第4ー7話 天王への懇願
白陸帝国の国主となって晴れて天上界の国主の一員に加わった虎白はゼウスの元に集まる東西南北全ての領土の国主達が集まる「天上議会」へと出席していた。
天王が治める王都オリュンポスへと訪れた虎白は竹子を連れて長い階段を登っている。
すると階段の下から低い声を響かせて駆け上がってくる者が声を近づかせくる。
聞き覚えのある声を耳に下虎白は振り返ると征服王ことアレクサンドロス大王が熱苦しくも駆け寄ってきたではないか。
やがて隣にまで来ると変わらず勝ち誇った表情で笑みを浮かべている。
「我に挨拶はどうした鞍馬」
「ああ、またお前か。 早く天上議会へ行くぞ」
そう愛想のない返事で返すと征服王は高笑いをしながら虎白の女の様に細い肩に腕を回すと階段を登り始めた。
我の方が立場が上なのだと態度で示してくるアレクサンドロス大王は背中を何度か力強く叩いている。
激しく背中を叩かれた事を不快そうに眉間にしわを寄せている虎白は無言のまま、階段を登っていたが偉大なる大王が素朴な疑問を投げかけた。
「お前は神族だと言うのか?」
「そうだよ。 日本神族だ」
「馬鹿馬鹿しいな。 そんな者が存在するはずもない。 ゼウス様などのギリシア神族以外は存在しない」
そう話しながら階段を登りきってゼウス神殿へと入っていった。
アレクサンドロス大王の背中を見つめながら立ち止まっている虎白の様子を心配そうに見ている竹子は滑らかな手で頬を触ると優しい眼差しを向けた。
征服王の言葉に対して何も言い返せなかった虎白はこの天上界に存在している日本神族が自身と莉久以外の誰もいない事を疑問に思っていた。
莉久の話では故郷の安良木皇国は到達点の門の奥にあるのだが、その場所へ行くには天上界で死ぬ他ないと話している。
では何があって故郷からこの天上界に来て、下界で人間の体の中に封印されていたのだろうか。
天上議会の会場を前にして虎白はこの疑問をどうしても天王ゼウスに問いたかった。
やがて各国の国主達が席に着くと緊張した様子の竹子が白くて綺麗な手を虎白の手に繋がせている。
「き、緊張するよお・・・」
「大丈夫だよ座ってればいい。 ゼウス達が勝手に喋っているだけだ」
そう笑みを浮かべて話す虎白だったが、竹子が各国の国主を見ると優雅な衣装に身を包んだ国主達の隣で同じく凛々しくも美しく同席している副官達は誰もが立派に見えていた。
ただの人間であった竹子はこの場に自身が釣り合っているのかと不安げであった。
緊張してもじもじと手を触っている竹子とて鮮やかな着物に身を包んで美貌を各国に見せているのだが、本人の心境ではそうではない。
各国の者達が見慣れる美女に視線を向けているのだが本人は侮られているのではと自信がなさそうだ。
「大丈夫だって。 お前は俺の自慢だ。 連中が見ているのは竹子が可愛いからだよ」
「そ、そうかなあ・・・狐の神族の副官が人間の私だから滑稽に思われているんじゃ・・・やっぱり莉久の方が・・・」
そう話す竹子の手を力強く握ると首を左右に振っていた。
お前がいいんだと視線を向ける虎白に赤面した美女は静かにうなずくと姿勢を正して少しでも恥じない様に務めた。
しばらくするとゼウスが雷の玉座に座り、ミカエルが光りの椅子に座ると軍神アテナの進行で天上議会が始まった。
それは噂されている冥府軍の襲来についての話しだが虎白は自身の過去について気になって仕方がない様子である。
「という事で南側領土の者達はアレクサンドロスの指揮に従う様に。 これにて天上議会を終える」
議会が終わると、飛びかかるほどの勢いでゼウスに近づくと真剣な眼差しを見せた。
方や天王は驚いた様子を見せたが、直ぐに優しい笑みを浮かべて白い髪の毛が神秘的な頭をなでている。
ミカエルやアテナが何事かと視線を向ける中でゼウスは人払いを命じて、二柱だけの空間を用意した。
「て、天王・・・」
「我らだけの時はゼウスで構わないぞ」
「お、俺はどうして記憶が戻らないのかな・・・」
そう声を震わせている虎白を哀れんだ目で見ている天王は雷の玉座に深く腰掛けると、低い声で唸っている。
どうにかしてこの迷える日本神族を救いたいといった表情で黙り込む雷神である最高神は手のひらに小さな雷を発生させて青い閃光を眺めていた。
消えた記憶を求めている虎白は藁にもすがる思いで尋ねている事は今にも泣き出しそうな表情を見れば直ぐにわかる。
「可愛そうな鞍馬よ。 すまないがお前達は成人前から天上界にいる事しか知らんのだ。 どうやって故郷を離れて天上界へ来たのか我の方が知りたいくらいだ・・・」
頼みの綱であるゼウスですら何度尋ねられても知っている事以外は話せなかった。
落胆する虎白の細い体を優しく抱きしめると頭を何度かなでている。
途方に暮れる日本神族はとぼとぼと神殿の外で待つ竹子の元へ歩いていった。
その切ない後ろ姿を見ている最高神はいつもなら竹子に声をかける所だが、あまりに哀れな姿にかける言葉すら浮かばなかった。
戻らない記憶に苛立ちすら覚える虎白は今できる事を行う他なく、白陸帝国の発展と冥府軍の襲来に備えるのだった。
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