第5ー5話 強国へ勇躍の兆し

 人とは出会う事によって輪が広がる。



出会う事によって新たな発見や、強力な何かを手に入れたりもする。



虎白は今ここに新たな出会いをしようとしていた。



日本神族が海外の人間と出会う瞬間というわけだ。



喧嘩から出会う事になったこの奇妙な出会いは運命的なものになった。



 虎白に呼び止められて困惑した様子の金髪美女は男共と顔を見合わせていた。



白陸の特殊部隊となってほしいという誘いは、あまりに突然で返答に困っていた。



思わず隣に立っているサンタの様な髭を生やす男と顎髭あごひげを生やす大男の顔を見ている。




「ど、どうしようジェイク・・・」

「いいんじゃねえかエヴァ? これで仕事にありつけるってわけだし、ここはヒーローの国だぜ?」




 ジェイクと金髪美女に呼ばれた顎髭は嬉しそうに誘いに乗ろうとしている。



一方でエヴァと呼ばれた白人の金髪美女は困惑していた。



サンタの様な顔髭はうなずいたままだ。



 すると虎白が近づいてきて片手を差し出した。



握手を求める虎白は仲間になってほしいという表情で見つめている。



先程までの鋭い眼力から一変して子供の様に澄んだ瞳で見つめている様子に驚いたエヴァは思わず握手をした。




「歓迎するぞ。 エヴァって言ったな?」

「あーはい、あ、あのお・・・うちらは問題児ばかりでどこにも仕官できなくて・・・」




 仕官しかんとは軍人でいう就職内定の様な事だ。



酒に酔って竹子の腕を掴む様な気性の荒い彼らはどこの国からも、門前払いを受けていた。



だが虎白は彼らの度胸に惹かれた様子でエヴァ達を白陸に迎え入れる事にしたのだ。



 笑みを浮かべる虎白は問題児ばかりの男共を見てジェイクを指差すと、顔髭にも指差した。




「お前ら二人がエヴァの両腕か? 顎髭と顔髭な」

「お、俺はホーマーだ!! こっちはジェイクでエヴァ!!」

「横文字で覚えづらいからよお・・・」




 そう話す虎白は竹子と顔を見合わせて笑っていた。



こうしてエヴァとジェイクとホーマー以下数名の問題児は白陸に加入する事になったのだ。



 やがて宴もたけなわとなり祭りは大盛況のまま、終わった。



後日エヴァは改めて白陸入りとなった事を再確認するために虎白の元を訪れていた。



金髪が綺麗に風になびくが、右目を隠している様子はどこか不思議にも見えた。



 やがて虎白が出迎えると、エヴァはぎこちない会釈をしている。



片手を上げて笑みを浮かべる虎白が手招きをすると、城の中へと案内されていった。



エヴァにとって見慣れない和風の作りである白陸は興味をそそるものと言えた。



 周囲を見ながら高揚した様子で歩いているエヴァだったが、突如立ち止まった虎白を不思議そうに見ていた。




「ここは中庭だ。 お前の特技はなんだ?」

「え、ええ? 銃を使った戦闘ですが・・・」

「じゃあお前の腰につけている拳銃で腕を見せろ」




 中庭で弓術の稽古をしていた尚香とロキータは縁側えんがわに座ると、虎白と共にお手並みを拝見していた。



緊張した様子で腰につけていた拳銃を取り出すと、的に向かって構えた。



そして発砲音が響き渡ると、直ぐに静寂に包まれた。



 突然の発砲音に驚いたロキータは尚香のふっくらとした胸に顔を埋めていた。



腕を組んで見ていた虎白は立ち上がると、エヴァが撃ち抜いた的へと歩いていったが、驚いた様子だ。




「お前すげえなあ。 寸分の誤差もないぞ・・・」




 撃ち抜かれた的は穴が一箇所空いているだけだ。



しかしエヴァが放った銃弾は三発。



銃弾は全て僅かな誤差もなく的を通過したというわけだ。



その光景に尚香も着物の袖を口に当てていた。



だがそれよりも驚いた事は小型の銃という兵器に対してだった。




「何あれ・・・雷鳴の様な音と共に見えない速さで的が・・・」




 天上界は技術の進歩が下界よりも遅れていた。



近代の者は未だに霊界を彷徨っているがために天上界に訪れる者が少ない事が原因だと言われている。



その事から尚香は初めて見た拳銃に驚愕していた。



腕を組んで満足げな表情をしている虎白は何度もうなずいている。




「近代戦闘の技術と知識は大きい。 エヴァは俺達に大きな力を与えてくれた様だな」

「い、いやそんな・・・うちらはカタナとか使えませんし・・・」




 銃という武器は天上界に存在してはいるが、優子が亡き新納から授かったエンフィールド銃などが主流というわけだ。



現代では骨董品に等しい古い武器だが、天上界では未だに使われている。



 そして武器の進歩が遅い理由として上げられるのが、ミカエル兵団の存在だ。



彼女らは全ての天使達が特殊な弓矢を携行している。



放たれば眩い光りを放ち、射抜かれた物は鉄であろうと砕かれてしまうのだ。



第六感という力を弓矢に宿して戦うミカエル兵団の彼女らには銃の必要性がなかったというわけだ。



 だが、かの驚異的な力は誰もが使用できるわけではない。



人間には銃という武器が必要なのだと、虎白はうなずいていた。



エヴァの細い肩に手を置くと、優しく微笑んでいる。




「期待しているぞ。 城の近くにお前らの住居を建ててやる。 そしてエヴァは俺の仲間として竹子達と力を合わせてほしい」




 言われるがままに、こくこくとうなずくエヴァは従順にも見えた。



だが当人は問題児を多く抱える自身らを受け入れてくれたという感謝の気持ちで、飛び上がりたくて仕方なかったのだ。



 すると虎白が突如として顔を近づけてきたではないか。



たまらず後退りするエヴァを見て、首をかしげる虎白は金髪で隠されている右目が気になっている様子だ。




「お前どうした?」

「い、いやあ・・・」

「見せたくないのか? 悪かったな。 少し気になったからよ」




 エヴァはどうしても右目を見せたがらなかったのだ。



するとクリームの様に白くて綺麗な顔が一気に沸騰したかの様に赤くなると、足早にその場を立ち去ってしまったのだった。




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