第4ー12話 想定外の大乱戦

 何がそこまで殺し合いにさせるのか。



生まれ育ちそして死に第二の人生を始めた者達は既に世界の残酷さを第一の人生で嫌というほど味わったはずだ。



 だがそれでもこうして命の奪い合いを始めてしまう彼ら彼女らの原動力はなんなのか。



そう考えている虎白は自身なら何が原動力で殺し合うのかと問いただしていた。




「消えた記憶か・・・いや違うか・・・正義? いやそれは違う・・・」




 ぶつぶつと独り言を話している虎白の隣で竹子と優子が小さくて可愛らしい顔を見合わせてうなずいている。



 その奥で莉久は凛々しい表情をしては虎白と目が合うと丁寧に一礼しては可愛らしく微笑んだ。



後ろを振り返れば甲斐が自慢げな表情で笑い、魔呂があなたを信じていると言わんばかりの視線を向けている。




「守りたい存在のためか。 でもみんなが何かのために戦ってるから最後まで俺が勝ち続けねえと何も守れねえか。 だから戦うんだよな。 手を血で染めてでも守りてえから」




 もう十分理解した。



その様な表情で自身の胸元を力強く叩くと、アレクサンドロス大王の号令を待った。



全身の血が凍りつく様な緊張感が何十万もの兵士達を襲っているこの異様な空間で虎白は静かに鞘から刀を抜いた。



 馬上で二刀流で構える虎白が天空を見上げて大きく息を吸い込み、小さく吐くと次の瞬間に征服王の大号令が静寂を破った。




「皆の者!! 我らの天上界を守るのだ!! 誇りを胸に勇気を手にして戦え!! そうすれば皆が勇者となる!! アレクサンダーはここにいるぞ!!」

『我らはアレクサンダー!! 我らはアレクサンダー!!』

「勇者であれー!!!!!!」




 征服王の話す皆がアレクサンダーとはまさにこの事だ。



戦場に来て守りたいものを失わないために誇りと勇気を持って戦う将兵に敬意を払いアレクサンダーと呼ぶ大王は自身が誰よりもの勇者であると証明するために最初に馬蹄を響かせた。



 それに付き従うアレクサンダー達は征服王から二馬身ほど距離を取って追従していく。



勇者の中の勇者である征服王が必ず最初に敵を倒すのがマケドニア軍の掟でもあった。



虎白達から左が一斉に走り始めると、皇帝と白陸軍も突撃を始めた。




「甲斐!! 乱戦が激化するまで動くな!! 奇襲は任せたからな!!」




 そう言い残すと、白陸軍も不死隊目がけて進んだのだ。



馬蹄の音と足音が轟音となり、兵士達は恐怖心を殺すために悲鳴混じりの咆哮を上げている。



 足を前に出せば出すほど近づいてくる髑髏の仮面の不死隊が迫る中で虎白は前に飛び出すと体を丸めて一つの刃物の様になって不死隊を斬り捨てた。




「怯むな!! 進め!!!! 不死隊なんて名ばかりだ!!!!」




 双方の鎧や武器が激しくぶつかる金属音と喧騒が麗しい平原で響き渡っている。



不死隊は倒れ、天上軍も倒れていく。



二刀流を自在に操る虎白は竹子と優子姉妹や莉久から離れずに戦った。



 髑髏の仮面から覗かせる血眼を斬り捨てるたびにテッド戦役での惨劇を思い出す虎白は竹子達を失いたくないという恐怖心をかき消すために刀を激しく振るった。



 こうしている今もアレクサンドロス大王も勇敢に戦っているはずだ。



しかし虎白は乱戦の中である事が気になっていた。



不死隊を斬り捨てて竹子と背中を合わせると口を開いた。




「あのアルテミシアって女は大王を狙いに行ったかな?」

「はあ・・・はあ・・・見てないね。 とにかく押し崩そうよ」




 アルテミシアの行方を気にしている虎白であったが、ふと周囲を見渡すと白陸兵が次々に不死隊に討たれていた。



兵士単体の戦闘能力は不死隊の方が勝っているという事だ。



その事に気がついた虎白は莉久に向かって叫ぶと兵士達の援護に行く様に話した。




「ダメだこいつら結構強いぞ。 俺達がまとまっていたら兵士が死ぬ。 一旦離れるぞ。 みんな気をつけてな!!」




 数を減らしていく白陸兵を援護するために虎白、莉久、竹子、優子は離れていった。



想定外なるは霊界での戦闘経験もあり第一の人生から戦いを何度も経験している白陸兵を圧倒できる不死隊の強さであった。



 たまらず虎白は近くで弱っている兵士の腕を掴むと言葉を発した。




「おいお前は一度白陸軍の陣地へ戻れ。 甲斐と魔呂を呼んでこい!! 後は夜叉子に任せると言え!!」




 弱っている兵士は荒い呼吸をしたまま、うなずくと乱戦の中を戻っていった。



こうしている今も白陸兵が倒れ続けていた。



乱戦の中にいる場合どちらが優勢なのかまるでわからなくなるのだ。



激しい戦闘が続く中で近くの兵士達の様子で新たな対応策を即座に判断できる虎白は恐ろしく冷静である。



 やがて虎白達が離れて戦っている事もあってか、倒れる白陸兵が減り始めている時だ。




「何か大きな反撃が必要になるな。 そろそろ迂回する部隊を動かすか・・・いや、それは夜叉子に任せるとしよう・・・」




 想定外の不死隊の強さを前に急遽、甲斐と魔呂を前線に呼び出した事で奇襲部隊の指揮は夜叉子に託された。



 だが虎白は夜叉子という女の人間性は理解しているが、戦場でどこまでの活躍ができるのかは未知数であった。



不安を胸に戦っていると離れた所で戦っている竹子の透き通る声が響いた。




「私が倒します!! 皆さんは他の兵を!!」




 かと思えば優子も似たような事を大きな声で発している。



それどころか莉久までもだ。



不審に思った虎白は乱戦の中で周囲を見ていた。



 すると突如首を掴まれて地面に押し倒された虎白の視界には短剣を手にした不死隊が今にも喉を切り裂こうとしているではないか。



 慌てて兜で頭突きをして怯ませると直ぐに刀を振り抜いたが、不死隊は見事に空中に舞って避けたのだ。



明らかに他の不死隊よりも練度の高い敵を前に虎白は落ち着いて刀を握った。




「竹子達の元にも行ってるってわけか」




 まるで忍者の様に乱戦の中で暗殺を繰り返している不死隊の中の精鋭は髑髏の眼から見せる冷たい眼力を向けていた。



かの者らに虎白や竹子達が釘付けになると白陸兵達はまたしても大勢が倒れ始めた。



 絶望的に思えた戦場で聞き慣れた爽やかな声が戦場に響くと、不死隊が数人まとめて空中へ吹き飛んだ。




「どっけええええ!!!! 虎白来たぞー!!!!」

「甲斐、魔呂!! 白陸兵を援護しろ!!!!」




 甲斐と魔呂が到着した事で崩れかけた戦線は再び息を吹き返したのだった。

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