第5ー4話 喧嘩祭りの出会い

 華やかに彩られている白陸の町並みで、街道に屋台が連なり人々が楽しげに祭りを満喫している。



虎白は竹子と手を繋ぎながら屋台を見て歩いていると、お待ちかねのりんご飴を手に入れた。



嬉しそうに舌で舐めている竹子の可愛らしい表情に安堵したのか、虎白はたこ焼きを片手に木製の長椅子に腰掛けた。



 隣りに座ってりんご飴を食べている竹子の頬を優しく触りながら微笑むと、いつもの様にどこか遠くを見ている。




「楽しいねえ」

「ああ、こんな時間が永遠に続けばいい。 そのために俺は歩みを止めるつもりはない」




 平和な祭りで賑わいが途切れる事のない人々を見ながらそう語った。



その強烈なほどに鋭くも美しい眼差しで遠くを見ている虎白が求めているのは、戦争のない天上界だ。



 白陸の平和は始まりにすぎないのだと眼光で語っている虎白の隣でりんご飴の様に頬を赤くしている竹子はどこか嬉しそうに、愛する者の肩に頭を置いた。



どうか永遠に続いてと心の中で願っている。



 すると鳥人族の戦士長の鵜乱が肉串を口に咥えながら楽しげに歩いてきた。



隣で綿あめをむしゃむしゃと食べながら笑っているのは、先日白陸に加わったフェネックの半獣族である春花しゅんかではないか。



虎白と竹子に気がついた鵜乱は笑顔で手を振りながら近づいてくると、長椅子に腰掛けた。




「私はこの子に惚れてしまったんですの」

「ええ!? そう言えば、春花の戦闘機をどうにかして用意できないかって思っている」




 長椅子から地面に足が届かずに、ぶらぶらと足を振りながら綿あめを食べている姿はただの少女だ。



しかしこんな春花は自身がパイロットだと話していたのだ。



 だが天上界で戦闘機を保有している国家などなかった。



困った表情で戦闘機をどうにかして手に入れようとしている虎白はたこ焼きを豪快に口に放り込むと、日本酒を浴びる様に喉を鳴らして飲んだ。




「そうだなあ・・・設計ができるやつがどこかにいるんじゃねえかな」

「探しに行く?」

「とりあえず天王の王都でも歩いてみるか。 一番人口が多いし」




 メテオ海戦から一週間ほどが経過した天上界は平和を取り戻し、人々は虎白を「英雄」と称えていた。



当人はそんな事よりも、さらなる国の発展に向けて春花の戦闘機を製作しようと試みた。



 だがまずは今日の祭りを楽しもうと、立ち上がり竹子や鵜乱を連れて屋台を回った。



白陸の祭りは盛大に行われた事で周辺国からの観光客まで入ってくる始末だ。



人で溢れかえっている祭りだが、人と酒が交われば決まって起きる事がある。




「てめえいい女連れて調子乗るなよ?」




 ビールを片手に顔を赤くして虎白に近づいてきたのは、白陸では見かけない白人の男だ。



まるでサンタクロースの様な立派なブロンドの髭にビールと喚き立てた唾液を付着させて、睨みつける酔っ払いは竹子を気に入ったのか虎白に喧嘩腰で顔を接近させた。



すると男の仲間であろう体格の良い男達が集まってくると、虎白を囲んでいるではないか。



 今にも殴りかかってきそうな雰囲気を出している酔っぱらい共であったが、虎白は至って冷静な表情でたこ焼きを一口で食べた。



隣に立っていた竹子はりんご飴を片手に虎白の着物を掴むと静かに首を振っている。




「ダメだよ?」

「まあ不死隊の連中を見てからこいつら見てもなあ」

「殴っちゃダメだからね?」




 メテオ海戦や霊界での戦いを経験している虎白が今更、酔っぱらい程度に怒る事も怯える事もないはずだが、竹子に触れたら愛する者を守ろうと殴り飛ばすという事は明白。



それを心配した竹子は酔っぱらいでも一般人である彼らから遠ざけようとしていた。



 だが白人の男共は竹子が恐れていた事をしてしまったのだ。



白くて細い腕を強引に掴むと、自身の近くに竹子を引き寄せた。



落としてしまったりんご飴に気づいていない男共は踏みつけていた。



そして次の瞬間には竹子を掴んでいた男の一人が吹き飛んだ。




「黙って聞いてれば調子乗ってるのはどっちだ!?」




 強烈な拳を振り抜いた虎白を見た男共は唖然としていた。



一見すると女の様にひ弱な細い体つきの虎白が格闘家の様に大きくて、たくましい男を一撃で吹き飛ばしたのだ。



竹子を自身の元に引き戻すと、数人の男達と今にも喧嘩を始めそうではないか。




「虎白ダメだよお・・・」

「祭りに喧嘩は付き物だ。 これも娯楽の一つだよなあ? 男の子だもんなお前らも」




 その言葉を聞いた男達はどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら、シャツを脱ぎ捨てて上裸になった。



鍛え抜かれた屈強な肉体はただの素人とは思えないほどに仕上がっている。



どちらが先に殴りかかるかという空気感と野次馬達の盛り上がりが最高潮に達したその時だ。



 金髪の女が割って入ってくると男共に平手打ちをしている。




「す、すいません!! うちの連中が失礼な事しちゃいましたかね・・・」

「いや、遊んでいただけだ。 一つ言うなら女の腕を強引に掴むのは気に入らねえな」

「こいつら酔うといつもそうなんですう・・・」




 そう話している金髪の女はモデルの様に綺麗な体型をしていた。



愛想も良く、こんな下品な男共を「うちの連中」と言ったのだ。



 虎白はその言葉が気になり彼女に近づくと、白陸の皇帝である事を明かして自己紹介を始めた。



驚いた金髪の女は両手を口に当てて、青ざめている。




「こ、殺されるやん・・・」

「そんな事しねえよ。 お前はこいつらのなんだ?」

「うちら今は放浪しているだけなんですが・・・昔からの友達で全員がかつては特殊部隊でした」




 そう話した金髪の美女はどこか自慢気に笑うと、男共を連れて帰ろうとしている。



だが虎白は美女を呼び止めた。



男共は美女の護衛かの様に左右に立つと、腕を組んでいた。




「行く宛がないなら白陸の特殊部隊になってくれよ」






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