第19話 感情が暴走して脱線して大事故起こしてる
次の日の朝。久しぶりにしっかり休めた感のあった睡眠から覚めると、私に絶大な安心感を与えてくれたスズの姿も温もりもベットにはありませんでした。
なんで? 昨日のスズは私の夢か幻覚だった?
ってパニックしちゃったけど、リビングの方から音がするのに気づきました。五分くらいで。
行ってみるとそこには、スズがいて。ぐっすり睡眠からスッキリ目覚めでスズに会えるなんてとっても幸せだなぁ。今私は幸せを実感している‼ でも、スズがお泊まりしてくれるなんて今回だけかもしれなかったんだし、寝起きのスズも見たかったなぁ。なんならスズの寝顔をずっと眺めとけばよかった。昨日はどうかしちゃってたからなぁ。残念……
「あ、モモ、おはよう」
悶々とそんなことを考えて立ち尽くしていた私に、スズは気づいてくれたようで。家の中でスズに朝の挨拶してもらえるなんて……ちょっと泣いちゃいそうかも。
「うん。おはよう。早起きだねぇ」
「うん。えっと、早く起きちゃったからパンと卵焼いてみた」
「うおぉぉぉぉ。スズの手料理⁉︎」
「えぇっ と、パンはトースターに入れただけだし、卵くらい誰でも焼けるよ。それに、モモのほうが上手でしょ? だからその……」
スズはこの料理にあんまり自信がないんだね。
「なるほどわかった。スズの手料理なんだね‼︎ すぐに準備してくる‼︎」
どんなに簡単なものだって、たとえ誰にでもできるものだって、スズが作ってくれたことに意味があるんだよ? って言ってもわかってくれないんだろうなぁ。
それにしてもスズお手製の朝ご飯を食べられる日が来るとは。感謝感激って感じ? 歯を磨いて顔を洗って髪をとかして着替えるくらいはしとかないと。あ、でも、そんなにしてたら冷めちゃう? そもそも私が起きるまでスズ待ってたよね? すでに結構待たせてたのでは⁇
「よし。来たよ! さあ食べようすぐ食べよう‼︎」
「うん。 なんだかモモ、元気だね」
「そうかな? 私はいつでも元気だよ?」
そうだねってスズは笑うけど、スズから元気をもらってる、って言……えるわけないよなぁ。さすがにちょっと恥ずかしい。
「ありがとね、スズ。おいしかったよ」
「それなら良かったんだけど……」
「私ね、自分のためだけに料理するってなると他に誰もいないし適当でいいやって思っちゃって。食べないこともあるし作ってもあんまりおいしく感じないんだよね。でもね、今のはとってもおいしかった。スズにはあんまり自信がなかったみたいだけど、私のためにスズが作ってくれたっていうことが一番の隠し味になってるんだよ。美味しさ満点! さらにプラスだね‼」
スズは軽く笑って、“そっか”って言って嬉しそうだった。
そうなんだよ。
スズは片付けもするって言ったけどそこまで任せられない。そこまでさせてしまったらとうとう私はダメになってしまったということなんだろうという謎の確信があった。なのにスズは泊めてもらったからって引いてくれないし……
折衷案ってことで二人で片付けることにした。なんかこれ一緒に住んでるみたいだなぁ。まぁお泊まりだから限定的ではあるけど間違ってはないのかな? でも、ずっとこんな時間が続けばいいなぁって思ってる私がいる。
今まで無理矢理あやふやにしてきたけど、私はずっとスズと一緒にいたい。もちろんスズには友達をたくさん作ってほしいし、いろんな人と接してほしいってところは変わらない。だけど、私の知らないスズが増えるのを嫌に思ってるのも私であって。それならせめて帰ってくる場所は同じでありたいとか思ったりして。そんな今までだったけど、ハッキリ分かった。私はスズと離れたくないしずっと一緒にいたい。そして私のモットーは“今したいことをする”。私のこれから進む道がようやく見えてきたかな?
片付けが終わって少しくつろいだあと。話がある、とスズが切り出す。スズの表情から察するに結構ガチな話っぽいなぁ。昨日の続きとかじゃないと良いんだけど……。思わず目をそらす。
「あのね、スズ。私、ここに住んじゃダメかな……?」
「……え?」
え? ちょっと待ってどういうこと? スズ今なんて言った? 幻聴した⁇
それってつまり私のところに居たいってこと? お泊まりの延長じゃなくて、住む? それはもうずっと私のとこにいるってこと? 同棲希望⁉︎ もしやこれはスズなりの遠回しの告白的な……って、そんなわけないよね。落ち着かないと。落ち着け落ち着け。感情が暴走して脱線して大事故起こしてる。えっと……まずは理由‼ ちゃんと理由聞いとかないと。スズに限ってそれはないと思うけど昨日の同情とかだったら考え物なわけだし……
「えっと、なんでここに住みたいって思ってくれたの?」
「モモが居るから」
⁉︎ やっぱり私の推測当たってた? 恥ずかしがりなスズが、私がいるからここに住みたいってそれはもう本当に告白だと思っちゃっていいのでは? だとしたらとってもとっても嬉しいけど、考え方が一極化してる。これじゃダメだ。落ち着かないと。……全然落ち着けてないぞ‼
「私がモモに何かしてあげられるとは思えないけど、昨日みたいにモモがちょっとでも笑顔になってくれるなら、私にできることがあるならしてあげたいなって思って。だってモモは私のためにいろいろしてくれたでしょ?」
なるほど。告白とは違ってたけどスズは優しいなぁ。まぁ告白ではないってのは分かってたけどね。でもでもっ、私を笑顔にしたいから一緒にいてくれるって、あながち間違ってないのでは?
「私はスズがここにいてくれるとすっごく嬉しいけど、荷物とか。そもそもスズのお父さんお母さんとかに言わないと」
よし。わりと冷静に返せたのでは?
「うん。それなんだけど、モモのとこならいいよって。それで……私はここに居ても良いかな?」
急展開すぎて頭ついてってないけど、大事なのは“スズがここに居てくれる”ってことだよね。そんなの、
「もっちろん良いよ‼」
その日の午後、モモが荷物を持って再び我が家にやってきた。本等にいの? スズのご両親公認で同棲しちゃって。あーいや同居? ルームシェア? ……これどう思われてるんだろう?
ともかく。
スズの帰ってくる家はここになった。私の知らないスズはもう増えないかもしれない。それどころか私はスズの家族すら知らないスズを見られるのかもしれない思うと、これほど嬉しいことはない。私はこんなに幸せに満たされていいのだろうか? そんなことは今やどうでもいいことで。私は今やりたいことを全力でやる。それだけだから。
「ねースズ。今日も一緒に寝ようね」
「もちろんっ」
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