第4ー2話 傷の癒やし方
ツンドラ帝国が事実上滅亡した事で虎白の元へ保護される形となったメルキータとツンドラの民達は建国を目前に控えた国で行く宛もなく野営地でその日暮しの日々であった。
母の死で落胆している元皇女は愛する民に囲まれていた。
同情の念で包み込まれる空間では重苦しい空気だけが漂っている。
しかしそんな暗い空気の中を歩いてくる者の姿があった。
「ツンドラのメルキータ皇女よね?」
「あ、あなた?」
「私は友奈って言うの。 よろしくね」
ぎこちない笑顔を見せるのはこれもまた特にする事もなく成り行きで虎白に保護された友奈ではないか。
似た境遇の彼女らは互いに自身の身に起きた悲劇を話し合った。
種族は違えど意気投合した普通の女と元皇女は夕飯を共にして更に親睦を深めていった。
「まあそういう事で虎白には感謝しているんだけど気まずいのよねー」
「そうだったんですね・・・我々とて建国間近の国に突如殺到した難民ですから。 迷惑なのは承知の上ですが、仕方なく・・・」
互いに仕方なかったという理由から虎白と行動を共にしているが、決して嫌っているわけではなかった。
だが新参の立場としても楽しげに話している虎白とその仲間達の輪に入るのは気が引けたのだ。
何よりも友奈もメルキータも悲劇を経験してこの場にいる事から誰もが哀れんだ視線を向けてくるのだが、彼女らはその視線が一番苦しかった。
互いに痛みを分かち合う仲間を心のどこかで求めていた友奈とメルキータは夕日が沈み、朝日が登るまで語り合った。
やがて朝日が彼女らの希望の瞳を照らし始めると、体を近づけて話している元皇女が唐突な提案を始めた。
「ツンドラの民は大勢いるが、虎白さんに管理してもらうのはあまりに無責任だ。 私と友奈で独自の勢力を作らないか?」
その唐突な提案をしている美しきハスキーの美女は灰色の髪の毛を風になびかせて大海原の様に青くて綺麗な瞳を輝かせている。
隣で話しを聞いていた妹のニキータもまた大賛成といった表情で何度もうなずいていた。
そしてこの話しを虎白にしなくてはならないのだが、朝方から視察に現れた神族の狐様が都合良くも彼女らの野営地に立ち寄ったのだ。
メルキータは虎白に飛びつくほどの勢いで近づくと顔を密着させるほど接近させて独自勢力の話しを始めた。
「やっぱり友奈もお前も居心地が悪いか。 確かにツンドラの民は数が多すぎて困っていたんだ。 お前達がそれで少しでも前を向いて歩けるなら構わねえよ」
快諾した虎白の顔を見るやいなや両手を繋いで喜ぶ普通の女と元皇女は爆発しそうな感情をなんとか抑えていた。
すると間もなく皇帝になる虎白が声を発すると「条件がある」と述べた。
条件とは彼女らの独自勢力が天上界で国として認められる事は現実的に厳しいという内容であった。
「友奈は統治も何もできないだろう。 それにメルキータは残念だが犯罪者の妹なんだ・・・すまねえな。 だから俺の国に所属する勢力としてなら恐らくはな」
というのが虎白からの条件であったが、それは今後も神族に守られるという事だ。
話しを聞いた友奈とメルキータは顔を見合わせるとくすくすと笑っていた。
メルキータが犯罪者の妹だという事実は彼女自身が一番重く受け止めていた。
独自勢力の話しを友奈に切り出した段階から虎白の条件に従うつもりであったのだ。
「たったそれだけが条件なの?」
「ああ、領土を与えるがそれも俺の管轄下ってわけだ。 だが統治は好きにやっていいぞ」
虎白の国に守られながらメルキータと友奈の自由に運営できる土地とはまさに楽園の様であった。
飛び跳ねたい気持ちを必死に押し殺して虎白に感謝の気持ちを伝えると白くて可愛らしい耳を下に垂らして首を左右に振っている。
「それぐらいしかできねえよ」と話す即位を目前に控えた皇帝は友奈とメルキータが経験した悲劇を考えれば大した事ではないと話した。
「まあお前らが喜んでくれるならそれでいいさ。 何も俺らと常に行動を共にしろとは言わねえよ。 ただ、定期的に視察には行くから許してくれよ」
虎白の視察に同行している竹子は赤面しては笑みを溢した。
これが私の惚れた神族なんですと顔で話している竹子は虎白の懐の大きさを誰よりも知っている。
いかなる問題が巻き起こっても全て自身の細い背中に背負って誰かを助けようとしているこの男は記憶が消えて、同胞である狐の神族も莉久しかいないという状況だ。
本来なら誰よりも苦しくて困惑しているはずの虎白は苦しんでいる者を救おうとするたびに犠牲が出てそれすらも背負っているのだ。
竹子はそんな虎白が好きでたまらないといった表情で独自勢力の設立が認められた友奈とメルキータを見て微笑んでいる。
そしてここに「宮衛党」と名付けられたツンドラの民達で構成される独自勢力が誕生したのだった。
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