第3話 え?
「スズ、今日はなんの教科やるの?」
モモは私の右隣の席に座りました。菅原さんは私の正面に座っています。
「ええと、せっかく教えてもらえるんだから化学、物理、数学あたり、かな?」
「あれっ? スズってどちらかというと理数系得意なんじゃなかったっけ? どちらかというと」
「うん。でも、ある程度暗記の地理とか歴史とかよりいいかと思ったんだけど……どうでしょう?」
私はどうも自分の意見に自信を持てなくて……モモの言う通りにした方がうまくいったことだって何度もあるし。だからこのときも最終決定を菅原さんに委ねてしまったのだと思います。
「何だっていいわ。暗記科目なら暗記の仕方を教えることもできるし。そんなことより時間が惜しいとは思わない?」
一蹴されました。
今回は数学の応用問題の解き方について教えてもらうことにしました。
菅原さんは教え方も上手で、解けなかった問題も解けるようになりました‼︎ しかも類似問題を手助けなしで2〜3問解くという念入りな授業でした。授業でした……
「ちょっと疲れたので気晴らしに飲み物買ってきます。二人の分も買ってきましょうか?」
「じゃあ、あっまいやつお願い‼︎」
「コーヒーのブラックをお願い。お金は後で払うから」
「分かりました。モモは甘いので、菅原さんはブラックコーヒーですね」
「何で私のことはさん付けなのかしら?」
スズがいない時にそういった先輩の言葉は独り言のようでも、話を振られたようでもあった。この状況、応えないわけにはいかないんだろうなぁ……
「ん〜。“先輩”っていうのは自分とのつながりを現してる言葉じゃないですか。たぶんスズのことだから、自分とは比べ物にもならないような菅原先輩のことを“先輩”って呼ぶのは抵抗があるんじゃないでしょうか? まぁ、ただ単に“先輩”って言葉が苦手なだけっていうのもあると思いますが……」
「えっと、貴方たちは仲良いのね」
そりゃぁもう、あったりまえですよ。
「幼馴染ってほどじゃないですけど割と一緒にいる時間長かったですからね。その分びっくりしたんですよ? 友達もろくに作らなかった引っ込み思案のスズが昼休みに初めて会った先輩に勉強教えてもらうって言ったんですもん。心配してたけど、先輩なら大丈夫そうですね」
まぁ不安要素はあるけど。
「その顔、本当に心配ないって思ってる? とはいえ、私もそんなに人付き合い得意じゃないからなんともね。中庭でうなだれてる子がいたから声かけたら、勉強で悩んでるって言うから力になれるかもって思っただけよ」
どことなくふわっとしてる気がするなぁ。
「ってスズ勉強で悩んでたの? 私よりずいぶん高いのに」
「え、ええ。そうみたいよ」
友山さんが真ん中あたりでこの子はそれより随分下……この子に勉強教えた方がいいんじゃないかしら。
「貴方、赤点大丈夫なの?」
「モモって呼んでくださいってば‼︎ まぁ、私は暗記だけは得意ですからそういうのと基本問題くらいは解けるんですよ。おかげで赤点とったことは一度もありません!」
そんなこと言いながらピースサイン作られても……点数が低いことに変わりはないわけだし、どう反応すれば?
「そ、そんなことよりも私、友山さんにまだあまり信用してもらえてないのかしら」
このときの先輩は本当に寂しそうで、しゅんっていう擬音が合いそうな、ピシッとした氷感はなく、勉強ならなんでもできるハイスペックガールでもなく、その辺にいる一般少女って感じだった。といってもそもそもこの先輩は最初から一般少女なのだが。
「そういう表情を見せてあげないから……じゃなかった。さっき勉強教えてたとき見てましたが、お互いに“友山さん”と“菅原さん”じゃないですか。固すぎますよ?」
見てるってそういうことだったのね。
「いや、でもそれ以外になにが?」
「たしかに、スズは私みたいにできないからなぁ。じゃあ、ここは私が助言してあげますか」
「ただいま〜。遅くなってすいません。菅原さんには……こっちですね。ブラックコーヒー。モモは……今日はこれかな?」
「おっ! リンゴジュース! 分かってるね。スズは何にしたの?」
「私はカフェオレ。普通に甘いやつ」
「ん〜普通にかぁ。一口ちょうだい?」
「えぇ〜? リンゴジュースのあいだにカフェオレって絶対合わないよ?」
そんなやりとりの中、私は何か言いたそうにしている菅原さんを発見しました。
「あの、えっと、ありがとね。スズっ」
え?
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