第11話 一緒にいられることが、嬉しいな
「じゃあ勉強、始めましょうか。何からやるの?」
「あ、えっと、昨日やった問題集で分からないところがあったんで教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。そのために来たんでしょ?」
「あ、はい。この問題なんですけど……」
「あ、そっか。そこで間違えてたのか」
「そうね。スズはたまに計算ミスがあるけど考え方はしっかりしてるし、この分だと今度のテストはいい結果も望めそうじゃない?」
「それならいいんですけど……」
「なにか不安なことでもあるの?」
「えっと、理系はユキさんに教えてもらって、文系は私一人でやってきたじゃないですか。その、文系の伸びが悪いと言うか……」
「たしかに文系科目は理系科目に比べて暗記が多いような気もするけど、アレにもコツはあるのよ」
「コツ、ですか?」
「そう。勉強のコツ。覚え方もいくつかある中からスズに合ったものを見つければいいわ。例えば……」
そのとき、モモが部屋に入って来ました。
「いやー満足満足。こんなに楽しくお話ししたの久しぶりだわ〜」
「あ、やっと来た」
「莉子、あなた変なこと言ってないでしょうね?」
「そんなことないもん。仲良く楽しくお話ししてただけだもん」
「「ねー」」
モモとレイちゃん二人向き合って両手でタッチ。この時間だけでものすごく仲良くなってる……
「スズの方は勉強進んだ?」
「う〜んまぁまぁ、かな」
「そっかぁ。まぁ進まないよりは良いよね」
「そういうモモは大丈夫なの? 勉強してる様子が全くないけど」
そう聞かれたモモはキッっと顔を決めて。
「ユキ先輩。私はボーダーラインギリギリの低空飛行で良いんですよ。やればできる子ですし」
それを聞いてため息をつくユキさん。
「そうだったわね」
「そうなんです。モモはそっち側の人なんです」
「あ、そうそう。私たちちょっと近くの公園行って遊んでくるから。一時間ぐらいしたら戻って来ますんで。スズ〜しっかり勉強するんだよ〜」
「分かってるよー」
私はモモみたいに覚える気で見たものが一回で覚えられるわけでも、正解に導いてくれる閃きを連発できるわけでもないから勉強しないとね……はぁ、モモが羨ましい……
なんていうかモモは出来ないことはないけどやらないみたいな感じで、やりたい事をやれてるみたいだし失敗しなさそうだし、それでいてこんな私にも優しくしてくれるし。
やっぱりモモは凄くて、そんなモモと一緒にいられることが、嬉しいな。
はぁ。
本当はスズとユキ先輩を二人にはしたくないけど、だからってスズの勉強邪魔するのは違うし。それにここはユキ先輩の家だし。まぁそれは私の言い出したことなんだけど。電話でユキ先輩には二人っきりにしてあげるみたいなこと言っちゃったし。なんでこう、自分の気持ちに素直になれないのかなぁ。私はスズと一緒にいたいだけなのに。こんなことしたらスズが私から離れていっちゃう気がする。そんなのやだ。
「ねー、早く行こー」
「え? あ、うん。行こうか。あ、ちょっと待って、スマホが……」
私はスマホが鳴ったフリをしてポケットからスマホを取り出す。そして、メールを開く。
TO:ユキ先輩
件名:ごめんなさい
本文:昨日、電話でスズと二人っきりの状況を私が作るみたいなことを言いましたがやっぱり無理です。今から公園に行ってる間が限界です。私からスズが離れていくのも私の知らないスズが増えるのもイヤです。耐えられません。
送信っと。
「じゃっ行こっか!」
私は笑顔を忘れないように、スズに悟られないように、今までの私を続けていく。
今を変えたくない。変えたくないから。
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