあ、今回の模擬戦ですが、まずはヨルク君」
女がリザイドの少年に向き直る。
「動き自体は悪くなかったよん。ただ、無理に相手に張り合おうとするのはよろしくないにゃあ。ヨルク君は身軽なんだから、避ける選択肢もあったと思うよ?」
気の抜けた口調のわりに的確な
「それでぇ、ケント君わぁ……」
勝った方の少年に向き直った女は、しばし中空を
「うん、そのまま頑張ってぇ~」
「……はい」
なんとも間の抜けたやりとりも周囲の見物人達にとってはもはや
少年の相変わらずの様子に女はやれやれと肩を
シファノス
しかし、校内に置いてはもっと通りのよい
魔戦科始まって以来の天才、である。
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