第9ー16話 宰相と日本神族

三貴子と呼ばれるアマテラス、スサノオ、ツクヨミの出現は天上界とオリュンポスを戦慄させた。



突然の出現に困惑する世界の中で躍動する日本神族達は白陸軍救出のために前線へ散っていった。



そしてオリュンポス12神と対峙する宰相達の元へ現れた。



レミテリシアとアニャが布陣する右翼戦線では本陣にオリュンポス12神のデメテルが潜入していた事で大混乱となっていた。



アニャの幼少期からの親友であったハミルが殺害された事から始まったデメテルの攻撃で本陣を守っていたベリー騎士団と正覇隊にも多数の戦死者が出ていた。





「いつの間に潜伏していたんだ!!」

「ハミルー!!!!!! わらわを・・・置いていかないでくれ・・・」





ハミルの戦死を受け入れられないアニャはその場に崩れ落ちていた。



風の様な早さで動いては一瞬で目の前に現れるデメテルにさすがのレミテリシアも間一髪で防ぐ事が限界だった。



右翼軍と戦闘を繰り広げるオリュンポス軍も次第に迫ってきていた。



本陣から命令が出ない右翼軍は反撃も行えずに徐々に数を減らされていた。





「このままではマズい・・・せめてウィルでもいれば・・・」





圧倒的に不利な状態であった右翼軍本陣でも異変は起きた。



暴れまわるデメテルが突如として体を痺れさせてその場に倒れ込んだ。



すると右翼軍が布陣する地面が激しく揺れ始めた。




「じ、地震かあ!?」




驚くレミテリシアが遠くを見ていると右翼軍の中を平然と歩いてくる男の姿があった。



明らかに白陸軍ではない。



警戒するレミテリシアだったが激しく揺れる大地に立っている事すら困難だった。



男は白い鎧に身をまとっている。



そして刀をデメテルに向けていた。





「助太刀させてもらうぞ人間。」

「だ、誰なんだ!?」

「敵ではない。 それだけ理解すればよろしかろう。」





フラフラと立ち上がるデメテルは男の顔を見て驚愕した。



男は口角を上げると刀を地面に突き刺した。



すると物凄い地響きと共にデメテルが着ていた薄手の鎧が一瞬にして砕けた。





「き、貴様は・・・ミカヅチか・・・」

「左様。 久しいな。」

「何故だ・・・」

「そなたらは我らの記憶が消えぬのだな。」





刀をデメテルへ向けると雷が飛び出した。



地面に突き刺せば地震が起きて周囲は激しく揺れる。



それでもミカヅチは涼しい顔をしていた。





「そなたらが我ら日本神族を忘れられないのは強すぎた我らを恐れていたからであろう。」

「こ、ここは一度戻って天王に・・・」

「無駄であろう。 御大将が今頃向かっているのだ。 ここが死地と心得よ。」





デメテルは自身の第八感である「地面を高速で動く能力」を発動したがその地面の全てがミカヅチによって激しく揺らされている。



いくら逃げようと動いても無駄だった。



デメテルは諦めたのかミカヅチへ向かって高速で移動した。



そして喉元まで近づくと短剣を突き刺そうと飛びかかった。





「天地満雷(てんちまんらい)」





デメテルの動きについてきているかの様に体をすっとかわすと刀を首元から振り下ろした。



雷鳴の様に爆音が響き渡り攻撃を受けたデメテルの体からは全身の骨が砕ける様な鈍い音が響いた。



僅か一刀でその場に倒れ込んだデメテルは既に戦闘不能といった所だった。





「人間。 そなたが討ち取れ。」

「な、なんだって!?」

「いいから。」





レミテリシアは驚愕のあまり動けずにいた。



雷と地震の2つの力を操るこのミカヅチという男は一体何者なのか。



鞘に刀を戻してレミテリシアがとどめを刺すのを見ているとアニャが歩いてきて剣を頭に突き刺した。





「敵討ちなんかじゃない・・・ハミルも部下も戦いで死んだのだ・・・早く戦いを終わらせねば多くの犠牲が出てしまう・・・わらわはもう躊躇などしない・・・」





ミカヅチは静かにうなずくと王都を目指して歩いていった。



彼は日本神族の中でも最強に近い男だ。
















時を同じくしてナイツは火の神ヘパイストスと戦っていた。



携行していた水筒は使い果たし、攻撃を無力化されている。



やがて弾薬も使い果たし始めた。




「ボス!! もう弾薬がねえよ!!」

「迫撃砲!!」

「ラジャー!!」





エヴァとナイツは迫撃砲や手榴弾で時間を稼いでいた。



最初に殴り飛ばしたユーリもさすがに離れて戦っていた。



炎が消える事のないヘパイストスに成すすべのないナイツは徐々に後退していた。



そんな時。



ここにも日本神族が助太刀に現れた。



エヴァとナイツの背後から突如巨大な岩が飛んできた。



慌てて地面に伏せたナイツは仰天していた。





「わ、ワッツ!?」

「助太刀するぞ人間!!」





エヴァが青くて綺麗な目を見開いてみている先には豪傑という言葉がよく似合う体格の良い男が拳を地面につけて片膝でこちらを見ていた。



そして立ち上がり、再度拳を地面に叩きつけると岩が地表から浮き出てヘパイストスに向かって飛んでいった。



岩の下敷きになっているが、やがて炎が岩を溶かして立ち上がった。





「誰!?」

「ミナカタと申す。 敵ではない故、安心なされ。」

「ミナカタさん!? あ、そ、そうですか・・・ミナカタさんね・・・」





名字を言われたと思ったエヴァは困惑しながらうなずいていた。



何者なのかと尋ねたつもりだったが名字を言われたと思って困惑していた。



だがこのミナカタは立派な日本神族だ。



ミカヅチと双璧をなす豪傑だ。



ミナカタが地面を叩けば大岩も簡単に吹き飛んだ。



ナイツの一斉射撃とミナカタの岩でヘパイストスの動きは鈍っていたがやはり致命傷とはいかなかった。



この状況においても負傷者の1人として出ていないナイツはさすがだったが、時間の問題だ。






「炎上勝法(えんじょうしょうほう)」





ヘパイストスは体から炎を無数に弾き飛ばし始めた。



被弾したナイツのアーマーは溶けている。



するとミナカタは大岩をナイツの前に落として遮蔽物を作った。





「て、テンキュー!!」

「わけのわからん言葉を使う人間だ。 炎を受ければそなたら人間では耐えられない。 岩に隠れろ!!」





ミナカタが地面を叩くと巨大な岩が出てきてなんとそれを片手で持ち上げると大きく振りかぶっていた。



大きく息を吸い込むと爆音とも言える咆哮を上げている。



その光景にナイツは絶句していた。





「岩破乱渡(がんばらんと)!!」




巨大な岩を放り投げてヘパイストスにぶつけると燃えたまま、吹き飛んでいった。



「どうだ!!」と咆哮を上げるミナカタに拍手喝采のナイツ。



エヴァが「ネーミング最高かよ!!」と高笑いをしているとミナカタが歩いてきて共に高笑いをしていた。




「いやあミナカタさん脳筋で最高ですね!!」

「相変わらずそなたの言葉は難しいのお。 何よりヘパイストスのやつを吹き飛ばせて何よりだな!!」

「でも死んではないはず・・・」





エヴァの言葉は正しかった。



遠くで岩が燃えている。



巨大な岩の上に立つ燃える人影が陽炎に揺られて不気味に凝視している。






「炎上勝法!!」





すると炎が雨の様に降り注いだ。



「ヤバいだろ!!」とエヴァが叫ぶとナイツも慌て始めた。



ミナカタは大岩を地面から担ぎ上げるとナイツを自身の下に集めた。



巨大な岩の傘がナイツを守っているが、ヘパイストスの炎上勝法は軌道を変えてミナカタの体を撃ち抜いた。



ナイツが体に残り少ない水をかけて鎮火しているが長くはもたない。





「どうする!?」

「これはマジでヤバい!!」





絶対絶命。



そんな言葉が今のエヴァ達には良く合う状況だ。



炎の雨が降り注ぎ必死に守るミナカタの体にも炎が突き刺さっている。



このままでは強力な日本神族であってもあるいは。



しかしその時だった。





「水華絢爛(すいかけんらん)」





絶体絶命であるそんな時だった。



どこからともなく聞こえた声は実に美しい男性の声だった。



水の様に透き通る声に驚いたナイツが岩陰から空を見るとそこには白い体の周りを水色の煙が包み込んでいる巨大な龍が飛んでいた。



やがて地上に降り立つと人間の様な見た目に変わった。





「ミナカタ。 僕も助太刀する。」

「九龍か!!」

「敵が炎なら僕の独壇場さ。」

「ガハハハッ!! 違いないな!! 感謝するぞ九龍よ!!」





白い肌に青色の髪の毛をなびかせている。



瞳は彼が人間ではなく龍だという事を証明する様な独特な瞳をしている。



九龍が手を広げると手のひらから水が湧き出ていた。





「水華絢爛!!」




そして手のひらをヘパイストスに向かって振り抜くと、まるで貯水タンクでも爆発したかの様な大量の水が流れ出た。



絶句するエヴァを見ると九龍は「さあ!」ととどめを刺せと合図している。



我に返ったかの様にエヴァはその場に伏せるとライフルの照準をヘパイストスの頭部に定めていた。



そして放たれた銃弾はヘパイストスの頭部に命中すると倒れ込んで動かなくなった。





「素晴らしい攻撃だったよ人間。」

「ま、マジか・・・ドラゴン・・・」

「どら? あ、ああ確かそんな呼ばれ方もするんだったね。 僕は龍族だよ。」





すると高笑いするミナカタが「世界でたった1柱の龍族だものな!!」と九龍の背中をボンボンと叩いていた。



照れ笑いをする九龍は姿を美しい龍に変えると空へ飛び立っていった。



目指す先は王都だ。



エヴァとミナカタも王都を目指した。



















白陸海軍港で戦闘を行うポセイドンは日本神族の海神ワタツミと対峙していた。



異次元の海の戦いに何もできない琴と尚香は部下達を避難させていた。



だがただ逃げるわけではなかった。



陸戦隊に武装させて王都進撃の準備を始めていた。





「海王水流(かいおうすいりゅう)!!」

「海神撃(かいしんげき)!!」





激しくぶつかり合う海水は軍港を水没させる勢いだった。



海神の戦いに決着はつかず、互いに神通力を消耗していった。



しかしそんな時だった。




「兄者!!」

「ゼウスか!!」

「何故か連中が戻ってきた!!」

「我の前にもワタツミがいるぞ・・・」

「一度合流しよう!!」




第六感で話すポセイドンとゼウスは互いに合流する事を決めると、ワタツミとの戦いを中断して姿を海水に変えると姿を消していた。



ワタツミは直ぐに追いかけた。



水没しかける軍港の修復を急ぐ尚香の海兵と王都を目指す琴の陸戦隊は互いに別れるとそれぞれの仕事を懸命に行った。





「ほな行ってくるわ。」

「気をつけてね・・・ロキータの事も見ておいてね。」

「虎白おるから大丈夫なんちゃう?」

「ゼウスと戦っているんでしょ・・・」





心配そうにロキータの事を考える尚香の表情は暗かった。



まさか本当に天王に反旗を翻すとは。



尚香は驚きながらも軍港の修復を急いだ。



琴は装備をつけ直すと背中に刀を背負って部下達と共に進撃を始めた。



すると上空を鵜乱と鳥人部隊が飛んでいた。





「おーい鵜乱ー!!」

「援護できずに申し訳ありませんわ・・・」

「ええよー。 何しとったん!?」

「それが・・・」




鵜乱は深刻な表情で話を始めた。



それは地上戦でとんでもない大事件が起きるよりも前の事だった。



冥府軍の襲来と共に空中戦が始まった。



宰相春花と空軍が最初に冥府軍と戦闘を開始したが、あれ以来春花と空軍の動向がわからなくなっていた。



鵜乱は春花の捜索を部下と共に行っていた。





「双方の空軍では急遽、天冥同盟が成立した事を知らず戦闘が続いていたんですわ・・・」

「ああ、そうかあ・・・うちもや。 サラは何しとったんよなあ・・・」




情報将校であるサラからの連絡が白陸軍には行き届いていなかった。



だがそれも仕方なかった。



帝都では魔族と冥府軍との戦闘でサラと僅かな防衛隊は宮衛党共に戦っていた。



冥府軍をある程度撃退すると白陸軍の新兵が突如反乱を起こしていた。



現在もサラと宮衛党は戦闘している。



連絡のつかなくなった春花の事が心配な鵜乱は上空を探していた。





「サラも大変やったんか・・・」

「そこで琴に頼みがあるんですわ。」

「言いたい事はわかっとるで。」





琴は可愛らしい笑顔を見せると下を向いて心配そうにしている鵜乱を見ていた。



「気にせんでええよ」と鵜乱の背中をポンポンと叩くと海軍陸戦隊の進行方向を変えた。



鵜乱は飛び立つと「ありがとう」と一礼して春花の捜索を続けた。





「琴様!?」

「予定変更やわ。」

「え!?」

「王都に行って虎白の援護せなあかんけどな・・・その前に帝都に行って宮衛党とサラ達の救出せな!!」





琴は部下を引き連れて帝都の解放へ向かった。



























壮絶な空戦で大混乱となった白陸空軍は撃墜多数で冥府軍を退けたが、既に満身創痍で天上界の海へと墜落しそうだった。



宰相春花はコックピットに穴が空き、被弾までしていた。



部下の戦闘機も撃墜され今にも墜落しそうだった。





「リーダー大丈夫ですか?」

「お、おおうう・・・」

「ソレンセン将軍このままでは・・・」

「わ、わかってるって・・・」





雲の上をフラフラと飛ぶ空軍は既に限界を迎えていた。



そこに一度退避していた冥府空軍が戻ってきた。



既に戦う力は残っていなかった。



だがそんな時だった。



雲の上をまるでベンチに座るかの様に腰掛ける男が見えた。



朦朧としている意識で幻覚が見えたのかと思ったパイロット達は誰も男の存在を口にしなかった。



すると男は空中を自在に飛んで春花の隣を飛んでいた。



そしてじっと見つめていた。





「おおーあたち男の人見えう・・・」

「お、俺もですリーダー・・・」

「おい君達。 君は鞍馬の味方かい?」





空を飛ぶ男はそう問いかけると春花がうなずいた。



すると男は空中で静止した。



そして片手をすっと動かすと、突如として春花達の機体は向きを変えて空軍基地の方向へと飛び始めた。





「承ったぞ。 神風を吹かせてみせよう。 風守大成(かざもりたいせい)」





男は手を大きく横に振り抜くと迫る冥府空軍は一斉に制御を失い墜落を始めた。



何食わぬ顔をして春花達を追いかけると隣に来てコックピットを覗き込んでいた。



「この鉄の動力を切れ」と訴えかけると春花は朦朧としたまま、エンジンを切った。



周囲のパイロットも同じ様に。



既にエンジンを切ることも仕方なかった。



春花達はもう燃料がなかったのだ。



後はただ落ちていくだけだった。




「いいだろう。 君達を逃がそう。 安全な場所へ。」




空中で舞う男は両手を広げて地上へゆっくりと落ちていった。



春花を見ていると遠くから鵜乱が飛んできた。



男は警戒して風を強めて鵜乱から逃げている。



「敵ではありませんわ!!」と叫ぶ声を聞くと鵜乱に追い風を吹かせて近づけた。





「驚きましたわ・・・私は白陸軍の宰相で鵜乱と申しますわ。 虎白の側室ですの。」

「虎白の!? そうか側室をもったか。 てっきり恋華だけかとな。」

「お名前を伺っても?」

「シナツヒコと申す。 風の神であり、日ノ本の守り神だ。」




鵜乱は安心した表情で微笑むと地上に降り立った戦闘機に駆け寄った。



コックピットは中からしか開けられないが既に春華は意識を失っている。



殴っても壊れないコックピットに困っているとシナツヒコが近づいてきた。





「これを開ければよいか?」

「え、ええ・・・」

「風守大成・・・」





するとコックピットを固定している部分から強風が吹き荒れて外れていく。



同時に全ての戦闘機で同じ事が起きていた。



やがてコックピットが開くとパイロット達は自分で降りてくる者やその場で意識を失う者達が出始めた。



鵜乱は直ぐに部下に命じてシーナがいる帝都の病院へ運ばせた。



春花を抱きかかえるとシナツヒコに一礼した。





「助かると良いな。」

「本当にありがとうございました・・・」





そう言うと急いで飛び立っていった。



飛び立つ鵜乱を見つめているシナツヒコは優しく微笑んでいた。



そして皆が必死に目指している王都の方角を見ると空中に浮き上がった。





「感謝するのは我らの方だ。 よく今日まで耐えてくれた。 後は任せるのだ。 生命達よ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る