第18話 天使と一つ、屋根の下
急に私に抱きつかれて訳が分からないだろうに、スズは他にどうするでもなく私の頭を撫ででくれた。
「ごめんね」
って言ってる私は、ずっとこうしていたいとか思っちゃってるし。
しばらくしてからまだ玄関先に居る、つまり外にいることを思い出す。
「モモ、上がらせてもらっても、いい?」
「あ、うん。ごめんね」
こんなこと二度と無いだろうから外でも良い、あのままが良かったなぁ。
スズを自分の部屋に案内する。スズとは一番の仲良しだけど私の家に来たことはほぼ無い。スズはインドア派だし。ゲームしにスズの家に行くことが多く、たまに二人で街へ繰り出すのが休日の過ごし方だった。
「えっと、もう夕方だよね。お父さんお母さ……えっと、ご両親? は?」
「変にかしこまらなくて良いよ」
スズは友達の家に行くという経験に乏しいのだろう。だから言葉や行動がたまにおかしい。これもまた可愛さだ。
「親は共働きで単身赴任とほぼ会社住み。だからいっつも一人なんだ」
「そうだったんだ……」
「でもまぁ、そんなに寂しく無いもんだよ? 学校に行ったらスズが居るし」
私の部屋にはソファなんて立派なものはないからスズはベットの上、私は椅子に座って他愛もない会話をする。まさかこんなことになるなんてね。
「それでね、えっと、モモに悩み事があったら私が相談に乗るよって、言いたかったの。私には聞くことぐらいしかできないけど……」
やっぱりそういう話になるんだよね。う〜む。ここは頼もしくなったスズのことを喜ばしく思うべきか、はたまたスズに知ってほしくなかったことを口走ってしまった自分のことを嘆くべきか……
「悩み事かぁ。成績が上がらないとか?」
「それはモモがやってないだけでやればできるでしょ。そういうのじゃなくて」
「夏休みが待ち遠しくて夜しか眠れない」
「夜寝れてるなら大丈夫だよ。そういうのでもなくて……」
やっぱ、話逸らせないよねぇ。
「うん。分かってる。分かってるけど……ね?」
「あ、うん。ごめんね」
「こっちこそ、ありがとね」
その
「もう暗いし泊まった方が良いと思うよ。夕食は……材料あったかな?」
「いいの?」
「もっちろん! 家に電話しておいで」
私がよくスズの家に遊びに行っていたからか、お泊まりは即許可されたようでした。良かった。こんな日の夜に一人になったら私が持たないかもしれなかったから。
「ごめーん。晩ご飯レンチン」
「別に良いけど。モモって料理得意じゃなかった?」
「得意ってほどじゃないよ。まぁ作るのは片付け含めて面倒で、自分一人のために作る気にならないんだよね。せっかくスズに振る舞える機会だったのに毎日がそんなだから材料がなかったよ……残念」
その時のモモは本当に残念そうな顔をしていました。料理って毎日やるとなるとそんなに大変なのかな?
「お風呂は、お湯張るだけかな。お風呂とご飯、どっちが先がいいかな?」
「じゃあご飯で」
「オッケー。チャチャっとレンチンしちゃうぞ‼︎」
簡素な食事を済ませお風呂の準備をする。面倒でしかなかった家事のあれこれが今はとても楽しいものになっていることが分かる。これは確実にスズパワーだね。スズがいればなんでもできることが証明された‼︎
「お風呂の準備できたよ〜。お先どーぞ。スズはお客さんなんだから先に入らなきゃだよ!」
「え、あ、うん」
スズが言いそうなことの反論を先にしておいた甲斐があったね。
「着替えは私のだけど置いとくから、ゆっくりしておいで」
スズがお風呂入ってる間はすごくドキドキものだったね。私はどうしようかって。いや、正解は分かってるんだけど、家でスズと二人っきりになるなんて今回限りの可能性だってある訳だし、私の生き方の真髄は“今が一番”であって、それに従うのなら今すぐ以下略‼︎
「気持ちよかった〜。お待たせ〜」
湯上がりスズ!
効果は抜群。破壊力は絶大。
「あ、ドライヤーの場所言い忘れてたっけ? おいで。やったげる」
「ありがと〜」
スズの髪は艶々で傷みも絡まりもなく、ズバリ美髪って感じ。ツヤツヤのサラサラだった。
スズの髪をほとんど乾かした頃に、スズに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、
「今日はありがとね」
って言ってみた。スズが
「うん」
って言ったのは、多分、聞き間違えじゃない。
「それじゃ、私も行ってくるね。テレビでも見て待ってて。はい、リモコン」
「うん分かった」
テレビはリビングのソファーの正面にあった。とりあえずソファーに座るとテレビはすでに付いていた。流れているのはニュース。モモが見てたのかなぁ? 見てた番組の後番がこれだったのか、ただ付けてただけって感じかな。私も見たいものないしこのままニュースで良いや。なんとなくボーッとして何も考えない。モモといるのも好きだけどこういうのも好きだなぁ。
「上がったよ〜」
早い! って思ったけどボーッとしてた時間が思ったより長かっただけかな?
モモは私の隣に座って、
「さて、これからどうしようか?」
「どうしようね、ってモモのそのパジャマ」
「気付いちゃったね。せっかくだから色違いで合わせてみました。どう?」
「……こういうの初めてで、楽しい」
スズのこの笑顔! 語彙力の無い私にはこう形容するしかない。カワイイ‼︎
それからは楽しくお喋りしたりしてたら時間はすぐなくなってしまった。スズに家事のこと聞かれたけど何かするのかな? 夏休みに家の手伝いとか?
「もうこんな時間。寝ないと」
「スズは早寝だねぇ」
「そうかなぁ?」
「早寝は健康的でいいことだよ。それでね、スズ、一緒に寝よ?」
「え? うん」
「えーっとね。ベット一つしかないんだ」
「そういうことか。気にしなくていいのに。一緒に寝よう」
やっぱりスズは優しいなぁ。スズと仲良くなれた私はとっても幸せ者だ。あまり好きじゃない過去の私よ。そこだけは褒めてやるぞ。感謝してやるぞ。
私の部屋に行き、まず自分が布団に潜り壁際まで行く。私が落ち着いたのを確認してからスズが入ってくる。入りやすいようにめくっておいた掛け布団をスズにかける。こうして熱の籠る狭い場所に二人になると、より一層感じるのは私以外の人の存在。スズの暖かさ。それが私に与えるのは安心感。一人だと広すぎるベットも二人だと少し窮屈で、でもそっちの方が一人の時の何倍も良い。右を下にするようにしてスズの方を体全体で向いてみると、私に合わせるようにしてスズも私の方を向いてくれた。
今私は一つのベットにスズと向かい合うようにして寝ている。これって結構すごい状況なのではないか?
とかいうのが頭をよぎるがそんなものは今はどうでもいい。凄かったのか考えるのは明日でいい。今すべきは、私が今したいのは。
「手、繋いでもいい?」
右手を胸の前に、スズに見えるように出してみる。
「いいよ」
スズが左手を差し出す。私は指を絡めるようにしてスズの手を取る。こうした方がスズの温もりを手のひらで、大きく感じることができる。スズの存在を目を閉じていても感じられるのだ。それは私の安心感を飛躍的に向上させる。
「おやすみ、スズ」
「おやすみ、モモ」
今日は安眠快眠間違いなしだね。
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