第17話 癒し

 家に一人。ベットの上に寝転がって今日のことを思い返す。

 私は悩みが無さそうに見えてるのかぁ。私の目指してる“今が一番楽しい”っていう生き方としては成功なんだけど、心に来るつらいものがあるなぁ。

 でもまぁ、誰かと深く関わって、そこから急に居なくなって。置いていかれた相手にはなんとも思わない人、悲しく思う人、怒る人、他にも色々いたわけで。その原因は全て急に居なくなった私にあって。怒りの矛先が私に向くのも当然。殴られたりしてもそんな事でしか心を落ち着けられない可哀想な人、ぐらいにしか思えない私が全て悪いのか。

 まぁ私は自分の好きに生きてるわけだし他の人が何をしようと文句言う気はないけど、痛いのは勘弁してほしいよね。私そこまで恨み買うようなことしてたかなぁ? まぁ何も無いところから怒りは出てこないし私に原因があるんだろうね。中学のときにすれ違いざまにぶつかって来て謝れって言って来た奴いたなぁ。こっちは悪くないし無視してたら、同学年皆んなに無視されるか、謝ったら? って言われたの。アレはビックリしたなぁ。影響力ありすぎでしょ。その延長で机に落書きとかされたこともあったっけ? 消すのめんどくさかったからそのまま放置してたけど。殴られたことは数知れずってか。


 はぁ。


 大きなため息も出たもんだ。気力を持って気分を上げても精神は誤魔化せないからなぁ。スズに出会ってなかったら私はここに居ないだろうね。精神とか心に限界くるって。


 スズは、私の心を見てくれる。口下手だけど言葉に心がこもってる。スズと一緒に居られることだけが癒しかぁ。スズが私から離れていく時が来たら私は生きていけるのか今から不安だよ。

 ……考え疲れた。寝よ。

 部屋の明かりを消したちょうどその時、私のスマホが着信音を奏でる。

 この曲はスズか。癒されてから寝るかな。

 気分を変えるために立ち上がってから電話をとる。

「もしもし? スズ? どうしたのかな?」

 まず聞こえたのはスズの声ではなく深呼吸だった。

「モモ。今日、昔の人間関係で色々あったって言ってたの、アレ、嘘じゃない、よね?」

 心が凍りつく。

 目から光が無くなる。

 全身から力が抜ける。

 スズの言葉を聞いた私はこの三つの全てに当てはまっていただろう。手から滑り落ちたスマホが足の上に落ちた痛みで気を取り直す。無言から衝撃音。スズはさぞビックリしたことだろう。

「ごめん。スマホ落とした」

「うん。ビックリした」

「それで……なんだっけ?」

「……私はモモのことが一番大事。だからモモに何か辛いことがあったら嫌だし、どうにかしてあげたい。……私には何かする力なんてないんだけど……」

 スズはなんかゴニョゴニョ言ってて上手く聞き取れなかった。ラジオでノイズがかかってる感じ。そのノイズはどこから聞こえてくるんだろう? 正体は一体なんなんだろう? その答えは私が一番分かっていた。


 スズのあったかい言葉を聞いて私が泣いているんだ。

 人の温かい部分に触れたのはいつぶりだろう?

 スズの声がもっと聞きたい。

 スズを呼んでもスズは何も答えてくれない。電話が切れている。


 やだ。

 スズがどこかへ行ってしまうのは嫌だ。ずっと私のそばに居て欲しい。私の手の届かないところに行かないで欲しい。やだ。スズが居なくなるのはやだ。やだやだやだやだ。

 スズにかけ直そうにもスマホを上手く操作できない。

 泣いてるのにいつからか涙が出ていない。出るもの出尽くした感じ。ものすごい脱力感。感情がぐちゃぐちゃになる。

 電話を切ったのはスズの方だ。

 今まで一度だってそんなことなかったのに。

 なんで?

 見限られた?



 もう何もしたくない。

 もう何も考えたくない。

 心に穴が開くとはよく言ったもので、まさにそんな感じ。

 私は抜け殻になってしまった。



 ドアホンの鳴る音がする。誰か来たんだ。

 どうでも良いや。うるさいから電源切っとこう。

 ドアホンに向かって歩く。訪問者の声が聞こえる。

 ……この声は。すぐに誰か分かった。モニターで確認するまでもない。私がこの声を聞き間違えるはずがない。

 玄関まで走って扉を開ける。

 そこに居たのは。


「……スズ」

 急いで来てくれたのだろう。息が上がっていたが私をみると笑ってくれた。

 その笑顔に、優しさに、込み上げてくるものがあった。


 気付けば私はスズに抱きついていた。

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