第9ー15話 日本神族の援軍

雷電に手を振り、ウィルシュタインの目の前に立って得意げな表情をしてアレスを見ている男の名はスサノオ。



確かにその名を雷電は口にした。



スカーレットの体に入っているベルカも魔呂も驚いている。



立派な髭を触りながらスサノオは名刀である草薙の剣をアレスへと構えた。





「面倒な事を話すのは性に合わん。」

「そ、そんなはずはない・・・何故貴様がここに・・・」





アレスは目の前に立つスサノオが本物だとは受け入れられなかった。



しかし放たれる異常なまでの気配に認めるほかなかった。



スサノオは巨体をゆっくりと前に進めるとアレスに向かっていった。



ウィルシュタインは直ぐにスサノオの隣に立つとブレードを回転させて共に進んだ。





「おい犬。」

「誰か知らないが助かった。」

「この戦いを終わらせるぞ。」

「ああ!!」






ブレードを回転させながら宙に舞うと一気に距離を縮めて斬り込んだ。



今日までにウィルシュタインの素早い攻撃を防げた者なんていなかった。



だがアレスはいとも簡単に防ぐと盾でウィルシュタインを地面に叩きつけた。



「ぐはっ」と苦しそうに倒れるとスサノオは口角を上げていた。



「悪くないぞ」とウィルシュタインを見て満足げだった。



草薙の剣を高く突き上げると爆音とも言える咆哮を上げてアレスへ斬り込んだ。





「救神日ノ本(きゅうしんひのもと)!!!!」





スサノオが振り抜いた一刀はアレスの盾を粉々に破壊した。



驚きを隠せないアレスは硬直して立ち尽くしていた。



すかさず二刀目を繰り出そうと一歩踏み込んで草薙の剣を下から上へと振り上げようとした時だった。





「粉砕戦神!!!!」





アレスの渾身の奥義を叩き込んだが次の瞬間には全員が驚愕した。



スサノオはアレスの剣を素手で受け止めていた。



手からは僅かに白い血が流れているだけだった。



「痒いぞ小僧が」と得意げに笑っていた。




「貴様らが行った所業は全ての神族を怒らせた。 往生なり。 救神日ノ本!!」





次の一刀をアレスは剣で防ごうとしたが草薙の剣はアレスの剣ごと粉砕して真っ二つに斬り捨てた。



スサノオの表情は変わる事もなく得意げなままだった。



終始自信に満ち溢れていた。



脳神経を破壊しないかぎり死ぬ事のない神族であるアレスはまだ生きていた。



すると「おい犬」とウィルシュタインを呼んだ。






「そなたがやれ。」

「ウィルシュタイン。 お見知り置きを。」





そしてブレードを頭に突き刺すとアレスは動かなくなった。



スサノオは満足げに高笑いをしてその場を後にした。



向かう先は王都だった。



ウィルシュタインは大きな後ろ姿を見届けると魔呂やスカーレットに「前線に戻ろう」と3人は各軍へと別れていった。





















劣勢の中央軍にも転機が訪れようとしていた。



竹子と甲斐が前線を立て直すと戦況は互角になりかけていたが、白陸兵とオリュンポス兵との戦闘能力の差は簡単には縮まらなかった。



そして神話アテナを食い止めるために私兵が刺し違える様に挑んでは戦場に散っていった。





「ただでは死なぬ!!」

「チェストー!!!!」





勝てないとわかっているはずなのに私兵の誰一人として逃げ出す者はいなかった。



遂には甲斐の進覇隊の副官や美楽隊の副官まで討ち死にしていく。



竹子の白神隊の副官ルーナは虎白に「第六感の申し子」とまで言われた傑物だった。



彼女は既に10太刀以上も斬り込んではアテナの反撃を防いでいた。



だがこのアテナという神話の強さは戦闘能力ではなかった。




「第1伏兵隊!!」





アテナが大きな声を響かせると甲斐が騎馬突撃する戦線の横から茂みに隠れていたオリュンポス兵が出てくると側面攻撃を始めた。



1万を超える私兵がアテナに殺到しているにも関わらず全軍の指揮を完璧に執れていた。



甲斐の進撃が止まるとアテナは無言のまま、私兵を倒していた。



またしても戦況は徐々に白陸軍劣勢に傾き始めた時だった。



中間地点の空は一気に暗くなり月が登った。





「あれは満月?」





アテナは空を見上げると不思議そうに首を傾げていた。



中間地点とは実に不思議な場所だった。



太陽も月も不可思議なまでに早い動きをする。



オリュンポスの神にアルテミスという女神がいるが彼女は狩りを司る神でもあり、月の神でもあった。



この世界において月が夜空に出る時は必ず三日月だった。



アルテミスは三日月の神だ。



しかし見上げる夜空には満月が出ていた。



アテナは驚きを隠せなかった。





「そんな・・・」




次の瞬間にはアテナの視界が遮断された。



一体何が起きているのかわからずに混乱していた。



すると耳元で「終わりだ・・・」と囁かれた。




「ま、まさかツクヨミ!?」

「もう観念しなさい・・・」





私兵がアテナを囲んでいた。



1万を超える兵士達がアテナを見ていたが。



ツクヨミが現れた瞬間を誰も見ていなかった。



最初からそこにいたかの様に視界を失ったアテナの後ろで不気味に立っている。



女性の様な顔立ちに青白い肌。



何かをぶつぶつと話しているがアテナにしか聞こえていない様だ。





「何も見えない!!」

「戦略を司るならわかるはずだ・・・」

「こ、降伏・・・」




月の神ツクヨミの驚異的な能力は「感覚を操る能力」だった。



五感は言うまでもなく第六感から第八感まで自在に操る事ができた。



アテナは聴覚以外の全ての五感を塞がれて第六感までも塞がれた。



混乱するアテナは「降伏」という言葉を口にした。





「さすがだ・・・ 戦略的に勝ち目を感じなければ無駄な戦闘をしないのだな・・・」

「わ、私の戦力は?」

「今度はそなたらが守り手になればよかろうな・・・」





4人の宰相を食い止め白陸軍数千人を葬り、圧巻の挟撃と伏兵戦術を武器にたったの1軍団で圧倒した神話アテナ。



ツクヨミ出現から3分後。



アテナ完全降伏。



その背景にはツクヨミの異次元の能力もあったが、前線では白陸兵達が目を疑っていた。



彼らと対峙するオリュンポス軍の背後から迫る大軍勢の姿があった。



高々と上がる旗には「高天原」と書かれていた。



袴を着た兵士達が迫ってきていた。



戦略の神アテナは耳元で援軍出現の話を囁かれてその事実を確認する一瞬だけ、第六感を解除された。



絶望したアテナは勝ち目が完全になくなったと悟ると速やかに降伏した。



状況が一気に好転した事に驚きが隠せない竹子は私兵達が奮戦していた場所へ走ってくるとその場に倒れる多くの私兵の亡骸を見ていた。



崩れ落ちる様に座り込むと両手を合わせて目をつぶっていた。



するとツクヨミが竹子の隣へ立つとじっと見ていた。





「どうもありがとうございます。」

「巻き込んでしまった様だ・・・大陸大戦に・・・これは人間を守るための神々の戦いだというのに・・・」




竹子は不思議そうに目を見開くとツクヨミは既にその場にいなかった。



白陸軍は降伏したオリュンポス兵を捕らえた。



高天原軍は一斉に方向を変えると王都へ向かって進んだ。






















王都で天王ゼウスと戦う虎白と染夜風。



姿を消したゼウスを血眼で探している。



周囲では白王隊がオリュンポス軍を粉砕しているという状況だ。



天上界という聖なる地で起きる大戦争。



虎白は一度瓦礫に腰掛けると染夜風と共に水を飲んでいた。



するとそこへ莉久と雷電が現れた。




「お待たせ致しました。」

「アレスはどうした?」

「スサノオ様とウィルの手によって。」

「そうか。」





アレス討ち死にとアテナ降伏の一報はまたたく間に天上界の全域に伝えられた。



同時に高天原軍の出現という大混乱も巻き起こっていた。



それだけではない。



虎白の私兵である白王隊の規模が増え続けていた。



5万3000の白王隊が気がつけば10万を超える勢いだった。



「鞍馬虎白の白王隊出現」という連絡が不思議な事に天上界の全域で確認されていた。




虎白は王都の瓦礫に座っているがそこら中で「鞍馬出現」と騒がれてオリュンポス軍は大混乱となっていた。





「兄貴達だな。」

「ええ。」





虎白には8柱もの兄がいる。



そして安良木皇国の皇帝を務めるのは鞍馬家の当主である長男の鞍馬天白だ。



天上界中で確認されている「鞍馬出現」の一報は誤りではなかった。



虎白ではないが。



混乱する天上界を鼻で笑う虎白の目の前に現れた男。





「長らくお前にだけ苦労をかけていたな・・・」

「天の兄貴・・・」




虎白は立ち上がると天白に向かって飛びついた。



そして思いっきり抱き合った。



互いに消されていた記憶が蘇った兄弟は瓦礫に座ると話し合った。



周囲には皇国第九軍と近衛第一軍が整列していた。




「全ては100万年前の大陸大戦に逆上るな・・・」

「互いにこの地球を統治していたがゼウスめとルシファーが争った事で始まった。」





これは全ての神族が戦いに参加した「大陸大戦」と呼ばれるこの地球の起源とも言える戦いだった。



かつて神々がこの地に降りて戦っていた。



ゼウスとルシファーによって引き起こされたこの戦いで虎白達の皇国軍も高天原軍も戦闘に駆り出された。



熾烈を極めたこの大戦争では多くの神族が命を落とした。



だが、やがて戦況はルシファーの味方についた虎白達の活躍によって終結の兆しが見えた。



オリュンポスを追い詰めたその時だった。



一部の神族の裏切りとゼウスの驚異の第九感の発現で全ては引っ繰り返り、記憶が消えた神族は無条件でゼウスに従った。





「だから俺らが到達点の守り手に送られたのも厄介払いだったな。」

「左様。 して誰よりも活躍したお前を人間の体に封じ込めた。」

「だが俺は記憶を操られて人間になる事を自分から望んだ事にされていた・・・」





そんな惨劇が今から100万年も前に起きていた。



だが虎白は記憶のないまま、さらなる惨劇を経験していた。



かつてルシファーと虎白は大の親友だった。



ミカエル兵団の大天使を務めていたルシファーとは頻繁に会っていた。



まだ知恵という概念すら持っていない人間に何を与えていくのか議論する事も多かった。



そんなある日の事だ。



ゼウスは人間を妻にしようと動き出した。



ルシファーはこの行為を止めるために動くと雷で攻撃をされた事が大陸大戦へと発展した。



結果は大敗。



記憶のなくなった虎白はルシファーとの思い出も消えていた。



新しく書き換えられた記憶は「天王と兵団に反旗を翻した反逆者」だった。



ミカエルも動揺に部下であり、友であるルシファーを敵と判断した。



しかしルシファーだけは真実を覚えていた。



彼の第八感は「記憶を守る能力」だった。



ゼウスの能力から逃れた彼はたった1柱で真実を訴え続けていた。



だが、誰にも認められずに冥府へと堕とされた。



抑えきれない怒りから第九感が発動して「別の人格を創る能力」でサタンとなった彼は人間を守りたい気持ちから一変して人間に怒りなどの感情を与えた。




「とんでもねえ事を俺はしちまった・・・」

「その後だったな。 お前が人間の友を作り始めたのは。」

「ああ。 龍白の兄貴や利白の兄貴から嬴政や義経を紹介してもらった。」





虎白は嬴政達と旅をしては冥府との戦闘に参加していた。



だがこの冥府もハデスとルシファーの「真実の戦い」だった。



ハデスは大陸大戦勃発時に終始、虎白側に協力的だった。



その事で冥府へ追いやられ冥王となった。



そしてテッド戦役を繰り広げたハデスとルシファーは奇しくもそこで虎白と再会するが既に両者には友情なんてなかった。



虎白はテッド戦役で友人の大半を失った事で傷心していた所を下界へと堕とされた。






「100万年もの間ずっとゼウスの部下だったのにテッド戦役の後に下界に行かされた理由も思い出した。」

「大陸大戦時にお前が100万年かかってもゼウスを殺すと言ったからだ。」

「ああ・・・そして今が大陸大戦から100万年・・・まさか人間にされた俺が戻ってくるとは思わなかっただろうな。」






人間となり24年の人生で経験した悲劇は宿主である「祐輝」の生きる気力を削いでいった。



それはつまり肉体を滅ぼしたいという事だ。



中で眠る虎白は祐輝が「死にたい」と願えば願うほどに覚醒していった。



やがて目を覚ました虎白は竹子と共に祐輝を説得して意識を入れ替えた。



そして霊界での戦闘を経験した事で「虎白復活」をゼウスに気づかれてしまった。



危険な虎白を近くで監視するために天上界へ再び連れてきたが、ここでゼウスに誤算が生じた。



それは人間の感情を虎白が持っていた事だった。



神族がオリュンポス神族とミカエル兵団しか存在していなかった天上界で虎白が再び力をつけるとは思っていなかったが、竹子など人間を信じる事で強国白陸を作り上げた。



さらなる誤算は側近である莉久が天上界に紛れていた事もあった。



人間に見た目を変えたまま、虎白を探していた。



やがて虎白と莉久と白陸の存在をメテオ海戦、アーム戦役で戦死して到達点へ行き、兄の天白に話した事で追加の白王隊が派遣された。




天白はゼウスへの復讐ではなく、勝手に天上界へ向かった虎白が人間に負けた事が許せなかったからだ。



だが結果として白陸が今日まで強国として君臨できる手助けになったのだ。






「全て繋がったな・・・」

「虎白よ。」

「ああ。 終わらせよう大陸大戦を・・・」





天白と虎白は再びゼウスを探し始めた。



だがその時だった。



虎白の体が感電して倒れ込んだ。



雲から一気に落ちてきたゼウスは虎白に雷を当てると天白を見て直ぐに逃げた。



逃げたかと思えば再び雷となって倒れる虎白に向かっていった。





「神雷崩壊(しんらいほうかい)!!!!」





奥義で虎白を殺そうとした時だった。



天白が虎白の前に立つと動きを止めた。



そして建物の上に立つとじっと天白を見ていた。





「止めておけ。」

「ぐっ・・・て、天白め・・・」





天白は腰に差す2本の刀を抜くとゼウスに刃先を向けた。



「100万年前の事を覚えているのだろう?」と口角を上げるとゼウスはまるで怯えているかの様に体を雷に変えていた。



腰を据えた天白はすっと宙に舞うと体を回転させてゼウスへと向かっていった。





「満天亜狩(まんてんあがり)!!」





回転する天白の攻撃を雷の盾で防ごうとしていた。



「我とて強くなっているぞ!!」と絶叫するゼウスは天白の攻撃を待っていた。



そして天白の攻撃が盾に直撃すると雷の盾は空気中に分散して消え、ゼウスの腹部を深く斬り裂いた。





「ゲホッ!!」

「痛みなど久しいだろう。 我らも同様であるぞ。」





消えた記憶が一瞬にして蘇ったのだ。



誰もが奮戦しているが神族達は過去の記憶の責任を感じている。



スサノオもツクヨミも虎白も天白も。



ルシファーの死は自分達の責任だと思っている。



彼だけではない。



あの大戦で戦死した多くの神族の事を今思い出したのだ。





「くっ・・・に、逃げねば第八感・・・」





ゼウスが体を雷に変えた時だった。



どこからともなく響いてくる美声。



鈴や鐘の音色が美しく響き渡る戦場。



ゼウスの顔は一気に青ざめてその場に立ち尽くしていた。





「はいーやっはいっはいっ!! いよっ!! 鞍馬ー天白っ!! いよっ!! あ、それっ!!」





美声が聞こえるやいなや天白の体の周りからは白い煙が出始めている。



白いが金色にも見える煙は天白の力を増幅させていた。



「満天亜狩!!」と声を出して回転していく天白の攻撃はゼウスの腕を斬り落とした。






「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

「往生せよ。」

「ま、まだ逃げ切れる・・・第八感!!」





ゼウスは雷を空から大量に降らせていた。



これには天白も防ぐ他なかった。



だがその状況においても美声と音色は響き渡り近づいてきている。





「はいーやっ!! いよっ!! それっ!! 我らのー!! 御大将のお出ましー!!」





美声を聞くとゼウスは雷となって空中に飛んでいた。



天白の出現から逃げ腰のゼウスは美声を聞くとさらに逃げ腰となってもはや虎白を討ち取る事を忘れていた。



雷となって雲へ逃げていくと天空では雲が焼け落ちていた。



衝撃的な光景を目の当たりにするゼウスはそれでも逃げようとしていたが雷までも発火して地面へと垂直落下してきた。



大の字で倒れるゼウスの喉元に天白が刀を突きつける。



ゼウスが見上げると空中で静止している絶世の美女がじっと睨みつけていた。





「あ、アマテラスー!!!!!!!!!!!!」

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