第13話 どっち?

「モモとレイちゃん、すごく仲良くなったみたいでしたね。やっぱり波長が合うんでしょうか?」

 波長?

「莉子も人と仲良くなるのは得意みたいだけど、初日であそこまでとは……凄いわね、モモは」

 そのときユキさんのスマホが鳴りました。

「今の私のスマホ? 通知が来るようなことは滅多にないんだけど……ちょっと失礼」

「あ、いえ」

 なんの通知かと確認してみるとそこには、

 メール From:モモ

 の文字が。

 困惑しながら、メールアプリを立ち上げ本文を確認する。

「これは……」

「どうかしました?」

「あ、いや、なんでもないのよ」

 これは……えっと……つまり……なにこれ?

 モモはスズと一緒にいたい。そこは分かる。今までもずっと一緒に居たみたいだし。

 そして、私とスズを二人っきりにしたくない、った書いてある。まぁ私もあんまり自信なかったし良いんだけど。でもモモが私とスズを二人っきりにしてあげるからちょっとは仲良くなってって言ってくれたのに。やっぱり嫌になった? なんで? 多分、ここに書いてある“私からスズが離れていくのも私の知らないスズが増えるのもイヤです”っていうのが理由なんだと思うけど……スズがモモから離れていくことなんてないだろうし、モモはスズのことを全部って言っていいほど知ってると思うけど。

「あの、やっぱり何かあったんですか?」

「え⁉︎ いや、気にしないで。テストまでの時間は限られてるんだし続きをしましょう」

「あ…………はい」

 それからというもの、ユキさんの教え方はいつも通りわかりやすいものでしたが、私が問題を解いている間、考え事をしているのか、どこか落ち着かない様子でした。

 さっきのメール、やっぱり何かあったのかな?

 もしそうだとしても私が突っ込めるわけもなく、こういうときになんの役にも立たない問題を解くことしかできなくて……こんなときにモモが居てくれたら、モモならいつも通りの押しの強さで全部を解決してくれるんだろうなぁ。

 そんなことを悶々と考えていると、ピロリン、と私のスマホが鳴りました。今は勉強を教えてもらってる途中だし無視しようかなぁと思っていたのですが、ユキさんが、

「確認したほうが良いんじゃない?」

 と言ってくれたので見てみることに。メッセージの相手は……

「モモだ」

 独り言のように自然と口に出た私の言葉を聞いたユキさんが一瞬ビクッと反応したような気がしたけど、一瞬だったし横目で見えただけなので気のせいかも。モモとユキさんは仲良いみたいだし。ええと、内容は……


 スズ〜勉強は進んでるかい? まぁ二人のことだから勉強以外何もしないんだろうけど。休憩も大事だよ? ほら、脳にはブドウ糖が大事っていうじゃない。甘いものでも食べて休憩しないと!

「えっと……モモが勉強もいいけど休憩も大事だって送ってきました」

 ユキさんがちょっとほっとしたような気がしました。そのあとにこう言いました。

「たしかに大事ね。ちょっと休憩しましょうか?」

「はい」

 なんだろう? どことなくユキさんの悩みがなくなったっていうか何かを決心したっていうか、そんな気がしました。

「何か甘いものでも持ってくるわ。少し前にも食べたけどアイスクリームでも良いかしら?」

「あ、はい」

 ユキさんが冷蔵庫にアイスを取りに行ってる間に勉強道具を片付けて机の上を開けておかないと。


 しばらくしてからユキさんがアイスを持ってきました。

「カップのままでごめんなさいね。二種類あったの。どっちがいい?」

 そんな、家にあげてもらってまで勉強教えてもらってるのにアイスまで出してもらって味まで先に選んでいいなんてちょっとは遠慮した方が……あっ! ユキさんが持ってきたアイスは苺味とチョコ味。どっちも私の好きな味⁉︎ どうしよう?

「あ、えっと、じゃあチョコを」

「じゃあ私は苺ね」

 とりあえず一口食べてみる。

 ⁉︎

「おいしい」

「さっきまでずっと頑張ってたから、よっぽど疲れてたのね。苺の方も食べてみる?」

「え? いや、でも、えっと……ユキさんの分が減っちゃいますよ?」

「だったら、ちょっとだけ交換ってことで」

「え? あ、はい」

 私はアイスクリームの誘惑に負けました。

 苺もチョコもどっちもとっても美味しかったです。


 自分から交換を持ちかけておいて今更、冷静になりました。

 今自分の隣にいるのは妹でも、ましてや家族でもなく、後輩だったのだと。

 友達(?)で一口交換とかどうなのかしら? 誰かを家に呼ぶとかどこかに遊びにいくとか経験ないし……妹はよくやってるみたいだけどあれはまた何か違う気がするし……。とにかく、これ大丈夫なやつかしら? スズは……あ、ものすごく幸せそうな顔してる。よっぽど美味しいのね。ってそうじゃなくて!

 そんな感じでわたわたしてるとモモと莉子が帰ってきました。

「たっだいま〜。いや〜、久しぶりに全力で遊んだ遊んだ。さすがの私も疲れちゃったね、暑い暑い。」

 モモにおかえりって言う前にアイスに気付いたようで。

「おー、しっかり休憩してるねぇ。スズ〜一口ちょうだーい」

 有無を言わさずと言った具合に口をスズの方に向ける。スズの方は、えー、って言いながらも一口分掬ってモモの口の中へ。

 二人がやってるなら、まぁ良いか。もし世間一般では変なのだとしてもここではそれは普通ってことで良いんだろう。……良いのよね?

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