第4ー6話 亡き親友の妹
アレクサンドロス大王が突如訪問した事を呑気に話しながら白米を口に運ぶ虎白の話しを聞いている竹子は笑みを浮かべていた。
朝食を堪能している場に次々と甲斐や優子に夜叉子などが部屋に入ってくると、椀に白米をよそって食べ始めた。
家族の様に集まって食事をしている皆は南側領土の最高責任者を小馬鹿にした様子だ。
「偉そうに何が征服王だよな」
「あたいが背後についた時の顔見たかあ!?」
そう言いながらアレクサンドロス大王の驚いた顔真似をしている甲斐を見て笑う一同の食卓は賑やかであった。
建国されたばかりの白陸帝国の正規軍の話しを持ち出した虎白の話しを真剣に聞いている家族達は今後の目標である富国強兵を考えていた。
同時に国内の商業、農業にも力を入れている。
「さすがに正規兵全員に鎧兜を支給するほど生産力はねえなあ」
「足軽みたいに菅笠でいいんじゃない?」
当面の間は兵士達には菅笠と薄い鎧程度しか支給できないというのが建国間もない白陸の現状であった。
朝食を終えた一同は国内の運営を行うために散らばっていった。
竹子や優子に夜叉子などは内政面に集中している。
虎白と甲斐や莉久などは軍事面に集中して富国強兵を目指す事となった。
やがて虎白は純白の菅笠と薄手の鎧を用意させると、兵士達に配り始めたのだ。
数週間かけて用意した軍装は白で統一された美しい軍隊へと姿を変えた。
整列している純白の兵士を見ては満足げに腕を組んでいる虎白はいよいよ正規軍の訓練だといった表情をしている。
「これで軍隊らしくなったな」
「ええ、訓練は僕が担当しましょう。 虎白様は国主となったのですから天上議会に出席など色々と面倒ごとがありますので」
そう莉久がオレンジ色の唇を動かしながら話した「天上議会」とはゼウス配下の全ての国主達が集まって話し合いをする場だ。
中性的な美青年の話しを聞いた虎白は一気に表情を歪ませている。
「行きたくねえ」と言葉を発しようとした皇帝の真っ白な口を手で抑えた莉久は首を左右に振っては微笑んだ。
「いけませんよ」
「なんだよ俺の言う事わかるのかよ」
「そうだ虎白様。 嬴政からある女が派遣されてくるでしょう」
「ああ? 誰だよ?」
生真面目な性格である嬴政から女の派遣とはあまりにも珍しい。
そう感じた虎白は何事かと眉間にしわを寄せていた。
だが莉久は言葉を詰まらせては黙り込んでしまった。
早く言えよと顔を近づけて訴える虎白の美顔を見た莉久は恥ずかしそうにもじもじと体を動かしながらも言いづらそうにしていた。
「ち、近いです虎白様・・・」
「その女って誰なんだよ?」
「そ、それは虎白様の亡き親友の妹ですよ・・・」
下界で人間の中に封印されていた虎白の記憶は断片的に復活してはいるが、全てではない。
亡き親友と言われても誰の事か思い出せずにいた。
すると来訪者を知らせる法螺貝の音色が響き渡っている。
恐らく亡き親友の妹なのだろうと虎白は城門へと歩いていった。
やがて城門へ行くと、和装ではなく嬴政同様の中華圏の着物に身を包んだ美女が暗い表情をして立っている。
「久しぶりね虎白。 二十四年もどこへ行っていたの?
美しい女が黒髪をなびかせて暗い表情を精一杯笑顔に変えて見せたが、虎白は驚いた表情をして硬直した。
そして次の瞬間には頭を押さえつけて倒れ込んだではないか。
門番の衛兵達が慌てて駆け寄ったが、中華の着物を着ている尚香と名乗る女は落ち着いた表情をしていた。
「昔から虎白は頭を痛がるのよね。 治っていないのね・・・兄様も心配していたわ」
尚香が話す昔とは虎白が人間の中に封印される二十四年前よりも更に前の事を言っている。
近くで話しを聞いていた莉久は何かを思い出したかの様に口をぽかんと開くと「僕もそうだった」と驚く事を話したのだ。
突如襲いかかる頭痛が虎白を襲うと必ず記憶が蘇る。
しかし莉久も頭痛が来ると話すと謎は深まる一方ではないか。
騒ぎを聞きつけた竹子が駆け寄ってくると、莉久は自身にも頭痛が来ると話した。
「ええ?」
「僕は虎白様ほどではないんだ。 ただテッド戦役で冥府軍を見た時に僅かにな。」
「ど、どういう事なのかな。 莉久は何か思い出したの?」
「い、いや・・・サタンがかつて天使だった頃の美しい姿が見えた程度だ・・・」
まるで要領を得ない莉久の言葉に困惑する竹子もまた深まる謎に迫る事はできなかった。
一方で頭痛に苦しんでいた虎白は落ち着きを取り戻すと尚香の元へふらふらと近づいていった。
尚香の兄はかつて虎白と旅をしてテッド戦役でサタンに討ち取られた一人だ。
「思い出しぞ尚香・・・悪かった・・・伯符は・・・」
そしてその妹である尚香は長年、嬴政の元にいたのだが白陸の建国に合わせて送られてきた。
尚香は弓術に優れ、海軍の指揮能力まで有している。
その上民政家である尚香は国の運営に不慣れである虎白の仲間達にはありがたい人材として嬴政が気を利かせて派遣した。
「私は昔から虎白の事が好きだったから白陸に来られて嬉しいよ。」
尚香がそう話すと竹子は着物の袖で口元を隠すと、微かに眉間にしわを寄せて下を向いている。
美顔と色素の薄い肌をしながら勇敢で優しさのある虎白は女に好意を持たれてばかりというわけだ。
嬉しさと嫉妬心で黙り込む竹子はぎこちない笑顔で尚香に会釈をしたのだった。
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