第14話 嘘
勉強会の休憩時間中、私がスズに妹の様に接してしまって一人であたふたしてたことを除けば、特に問題なく勉強会は順調に進行し、終わりを迎えました。スズの勉強も進んで満足そうだし(すっごく疲れてる様にも見えるけど)、モモの方は結局最後まで勉強はしなかったけど莉子と仲良くなったみたいだし、二人にとって良い休日になったみたいで良かった。もちろん私にとっても良い休日だったと思う。いつもの休日は一人で家にこもって勉強してるだけだし……もしかしていつもと変わらない?
「ユキさん、今日はお休みなのにありがとうございました」
「良いのよ。私も2人と居られて楽しかったわ」
「ユキ先輩。来週も来て良いですよね? ね?」
「モモは莉子と遊びたいだけでしょ? 公園で待ち合わせでもするのね」
「いやいやいや。来週も、スズが勉強しにきても良いですよね? って意味です」
「スズは構わないけど、モモは絶対ついてくるでしょ? そして邪魔しない感じに遊んでると」
「うわー。全部見透かされてるー」
「あ、えっと、じゃあ。来週もお願いします」
お願いする感じで軽く頭を下げながらそれでもこちらの顔色を伺う感じのスズのその仕草は、平たく言うと上目遣いというものになるのであって可愛いって思っちゃったり、しかしながら見てはいけないものを見てしまっているような、そういった感じのものがあって……
「もちろんよ。夏休み前のテストまで残り少なくなってきたし、頑張らないといけないものね」
「へ〜。ねぇスズ、テストまであと何日だっけ?」
「えっと、二週間くらいだったと思うよ?」
「そのあたりね。そろそろ範囲発表があると思うけど……」
「えぇっ〜‼︎」
ユキさんが言い終わる前にモモが大きな声を出すから何事かと思ったけど、テスト前のモモって言ったらいっつもこうだったなぁ。
「テスト受けたくない‼︎ 勉強したくない‼︎ 提出物終わらせるのもめんどくさい〜」
モモ モモ三段活用だね。
「なんとなく分かってたけど……テスト受けないでどうするつもりなの?」
「なんとかなります‼︎」
「えっと、モモは中学のときテスト中ずっと寝てて、でも再テストでは絶対に満点取るから卒業できたんです」
「結局しなきゃいけないのになんで本番でそれをしないのか……」
「再テストになるとスズがマンツーマンで教えてくれて、それが嬉しくて」
「私はモモが卒業できないんじゃないかって必死だったのにモモったらずっと笑ってて……そのなんとかなる精神は本当にすごいと思うよ」
私には出来ないからちょっとタメイキ。
「勉強したくないならなんで高校入ったのよ?」
「スズが居るからに決まってるじゃないですか。スズは中学の時から誰とも話そうとしないし、私と仲良くなってからはずっと私のそばにいるしで……すっごくカワイイ」
「ちょ、ちょっとやめてよ」
「おーごめんごめん。よーしよーし」
そう言いながら私の頭を撫でてくるモモはどことなく私を子供扱いしてる気がするけど、でもちょっと落ち着く感じがあって……
「なんだか悩み事とかなさそうね、モモは」
「いやいや、そんなこと無いですよ。過去の人間関係なんてゴタゴタのトゲだらけ。今出会ってもマズイ人なんて数知れず」
「え? モモ、そうだったの?」
横からスズの優しい声が聞こえてハッとする。しまった。これはスズには隠してることだった。スズにはもっといろんな楽しさを知ってほしい。だから棘なんて必要ないどころかあってはいけないのだ。楽しさを知ることと苦しみを味わうことは同じと言えるかもしれない。だったらスズと私の二人でそれを体験し、私が棘を摘み取り、スズには楽しさだけを感じ取っていて欲しい。だから。
「えっ? いや、嘘だけど」
スズは本当に心配した目で私を見ている。そんなに優しくされちゃったら、嬉しくって……嬉しくなっちゃうじゃないか。
「なんだ嘘なの。本気で心配しちゃったじゃない」
「ごめんなさいユキさん。スズも、ごめんね?」
「え、いや……うん」
「それじゃあスズ、もう暗くなっちゃいそうだし帰ろっか?」
「あ、うん。えと、ありがとうございました」
「うん、それじゃあまた。学校で」
モモの、私の家を去っていく前の言葉に思うところはあるものの、二人は帰って、今日の一大行事は終わった。
「なんだか色々あったせいで疲れたわね」
そんなことを言いつつ背伸びをしていると、
「あれ? モモ帰っちゃった?」
莉子だった。
「モモはあなたより年上なんだからモモさん、でしょ?」
「あー、えっとね。最初はちゃんと敬語とか使ってたんだけどモモが、敬語って敬う言葉って書くでしょ? 私は誰かに敬われる様な人じゃないから敬語なんて使ったらダメ‼︎ って言われて」
ちょっと前までの私なら、ふーんって流してると思うけどそうはいかない。さっきのモモの言葉、嘘に聞こえなかった。ただの勘だけど。私の勘って当たらないのよね〜。
「そんな事があったのね。モモは他になんか言ってなかった?」
「なんかってなんぞ?」
「えっと……モモって自分のこととかあまり話してくれないから、なんかそんな感じのこと」
「ん〜。何も言ってなかったと思うよ」
そりゃそうよね。会ったばかりの子供に何か言うわけないか。
「あ、でも、公園で遊んでるときに休憩って言ってイスに座ってたとき、無言になって悲しそうな顔してた。私が話しかけても上の空って感じだった。ほんのちょっとだけど」
「ふーん」
「せっかく教えてあげたのにそれだけか!」
「それだけよ」
当たらない勘、当たっちゃったかもね。まぁ本人が話そうとしないんだから私がどうこうするものじゃないだろうし。スズならともかく私にはどうしようもない、か。
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