第4ー11話 礼儀正しき侵略者

 景色とは様々な物が情景に映り込んでいる事から美しく見える。



広い平原も緑だけではなく、そこに綺麗な青空があり白くて柔らかそうな雲が写っている事でのどかさを生む。



美しい景色を台無しにする物は本来その場に写る必要のないものだ。



 虎白とアレクサンドロス大王が見つめている視線の先に写る麗しき天上界の平原の景色に明らかな邪魔者がいる。



それが冥府軍である。



 国々を散々に蹂躙した冥府軍が次なる町を攻撃するために移動している所を道を閉ざす様に布陣したマケドニア軍と僅かな有志達。




「鞍馬と言ったな? 貴様とは意見が合わないが利口と見た。 この戦場で勝機はあるか?」

「なくてもここで食い止めねえと次なる町が蹂躙されるぞ。 勝てるか不安なら天王を呼んでこいよ」




 そう愛想なく返した虎白を横目に高笑いをしている征服王はやはりお前とは意見が合わないといった高笑いなのだろう。



眼前に広く布陣している漆黒の軍団をこの場で撃退して中間地点にでも追い返さなくてはか弱き民がこの先どれだけ蹂躙されるのだろうか。



 馬上で話し合う征服王と日本神族はこの局地戦での活路を模索していた。




「大軍を有するお前はこのまま乱戦でもやってろ」

「それで貴様はどうする?」

「俺らも一部は乱戦に入る。 僅かな部隊を奇襲に使う」




 そう話すと虎白は白陸軍の陣地へと入っていった。



天上界の運命を託された征服王と日本神族が布陣する広大な平原は山や川まである巨大な土地である。



虎白は白陸軍と共に地形を活かして冥府軍を撃退するつもりだ。



陣地の中に入って仲間達を集めると作戦の話しを始めた。




「俺と竹子に優子、莉久は兵力の大部分を連れてマケドニアと共に戦う。 甲斐と魔呂に鵜乱、夜叉子とお初は少数精鋭を連れて向こうの山から迂回して奇襲しろ」




 部隊を二手に分けて戦う事を決めた虎白は皆の美しい顔を眺めると力強くうなずいた。



 白くて小さい顔を隠してしまうほど立派で大きな鎧兜を身に着けている彼女らを心から頼りにしている神族は馬にまたがると鎧の帯に差している刀を抜いた。



平原に広がる漆黒の軍団を倒す事で天上界の侵攻を食い止めるという大決戦を前に緊張した様子だ。




「負ければ俺らは終わりだ。 天上界も蹂躙される。 まあきっと天王達が倒すんだろうがな」

「頑張ろうね虎白。 天王様が勝っても、その頃には私達は死んでいるよ。 だからここで勝とうね」




 アレクサンドロス大王の傲慢な誇りのためにこの平原で勝利する他ないというわけだ。



そう考えると刀を握る手が震えていた。



隣に立つ竹子や優子に莉久もまた同じ表情をしている。



 一同が布陣する場所からさらに左で大軍の先頭に立っている征服王は赤い鶏冠を風になびかせて堂々と剣を抜いた。



 漆黒の冥府軍は徐々に迫ってきて、髑髏の仮面が肉眼でも見えるほどの距離にまで近づくと不気味な静寂を保った。



緊迫した空気の中で天上軍の眼前に何か大きな物が飛来してきたではないか。



やがて地面に落下してくると漁師網に包まれた何かが無惨に転がっていた。



その光景をアレクサンドロス大王も虎白も不思議そうに目を凝らして見ている。




「死体か?」

「見に行ってみる?」

「危ねえけど今から乱戦するのにあんなの邪魔だな。 どかしに行くか」




 虎白と竹子がそう話すと馬を走らせた。



すると左からアレクサンドロス大王も将軍を連れて前へ出てきたが、落下地点へ辿り着くと驚くものが転がっていたのだ。



 漁師網に包まれて無惨に転がっているのは人の亡骸ではないか。



だが壮絶な断末魔を上げたであろう亡骸達は髑髏の仮面が砕かれて死んでいる。



彼らは冥府軍の将軍やその兵士達だったのだ。



 味方を殺したのかと不可解な行動に困惑する一同は互いに顔を見合わせると冥府軍の陣営から一人の黒髪の美女が出てきた。




「そいつらは民を虐殺した将軍だ。 無礼な事をしてすまなかったな。 私は総大将のアルテミシアだ。 我が兵は不死隊と呼ばれている精鋭だ。 ここからは醜い戦略抜きで天上界を征服させてもらう」




 爽やかな口調で話したアルテミシアと名乗る女司令官は自身の部下を八つ裂きにして殺しては天上軍に送り届けたというわけだ。



彼女が言う「不死隊」なる髑髏の仮面をした精鋭の中でアルテミシアの命令に反した将軍はこの有様。



 天上界に暮らしている民の大虐殺は無能な将軍による独断行動だと話すアルテミシアは潔く謝罪するとくびれた細い腰に差している双剣を抜いて刃先を天上軍に向けている。




「無礼を許してほしい。 殺された民はお前達を滅ぼした後にお前達と共に埋葬させてもらう。 さあ!! けりつけようか!?」




 どこか自信すら感じさせるアルテミシアの優雅な振る舞いは虎白とアレクサンドロスの闘争心を刺激させた。



彼女の態度に笑みを浮かべた虎白は征服王の胸元をぼんっと叩いた。



するとアレクサンドロス大王も日本神族の肩をぼんっと叩き返した。




「あんな事言ってるぞ!?」

「悪くない女だな。 だが彼女は我らが勇者でありアレクサンダーだと言う事をわかってないな」

「何言ってんだお前? アレクサンダーだ?」




 鼻で笑う虎白は遠くを見て勇ましい表情をしている勇者の背中を叩くと、白陸軍の陣営に戻っていった。



 広大な平原で睨み合う天上軍とアルテミシア率いる不死隊の軍団による大乱戦が間もなく開戦の火蓋を切ろうとしている。



両軍合わせて百万とも百五十万とも言われる大激戦が今まさに始まるのだった。

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